魔法少女の系譜、その29~『ミラクル少女リミットちゃん』~
今回は、新しい作品を取り上げます。『ミラクル少女リミットちゃん』です。昭和四十八年(一九七三年)十月から、昭和四十九年(一九七四年)三月にかけて、放映されました。
この放映期間は、『キューティーハニー』と、まったく同じです。同時期に、二つの魔法少女アニメが、並立していたわけです。
ただし、放映されていた当時は、『キューティーハニー』のほうは、「魔法少女もの」―当時は、まだ、魔法少女という言葉がないため、「魔法もの」などと呼ばれていたはずです―とは、認識されていませんでした。
その理由は、前回までのシリーズに書いたとおりです。
『キューティーハニー』が、あまりに斬新だったために、当時の人々は、これを「魔法少女アニメ」と、認識できなかったんですね。「変身ヒーローもの」の亜種、「変身ヒロインもの」という扱いでした。
対して、正統的な魔法少女アニメと認識されたのが、『ミラクル少女リミットちゃん』でした。
この作品のヒロインは、リミットちゃんという、小学五年生の女の子です。リミットはあだ名で、本名は、西山理美です。本名は、ほとんど使われません。普段から、リミットと呼ばれています。
この作品には、「魔法」という言葉は、登場しません。リミットちゃんが使うのは、「ミラクルパワー」です。大人以上の怪力を発揮したり、垂直跳びで3m以上跳んだり、自動車を追い越すほど速く走ったりできます。
身体能力が高いので、スポーツ万能です。頭も良くて、小学五年生程度の学校の授業なんて、楽々です。
その「ミラクルパワー」が、何に由来するのかと言えば、リミットちゃんが、サイボーグだからです。
彼女は、飛行機事故で瀕死の重傷を負ったことから、サイボーグになります。彼女の父親が、優れたサイボーグ研究者だったために、父親の手で、サイボーグ化されました。
事故に遭った時には、彼女を生かすには、それしか方法がなかった、という設定になっています。
リミットちゃんは、ミラクルパワーが使えるようになって、うきうきわくわくかといえば、まったく、そうではありません。
むしろ、自分がサイボーグであることに、かなり悩んでいます。「自分は、冷たい機械だから、周囲の人に受け入れてもらえないんじゃないか?」と思っています。
彼女の悩みが、作品に、独特の陰影をもたらしています。明るく楽しいだけの作品では、ないんですね。
例えば、スポーツ万能なのも、勉強ができるのも、リミットちゃんにとっては、友達に対する引け目になっています。
とはいえ、彼女は、自分のミラクルパワーを使って、人助けをすることは、厭いません。進んで、人助けをしています。
このあたりは、伝統的な魔法少女ですね。とてもいい子です。
ちなみに、彼女がサイボーグであることは、周囲の人々には、秘密です。秘密を知るのは、父親だけです。
彼女は、サイボーグの体に仕込まれたミラクルパワー以外に、「七つ道具」を使った超能力も持ちます。
七つ道具と言いながら、実際には、八つか、それ以上あることが、確認されています。「七つ道具」というのは、単に呼びやすいために、そう呼んでいるようですね。
七つ道具の中で、最もよく使われるのは、マジックペンダントでしょう。
このペンダントは、ミラクルパワーを使う際のスイッチにもなっています。このために、使用回数が多いんですね。
それ以外に、このペンダントを使って、「変装」することもできます。変身というよりは、変装ですね。看護婦や、婦人警官に「変装」したことがあります。
他に、フライングバッグや、マジックベレーといった魔法道具があります。科学の力でできていることになっていますが、明らかに、これらは、魔法道具の一種ですね。
フライングバッグは、ロケット噴射で空を飛べるバッグです。リミットちゃんは、このバッグのひもを持って、空を飛びます。
マジックベレーも、空を飛べるベレー帽です。それ以外に、ナビゲーション機能や、録音機能なども持っています。リミットちゃんは、「マジックベレーにメッセージを吹き込んで、研究所にいるお父さんのところへ飛ばして、メッセージを伝える」という使い方を、よくしています。
現代ならば、携帯電話がありますから、マジックベレーの機能は、不用でしょう。
しかし、『リミットちゃん』は、昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)の話ですからね。携帯電話が普及する、はるか前です。
二〇一四年の携帯電話は、かつての「魔法少女もの」の魔法道具に匹敵するほどの道具であることが、わかりますね。
ここまで書いたことでわかるとおり、リミットちゃんは、人造型の魔法少女です。かつ、魔法道具型の魔法少女でもあります。
同じ「人造型」の魔法少女アニメが、同時期に放映されていたのは、偶然ではありません。
これまでの「魔法少女アニメ」の殻を破るものとして、「SF要素を入れた少女もの」が、求められていたんですね。女児向け企画として、『リミットちゃん』と、『キューティーハニー』とが、コンペで競ったという記録があります。
なぜ、サイボーグやアンドロイドといったSF要素が求められたかといえば、そういうものが、流行だったからでしょう。
これら二つの作品と、同時期に放映されていたアニメを見れば、それがわかります。『新造人間キャシャーン』や、『ミクロイドS』が、この頃に放映されていました。どちらも、科学力を使ったヒーローものですね。
さらに、子供向け特撮ドラマに目を向ければ、『ウルトラマンタロウ』、『イナズマン』、『仮面ライダーV3』、『キカイダー01』、『ジャンボーグA』、『ファイヤーマン』、『流星人間ゾーン』、『ロボット刑事』などが、放映されていました。特撮ドラマの黄金時代です。
ここに挙げた作品は、みな、科学の力で戦うヒーローものですね。実際には、二十一世紀の現代でさえ実現していない、超科学です。ゆえに、実態は、魔法を使っているのと変わりません。
このような「超科学ヒーローもの」が流行っているなかで、「超科学を使ったヒロインもの」が、生まれてきたのでしょう。
リミットちゃんのようなサイボーグは、二十一世紀の現代でも、まだ誕生していませんね。
同じ「超科学ヒロイン」でも、リミットちゃんとハニーとは、ずいぶん違います。
一番の違いは、リミットちゃんが、戦わないことでしょう。
『リミットちゃん』には、『キューティーハニー』におけるパンサークローのような、明確な敵がいません。リミットちゃんのミラクルパワーは、戦いではなく、人助けのためにだけ使われます。
リミットちゃんは、「魔法少女としての姿」に変身することもありません。
変身―というより、変装―はしますが、それは、毎回、違った姿です。その時々によって、都合のよい姿に「変身」します。
そして、お色気要素もありません。普通に考えて、小学生ヒロインにお色気は、ありませんよね。
これらの点は、リミットちゃんが、古典的な魔法少女であることを示します。
サイボーグという、新しい要素を入れておきながら、実態は、古典的なのです。
まさに、それゆえに、リミットちゃんは、放映当時、「魔法少女もの」だと、人々に認識されました。当時の普通の魔法少女は、戦わないし、魔法少女としての姿にも、変身しないものでした。
今回は、ここまでとします。
次回も、『リミットちゃん』を取り上げます。