【美術館を味わう⑥】海は余白となり、アートに解釈の深さを与える/神奈川県立近代美術館 葉山館
どちらかというとインドア派なので、夏は苦手だ。だけど少しは夏らしいことがしたいので、たまに海の近くの美術館に行く。海の近くの美術館でいうと、直島をイメージする人が多いと思うが、茅ヶ崎市美術館、横須賀美術館、MOA美術館など、都内近郊にも幾つかある。ただ、どの美術館も館内にいる間はあまり海を感じられず、ただ「海の近くにある」という事実だけであるが、私はついに館内でも海を感じられる美術館と出会うことができた。しかも都内近郊で。
行こうと思ったきっかけ
今年のお盆時期は、暦通りだと連休がない。基本暦通りの休みなので、今年はちゃんとしたお盆休みがない。ただ、世の中が夏休みムードの中、少しだけでも夏休みらしいことがしたくなった。こういう時は都内から日帰りで行けそうな美術館を探すことが多いが、ちょうど最近Instagramなどで神奈川県立近代美術館葉山館をよく見かけていたので気になっていた。企画展のアレック・ソスがどうやらいいらしい。いつかいってみたいと思っていたので、この機会に訪問を決意した。
美術館到着~美術館入場前
美術館以外にも訪れたいところがあったので、車で向かうことにした。海水浴に向かう人も多くいたため、道は少し混んだが駐車場も問題なく停めることができた。敷地内に一歩足を踏み入れると、広い中庭を中心に展示室、ギャラリー、カフェにつながる構造になっている。中庭の真ん中にぽつんと佇む、イサム・ノグチの「こけし」が愛らしい。
展示室
こちらの美術館の展示は、企画展+屋外展示というシンプルな作りなので、まずは展示室に向かい、早速企画展を観ることにした。
こちらの美術館は展示室が良かった。天井の高さや壁の色が、少しずつ異なる展示室がいくつもある。今回の企画展では、この展示室に合わせた作品をアレック・ソスが選んで展示していたようで、展示室ごとに少し異なった空気を感じることができた。
順番は前後してしまうが、帰りに購入した図録が素晴らしかった。マットなカバーに、2種類から選べる裏表紙がとても可愛らしく、デザインとしても大満足なのだが、内容も写真だけでなく、今回の展示にあわせた作家へのインタビューが読み応えがある。これが1100円で買えるのはとてもお得感がある。アートの楽しみ方入門みたいな本で、企画展の図録はコスパが高いので買ったほうが良いと読んだことがある。
さて、話を戻すと、図録のインタビューをもとに、少しアレック・ソスについても書いていきたい。アレック・ソスは写真家であり、もともと絵画をやられていたようだ。実際に作品を鑑賞して感じたのは、まるで絵画のような色彩へのこだわりや、構図の綺麗さだった。ただ、作り込まれているというより、誰かの日常を切り取ったような作品が多い。作品からストーリーを感じられる所以は「詩」と関係があるようだ。アレック・ソスはインスピレーションを詩人から受けているとインタビューで答えている。映画や音楽のように、物語を語り切るのではなく、詩のように物語を示唆する。アレック・ソスの写真からも同様の物語の示唆を感じられた。
余白のある作品を楽しむには、やはり展示室はゆとりがあったほうがいい。都内の雑踏の中よりも、自然に近いほうが自分の考えを巡らせることができる気がする。この美術館ではそれが叶っていると思った。大きな窓から緑が臨める休憩室がそれを象徴している。
また、この美術館の驚くべき点は、館内で海を感じられるところだ。展示室内にぽかんと大きな窓があり、そこからはすぐにでも飛び込めそうな距離に海がある。まるで、作品を海辺で鑑賞している気分になれる。こんな美術館は滅多にない。
また、前述したが、アレック・ソスの作品は、色彩がとても綺麗だ。色彩について印象に残ったのは、<Broken Manual>の展示だった。灰色の壁に、灰色の額縁、そこに並ぶ作品はカラーと白黒が混在している。アレック・ソスがインタビューで「没入感」と表現していたように、この展示は複数の作品で作られるこの展示室自体が一つの作品になっているように感じた。企画展ではなかなか見られない、展示室と作品の一体感を感じることができた。
ギャラリーショップ・カフェ
大満足の企画展を見終わった後、ギャラリーショップにいった。通常のギャラリーショップと同様に、企画展の作家関連のグッズや、美術館のオリジナルグッズなどいくつかあったが、特徴的なのは星の砂などの葉山らしいアイテムがあることだ。
ギャラリーショップで図録を購入し、そのまま美術館のまわりを散歩することにした。歩いてほんの1,2分で海水浴場まで行けた。足だけ海に入ったりして、少しだけ夏を感じることができた。
ちなみに、この美術館は海に飛び出たようなカフェが有名で、写真で見たことがある人も多いのではないだろうか。祝日ということもあり、混雑していて入ることができなかったが、是非次回は行ってみたいと思う。
まとめ
もし私が小学生だったら、夏休みの宿題の絵日記に、この日のことを書きたいと思う。それくらい、この美術館で夏らしい体験ができた。展示としても作品に対する説明がしっかりとあるので、多くの人が楽しめる内容になっていると思うので、是非この機会に行ってみてほしい。
ちなみに、美術館のカフェに入れなかった私は、近くの「葉山旭屋牛肉店」でコロッケパンを食べた。写真がなく残念なのだが、とても美味しかったので美術館に行った際には立ち寄ってみてほしい。
さて、話は変わるが、私はいま香川県高松市にいる。世間からは少し遅めの連休をいただき、瀬戸内芸術祭に参戦することにした。こちらも帰ってきたら記事を書こうと思っている。