魔法少女の系譜、その27~『キューティーハニー』と口承文芸~
今回は、前回に続きまして、『キューティーハニー』を取り上げます。
ちょっと、前回の内容を、まとめてみましょう。
●『キューティーハニー』は、いろいろな意味で、斬新な「魔法少女もの」でした。
●斬新な点、その一。魔法の力の源が「人工」です。ヒロインのハニーは、アンドロイドですから。
●斬新な点、その二。ハニーは「戦う魔法少女」です。日本のアニメで、「戦う魔法少女」が現われたのは、ハニーが最初です。実写では、『好き!すき!!魔女先生』の月ひかるがいましたが。
●アンドロイドなので、ハニーは、人間の科学の力を使って戦います。このようなハニーの「戦う魔法少女」像は、先行作品の「魔法少女」像と、「戦う女性」像と、「科学力で戦う正義の味方」像とが、合わさって生まれました。
●斬新な点、その三。ハニーには、お色気要素もたっぷり入っています。子供向け(と思われていた)アニメで、お色気要素を入れた作品としては、最も初期のものでしょう。
「魔法少女もの」としては、初めて、男子の視聴者をメインに考えられた作品です。
こんなところですね。思い出していただけたでしょうか?
お色気要素からのつながりで、ハニーは、それまでのアニメの魔法少女の中では、最も年齢が高くなっています。女子高校生です。
実写でなら、『コメットさん』や、『魔女はホットなお年頃』などのように、最初からヒロインが大人の作品がありました。
ハニーは、魔法「少女」としては、ぎりぎりの高年齢ですね。高校を卒業してしまうと、「少女」と言いがたい年齢になってきますからね。
ただし、『キューティーハニー』の頃には、まだ、魔法少女という言葉は、世の中にありません。
ティーンの魔法少女が登場したのは、『魔法のマコちゃん』以来です。マコちゃんは、中学生でしたね。
マコちゃん以外の魔法少女は、みな、小学生でした。
普通に考えて、お色気要素を出すのに、小学生はないでしょう。ハニーが高校生になったのは、妥当だと思います。
もっとも、ハニーの体は、高校生とは思えないほど完璧に成熟していて、色っぽいです。そうでなければ、お色気要素なんて、出せないからでしょうね(笑)
お色気要素は、ハニーの変身シーンに、よく表われています。一度、全裸になって、新たにコスチュームをまとう、という形ですね。高校生の如月【きさらぎ】ハニーが、愛の戦士キューティーハニーに変わります。
「変身シーンが売りになる魔法少女アニメ」としても、『キューティーハニー』は、初めての作品でした。
そもそも、「魔法少女として、決まった姿に変身する」こと自体が、魔法少女アニメとしては、初めてでした。
それまでは、「魔法を使って、何かに変身する」ことはあっても、「魔法少女としての姿」に変身することは、ありませんでした。『ひみつのアッコちゃん』などが、そうですね。
この点で、先行するのが、実写の『好き!すき!!魔女先生』です。この作品が、日本の魔法少女ものの中で、初めて、「魔法少女としての姿」に変身しました。偉大な先駆作ですね(^^)
お色気要素のためだったとしても、ヒロインを高校生にしたことは、「戦い」の要素にも、有利になりました。
小学生では、体格的に、どうしても見劣りがします。絵として見て、迫力がありませんよね。
また、小学生の行動範囲は、時間的にも、距離的にも、とても狭いです。思考も、幼いです。大人ばかりの悪の組織に立ち向かうのには、非常に不利ですね。(ずっと後のアニメですが、『名探偵コナン』という例外はあります。でも、あれは、中身が高校生という設定ですよね)
ヒロインを高校生にしたことで、本格的なバトルアクションをこなせるようになりました(^^)
ヒロインが戦うからには、戦う相手が必要です。正義の味方のヒロインに対して、悪の組織ですね。
ハニーの場合は、パンサークローです。世界規模の犯罪組織です。
このような、はっきりとした「悪の組織」が登場したのも、魔法少女アニメとしては、『キューティーハニー』が最初です。
この点でも、先駆者は、『好き!すき!!魔女先生』です。『キューティーハニー』ほど明確な形ではありませんでしたが、怪人クモンデスを中心とした、悪の組織があるような描写がされていました。
さて、ここで、『キューティーハニー』を、伝統的な口承文芸と比べてみましょう。
この作品と、比べられそうな口承文芸は、あるでしょうか?
