魔法少女の系譜、その54~『エコエコアザラク』~
今回は、前回に引き続き、『エコエコアザラク』を取り上げます。
前回の説明で、『エコエコアザラク』が、昭和五十年代(一九七〇年代後半)の少年漫画としては、いかに異例な作品だったか、おわかりでしょう。
ヒロインの黒井ミサは、女子中学生にして、天才的な黒魔女です。正義感もありますが、気まぐれで人を殺すこともあります。彼女の行動が、善に転ぶか悪に転ぶかは、予測がつきません。
作品は、暗い雰囲気に満ちており、エロ描写も残酷描写もあります。少年漫画では珍しい、秀逸なホラー漫画でした。
今回は、八つの視点で、『エコエコアザラク』を分析してみます。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つですね。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
ミサの魔力の源は、はっきりとは描かれません。おそらく、修業によるものです。
両親が、ともに天才的な黒魔術師だったという描写があるので、ミサは、両親から黒魔術を習ったのでしょう。
昭和五十年代(一九七〇年代後半)に、修業型の魔法少女というのは、珍しいです。
ただし、ミサの修業の様子は、具体的には描かれません。読者の前に登場した時には、すでに、完成された黒魔女でした。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
ミサが成人した様子は、作品には登場しません。
けれども、ミサのモデルとなり得る成人女性が登場します。ミサの母親です。奈々子という名前です。
奈々子は、ミサの父親と結婚して、ミサを産み育てながら、黒魔術師をやっていました。
きっと、ミサも、母親と同じように、成人しても、黒魔女であり続けるのでしょう。彼女の場合、「魔法少女」から、「成人した魔女」へは、地続きだと感じます。断絶はありません。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
ミサは、普通、変身はしません。
魔術の一環として、他の人物に変身する変身魔術を使うことはあります。
魔術を使う時に、儀式用のローブなどをまとうことはあります。これは、実在する儀式魔術の様子を、そのまま使っています。
また、全裸で魔術を使うこともあります。これも、実在する儀式魔術のやり方です。
4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
ミサは、剣やタロットカードなどの道具を使うことがあります。
しかし、それらがないと魔術が使えないわけではありません。毎回、これらの道具が登場するわけでもありません。
ミサの道具は、あくまで、補助道具としての意味合いしかありません。あまり重視されていません。
原作の漫画ではなく、後年作られる映像作品では、道具が重視されるものがありますが、ここでは、とりあえず置いておきます。
余談ながら、タロットカードが登場する漫画作品としては、『エコエコアザラク』は、非常に早い時期のものだと思います。おそらく、少年漫画では、初めてでしょう。
占いが好きな少女向けの少女漫画でさえ、昭和五十年(一九七五年)より前には、あったかどうか……ちょっと、調べがつきませんでした。御存知の方は、教えて下さい。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
ミサは、マスコットは連れていません。
『エコエコアザラク』は、伝統的なヨーロッパの魔女観を取り入れている作品ですが、マスコットの点だけは、外れています。マスコットの原点たる「魔女の使い魔」が、『エコエコアザラク』には、登場しません。
この点はなぜなのか、原作者の古賀さんに訊いてみたいですね。
私の推測では、『エコエコアザラク』が、ホラー作品だったからだろうと思います。マスコットを出すと、なごんでしまって、ホラーにならないと思われたのかも知れません。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
ミサは、「エコエコアザラク、エコエコザメラク~」以外にも、多彩な呪文を駆使します。
それまでの魔法少女作品のうちで、最も多種の呪文を使う魔法少女です。
二〇一六年現在で比べても、これほど多種の呪文を使いこなす魔法少女は、ほとんどいないでしょう。
呪文の点では、ミサは、日本の魔法少女の中で、突出した存在です。
それらの呪文が、すべて実在する儀式魔術で使われるものであることが、すごいですね。
インターネットもない時代、原作者の古賀さんは、どうやって、これらの呪文を調べたのでしょうか? 当時は、まだ、『ムー』ですら、創刊される前です。すごい調査能力です。
ミサが呪文を唱えるのは、魔術を使う時です。でも、常に唱えるわけではありません。呪文無しで魔術を使うこともあります。
とはいえ、作品名が『エコエコアザラク』であることからわかるように、この作品では、呪文が、重要な鍵となっています。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
ミサが黒魔女であることは、秘密にされています。
ところが、作品は、ミサの視点で描かれるとは限りません。ミサの同級生などの視点で描かれることも多いです。このために、ミサが何を考えているか、わかりにくいです。
秘密のはずなのに、ミサは、時に、自分の魔力を誇示することもあります。
これは、やはり、ホラー作品だからだと思います。
ヒトに恐怖を与えるには、すべてを明るみに出してしまってはダメなんですよね。理屈のなさやわからなさが、ヒトに恐怖を感じさせるからです。
ミサの行動原理をわからないままにしておくために、わざと視点が外在的にされることが多いのでしょう。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
基本的には、魔法少女は、ミサ一人です。
けれども、話によっては、他の魔法少女が登場することもあります。
ミサの両親が黒魔術師だったように、この作品世界では、ミサ以外にも、おおぜいの黒魔術師がいます。魔術師同士のネットワークもあるようです。
魔術師同士で、協力したり、対立したりすることもあります。ミサには、魔女同士で友人だったり、ライバルだったりする相手もいるようです。
しかし、ミサ以外に、レギュラーのキャラクターで、魔法少女は登場しません。
今回は、ここまでとします。
次回も、『エコエコアザラク』を取り上げる予定です。