読書感想文 高野和明 踏切の幽霊
1994年下北沢。
下北沢三号踏切では、電車の緊急停止が頻発していた。
踏切に立ち入った人の姿が見えるというのだが、誰もいない……
だが、その踏切に長い髪の女性の上半身だけが浮いている怪奇写真が、月刊女性の友の編集部に送られてきた。
記者の松田は、その写真から心霊特集の記事をまかされるのだが……
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
雑誌記者の松田は、元新聞記者で社会部にいた。その当時の人脈で警察にも知り合いがいる松田は、踏切での人身事故を調べ始めた。
すると、一年程前その踏切の傍で殺人事件があったことがわかる。犯人はすぐ逮捕されたが、被害者の身元は警察でもわからなかった。
松田は被害者の身元を調べ始める。
調べるうちに、被害者は政治家と関係のある暴力団に指示されて殺された可能性がでてきた。政治家の収賄事件にまでも発展しそうだった。
だが、被害者の身元は依然わからなかった。
そして、松田の家には、夜1時3分になると電話がなり、電話の向うでは女性のうめき声が聞こえる。
そして、怪奇写真を見た霊能者は、その写真が本物だという。
幽霊は存在するのか?
被害者の身元は判明するのか?
そして、政治家の悪事を暴くことはできるのか?
妻に先立たれ後悔の残る松田は、会いたいと思っても妻の幽霊にすら会うことができない。
幽霊など、存在するのか?
「史上最高の幽霊譚」とうたわれた小説です。ホラーでもあり、ミステリーでもありという感じです。
幽霊を見た人や霊媒師の存在など不思議な世界が関わっているけれど、ミステリーとしては幽霊らしき女性の身元を順序だてて探していくので、物語としても説得力があります。
そして、その女性の悲しい生い立ちはとても切ないです。
旅立った人の思いが、どこかに漂っている。
それは「怨念」だけではなくて「愛」だったりもするんですよね。
幽霊は存在するのか、しないのか?
そんな風に考えることがナンセンスなのかもしれないと感じたりします。
怖いけれど、切ない、そんな優しさを感じる幽霊譚でした。