あります。
ハニーは、人工的に作られたアンドロイドですね。伝統的な口承文芸には、「自律的に動く人形」が登場する話があります。
有名なところでは、ユダヤの伝承にあるゴーレムでしょうか。土から作られて、魔法の力で動く人形です。主に、力仕事をさせるために使うようです。
ゴーレムは、時間と共に、力が強くなってきて、性格も凶暴になるとされます。そのため、扱いきれなくなる前に、魔法を解いて、土に戻さなければなりません。
日本にも、「自律的に動く人形」の口承文芸があります。有名なのは、河童の起源譚の一種です。
「河童の起源は、人形にある」という話が、日本の各地に伝わっています。それは、だいたい、こんな話です。
ある腕のいい大工の棟梁が、大きな仕事を頼まれました。人手が足りないので、棟梁は、たくさんの藁人形を作り、それに命を吹き込んで、働かせました。棟梁が、なぜ、そんな魔法を知っていたのかは、不明です。
仕事が終わって、藁人形は用無しになり、命を持ったまま、川に捨てられてしまいました。藁人形たちは、河童になって、川で暮らすようになりました。
ゴーレムの話よりは、河童の起源譚のほうが、人形の自律性があります。ゴーレムは、いかにも、力仕事をするだけの、機械的な人形ですが、命を吹き込まれた藁人形は、棟梁と会話をする場面が、話に織り込まれることが多いです。
河童起源譚では、藁人形が川に行くのが、自主的に行くバージョンと、棟梁に捨てられるバージョンとがあります。
自主的に行くバージョンは、さらに、「おれたちは用無しだから、これからは、川で暮らすよ」と自分から言いだすバージョンと、棟梁に「尻でも食らえ」とののしられて、仕方なく川に行き、河童となって人の尻を狙うようになったバージョンとがあります。
どちらのバージョンにせよ、人形自身の意志を感じますね。かなり人間っぽい人形です。
日本の口承文芸には、女性の人造人間が登場する話もあります。
平安時代の有名な学者、紀長谷雄【きのはせお】が主人公の話です。長谷雄は、実在した人物です。
ある時、長谷雄は、鬼と双六【すごろく】の勝負をして、勝ちます。鬼は、勝負のカタに、絶世の美女を長谷雄に渡します。ただし、「百日間は女に触れないように」と、きつく言い渡してゆきます。
ところが、女のあまりの美しさに、長谷雄は我慢できなくなり、百日が過ぎる前に、女に触れてしまいます。すると、女は、溶けて水になって、流れてしまいました。
その女は、あちこちの女の死体から、良い所を取って集めて作られた、人造人間だったのです。
奇怪で、印象的な話ですね。
上記の例のように、口承文芸では、「自律的に動く人形」や「人造人間」は、最後には、元の材料に戻ってしまうか、捨てられてしまいます。人間界で、人間としての生をまっとうすることは、ありません。
対して、ハニーは。
高校生の彼女は、人間界に、完全に受け入れられています。彼女自身、父親(と思っていた人)が殺されるまで、自分を人間だと思っていたほどです。
ハニーがアンドロイドであることは、一般には秘密です。けれども、のちには、親しい人々の幾人かに、その正体を知られます。
正体を知っても、周囲の人々は、変わらずにハニーを受け入れてくれます。
敵のパンサークローを倒した後、ハニーがどうなるのか、少なくとも、最初にアニメ化された時点では、語られていません。
ハニーの正体を知っている人々の態度からして、その後も、ハニーは、高校生として、楽しく、少しエッチに(笑)やっていけそうです。
人間界から疎外されない点で、ハニーは、口承文芸から、大きくはみ出しています。
ちなみに、ハニーというアンドロイドが作られた理由は、作り手である如月博士【きさらぎ はくし】の娘の代わりとしてです。死んだ娘の記憶を注入するなどして、如月博士はハニーに愛情を注ぎました。
この点は、『鉄腕アトム』に通じますね。アトムは、天馬博士の死んだ息子、トビオの身代わりとして作られました。
アトムは、口承文芸のお約束を踏まえていて、天馬博士に捨てられてしまいます。そのあと、お茶の水博士に拾われます。
ハニーの場合、普通の人間と区別が付かないほど似ていること、働かせるためではなく、愛されるために生まれたことなどは、口承文芸の長谷雄の人造人間とそっくりです。
しかし、変身要素、バトル要素、お色気要素など、娯楽の要素をたっぷり詰め込んでいて、とうてい、口承文芸の素朴さの及ぶところではありません。
今回は、ここまでとします。