魔法少女の系譜、その8~『魔法のマコちゃん』~
前回は、大人気だった魔法少女もの『ひみつのアッコちゃん』を取り上げました。
今回は、これの後番組を取り上げます。やはり、この後も、魔法少女もののアニメが来ました。
『魔法のマコちゃん』です。昭和四十五年(一九七〇年)十一月から、昭和四十六年(一九七一年)九月まで放送されました。
『魔法使いサリー』や、『ひみつのアッコちゃん』と比べると、『魔法のマコちゃん』は、現在では、語られることの少ない番組です。前二作ほどは、ヒットしなかったからでしょう。
とはいえ、成功しなかったかといえば、決してそんなことはありません。前二作が、大ヒット過ぎたんですね(^^;
私は、いろいろな点で、『魔法のマコちゃん』は、語る要素のある作品だと思っています。
まず一つは、日本のアニメで、本格的に「人魚」を取り上げた、初めての作品だということです。
ヒロインのマコちゃんは、人魚なんですね。それが、事情により、人間になって、海の世界を離れてしまいます。
人魚が登場する日本のアニメで、有名なのは、『海のトリトン』でしょう。
『海のトリトン』のテレビアニメ放映が始まったのは、昭和四十七年(一九七二年)です。『魔法のマコちゃん』のほうが、二年、早いんですね。
人魚には、一定の需要があるようで、最近も、『波打際のむろみさん』―二〇一三年にテレビアニメ放映―などの作品が作られていますね。
「魔法少女もので、人魚」といえば、『ぴちぴちピッチ』―二〇〇三年から二〇〇四年にかけてテレビアニメ放映―もあります。『魔法のマコちゃん』は、『ぴちぴちピッチ』の遠い祖先と言えるかも知れません。
次に、『魔法のマコちゃん』の語るべき点は、「生まれつき」型の魔法少女と、「魔法道具」型の魔法少女との中間点を示したことです。
ヒロインのマコちゃんは、もともとは、生まれつきの人魚です。人魚ですから、海の中でずっと生活する力を持っています。人間には、ない力ですね。
でも、人間になった時点で、その力は失っています。代わりに、「人魚の涙」という魔法のペンダントを持つようになります。このペンダントでもって、魔法を使います。
元・人魚といえども、ペンダントがないと、マコちゃんは、魔法を使えません。
ただ、ペンダントがなくても、人魚の仲間と話すことはできます。時おり、海の人魚たちが、マコちゃんを心配して、陸に近づいていきます。
ここまでお読みになれば、おわかりでしょうが、『魔法のマコちゃん』は、アンデルセンの『人魚姫』を下敷きにしています。
『人魚姫』と違うのは、ヒロインが声を失わないこと、足が痛くならないこと、最後に泡になって消えてしまわないことです。
マコちゃんが、人間になってしまった理由は、『人魚姫』とほぼ同じです。人間の男性に恋をしたからです。その男性が溺れそうになり、それを助けるために、マコちゃんは、人魚の世界の禁をおかしました。
人魚の世界には、「人間に触れたら、二度と海の世界へ戻れない」という掟があることになっています。『人魚姫』と違って、元の世界へ戻る方法は、ありません。
つまり、マコちゃんは、「元・人魚の人間」として、ずっと地上で生きなければなりません。
ここが、『魔法のマコちゃん』の注目すべき点、第三です。
「魔法少女が、魔法の力を持ったまま、人間界で大人になる」道が、初めて示されました。
実際の作品では、大人になったマコちゃんが描かれることはありません。「これからも、魔法のペンダントを持って、人間として生きてゆく」ことが暗示されて、終わります。
それでも、「人間界で、少女期間限定でない魔法」の道を示したことは、大きな一歩だと思います。
意外に、この点が評価されていないのですよね、この作品は。
注目すべき点は、まだあります。
『魔法のマコちゃん』には、全体的に、悲しい詩情が漂っています。それは、これまでの魔法少女ものには、なかったことです。
『コメットさん』や『魔法使いサリー』は、魔法の国から、魔法少女が、人間界へ遊びに来た、というノリでした。
『ひみつのアッコちゃん』は、運よく、魔法道具が手に入ったから、いろいろ使っちゃえ、というノリです。
どの作品も、明るいですね。
けれども、マコちゃんは、自分の好きなことを押し通そうとしたら、結果として、人間になるしかなくなりました。彼女は、心の底では、常に海を恋しがっています。「戻れるものなら戻りたい」感があるのですよね。
口承文芸のヒロインでたとえれば、かぐや姫に似ています。何か罪を犯したために、心ならずも、人間界へやってきたヒロインです。
ただし、マコちゃんは、かぐや姫と違って、元の世界に戻れません。かぐや姫よりも、過酷な運命を生きています。
だからといって、マコちゃんは、常にぐずぐずめそめそしているわけではありません。そんな魔法少女ヒロインは、嫌ですね(^^;
マコちゃんは、人間界で前向きに生きています。
「恋」という題材を扱ったために、これまでの魔法少女ヒロインよりも、マコちゃんは、年上になりました。具体的には、十五歳の中学生です。
サリーちゃんとアッコちゃんは、どちらも、小学五年生という設定でした。
恋の力で、生まれ故郷を捨てるほどの行動力を見せなければならない。
だけど、子供むけのアニメだから、ヒロインは子供にしなければならない。
この釣り合いが取れたのが、十五歳という年齢なのでしょう。
じつは、「ティーンの魔法少女」が現われたのも、マコちゃんが最初です。
今回は、ここまでとします。次回も、『魔法のマコちゃん』を取り上げる予定です。
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