魔法少女の系譜、その35~『魔女っ子メグちゃん』~
今回も、前回までの続きで、『魔女っ子メグちゃん』を取り上げます。
今回は、七つの視点、改め、八つの視点で、『メグちゃん』を分析してみます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
の、七つに加えて、
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
です。
『メグちゃん』より前の作品では、作品中に登場する魔法少女は、常に、一人でした。
ですから、「何人、登場するか?」などという問いを立てる必要は、ありませんでした。
『メグちゃん』以降に、複数の魔法少女が登場するようになりました。これは、重要なターニングポイントですね。
だからといって、これ以後の作品に、常に、複数の魔法少女が登場するわけではありません。何回も書いているとおり、娯楽作品は、一直線に、ある目標に向かって、進歩するのではありません。立ち止まったり、後戻りしたり、寄り道したりしながら、進んでゆくものです。
『メグちゃん』以降も、しばらくは、「魔法少女一人体制」の作品が続きます。
以下に、八つの視点で、それぞれ、検証してゆきます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
メグとノンとの魔力は、「生まれつき」ですね。「魔女の国」の人間だからです。
この点は、魔法少女ものの王道、伝統、お約束を、ばっちり踏まえています。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
メグとノンとの未来は、複数の可能性が示されています。少なくとも、以下の可能性が、確認されています。
1)魔女の国へ帰って、女王になる。
2)魔女の国へ帰るが、女王にはならず、その国での普通の人として暮らす。
3)人間界に残って、人間として暮らす。
魔女の国の女王、魔女の国の普通の人、人間界に暮らす元・魔女は、物語の中に、キャラクターとして登場します。具体的な未来像が、示されているわけです。
メグもノンも、物語が終わる時点では、未来は、確定していません。以上の可能性の、どれに対しても、未来は開かれています。
複線的な未来が、具体的に示される点が、画期的でした。『メグちゃん』の、斬新な点の一つですね。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
メグもノンも、「魔法少女としての姿」に変身することは、ありません。必要に応じて、他の人間や、動物などに変身することは、あります。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
メグ・ノン二人とも、魔法のペンダントを持っています。これがなくても、魔法を使うことはできますが、魔力が極端に落ちます。
二人は、生まれつき型に、少し、魔法道具型が混じった魔法少女といえるでしょう。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
『メグちゃん』では、メグの弟・妹ということにされているラビとアポが、マスコットの代わりになっています。
ラビとアポとは、何かと騒動を起こして、メグを悩ませます。でも、二人とも、「お姉さん」のメグを慕い、思いやる心を持っています。時には、メグを助けます。
『メグちゃん』には、悪役マスコットに当たる役柄が登場していることに、目を引かれます。魔女の国からやってきた、フルフル(シャム猫の姿)と、クロー(カラスの姿)です。
フルフルとクローとは、メグとノンとの監視役であるチョーサンに、つき従っています。チョーサンの悪だくみを実現しようと暗躍しますが、どこか抜けていて、たいがい、失敗します。
『メグちゃん』の魅力は、この「抜けている三悪」にも、ありますね。悪役が魅力的だと、物語は、魅力的になるものです(^^)
チョーサン、フルフル、クローの三悪は、のちの『タイムボカン』シリーズの三悪に、影響を与えているかも知れません。
なお、メグのいる神崎家では、ゴンベエという名のセントバーナードが飼われています。物語の後半になると、ゴンベエは、ラビやアポと共に、マスコットの役割を果たすようになります。
ついでに、書いておきますと。
魔女の国の人間は、犬が苦手だという設定があります。犬は、人間界にいる魔女を見抜く能力を持つからです。
例えば、魔女が、夜、人間界の空を飛んでゆく姿を見て、犬が、空に向かって遠吠えするのだ、と説明される場面があります。
ところが、どういうわけか、メグは、最初から、犬をまったく恐れません。元・魔女のマミは、最初、ゴンベエを見て、震えあがりますのに。
事情があって、ゴンベエを預かるうちに、マミも、ゴンベエに愛着を持つようになります。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
メグは、呪文を唱えて魔法を使います。「テクニカ・テクニカ・シャランラー」という呪文です。略して、「シャランラー」で済まされることもあります。
ノンは、呪文を唱えずに、魔法を使います。
この作品世界では、魔法の使い方に、個性がありますね。人によって、魔法を使うのに、呪文を唱えたり唱えなかったりします。魔法を使う時の身ぶりも、人により、違います。
このような個性の出し方は、魔女の国の設定を深めるのに、役立っています(^^) 単純な「夢と魔法の国」ではなく、時には、人間に対して冷たくもある「魔女の国」を表わしています。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
メグもノンも、人間界では、「普通の人間」を装っています。元・魔女のマミやキーランも、同じです。
『メグちゃん』の人間界では、メグ、ノン、マミ、キーラン、チョーサン以外にも、魔女の国の人間が、結構、存在しています。
しかし、どの「魔女」も、自分が魔法を使えることは、秘密にしています。魔女の国の規則では、それを明らかにすることは、決してしてはならないタブーのようです。
したがって、作品の視点は、メグ視点、または、ノン視点です。魔法を使える側の、内在的な視点ですね。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
これは、二人ですね。メグとノンです。複数の魔法少女が、ライバル同士として登場する、画期的な作品でした。
こうして見ると、『メグちゃん』には、王道、お約束の部分と、革新的な部分とが、入り混じっていますね。
王道を踏まえている部分があるからこそ、革新的な部分が、引き立つのでしょう。
王道ばかりでは、飽きられます。
けれども、すべてが新しいものは、視聴者に受け入れられません。
『メグちゃん』は、そのバランスが、うまく取れていた作品なのでしょう。でなければ、全72話、一年半にもわたって、放映されはしなかったと思います。とてもヒットした作品でした。
「魔女っ子」という言葉を生んだこと、複数の魔法少女を登場させたこと、少女にも抵抗のない程度のお色気、魅力的な三悪、深みのある魔女の国など、いくつもの新しい要素を、「魔法少女もの」に付け加えた作品です。偉大ですね(^^)
『メグちゃん』については、ここまでとします。
次回からは、新しい作品を取り上げる予定です。