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舞台感想 宝塚歌劇 花組公演 ドン・ジュアン

花組新トップコンビのお披露目公演であるドン・ジュアンを観てまいりました。
久しぶりの御園座です。
御園座はクッションがあるので、座り心地がとっても楽です。

ドン・ジュアンは2016年にのぞ様の主演で評判となった作品。
残念ながら私はチケットがとれず、ブルーレイでしか見ていないのですが、名作ですよねえ。
当時若手であったひとこちゃんが、ラファエル役に悩み苦しみ挑んだ作品。
そんなひとこちゃんが、ドン・ジュアンとして御園座に降臨ですよ。

観劇前日に、雪組公演のブルーレイを久しぶりに観たんですね。
いやあ、やっぱり名作じゃ。
でも、のぞ様のドン・ジュアンが完璧に思えてしまって、観て良かったんだろうか? これ以上のドン・ジュアンってどんなの?
……とブルーレイを見たことを後悔する気持ちが心の隅にチラリと……

で・す・が……

ひとこちゃん、お見事!
生田先生、お見事!
花組の出演メンバー、お見事!
同じ作品を観たと思えない程違う印象で、演出も変わり、前作以上に腑に落ちる物語。
ああ、こんな風に作品も、演者も進化していくのかと、舞台作品を作り上げる人たちの進化に感動しました。

女、酒、快楽を追い求め、人を思いやる心などひとかけらも持たない男ドン・ジュアン。ひとこちゃんのドン・ジュアンは、やさぐれているけれど生まれの良さは隠しきれず、とにかく美しい。女は、こういう悪くて美しくてなげやりな男に弱いですわね。
セビリアの女たちが、彼にまとわりつき、夢中になるのがわかります。
世の中を舐め切ったふてぶてしい男なのに、亡霊に怯える様はどこか幼く、愛という初めての感情に戸惑う姿は、無垢な少年のような瑞々しさすら感じる。なんとも、魅力的なドン・ジュアンです。

美羽愛ちゃんのエルヴィラが素晴らしい。最初は世間知らずの無邪気なお嬢様感が漂い、はすっぱな女は痛々しく、本気で神を呪い、そしてまた祈りを捧げる女となる。細かな変化が見事で、伸びやかな歌声も美しいです。

そして、綺城ひか理さんの亡霊が良い。あかさんの声って亡霊にすっごく良く合う。長身で迫力があるし、人ではない動きでひとこちゃんにとりついて離れない姿が、亡霊でありながら神のようにも感じられます。
ひとこちゃんの隣で同じ振りをするあかさんのシンクロっぷりに、同期の愛を感じて頼もしい。いやあ、好演です。

星空美咲ちゃんのマリア。芝居も良い出来ですが、私は彼女の踊りが好きなんですよね。一幕最後のフラメンコはめちゃくちゃかっこよくて、もっと踊って欲しかったなって思うくらいです。

そして、英真なおきさんのドン・ルイと美穂圭子さんのイザベル。
ああ、もう、この方々の存在は、宝です、宝。
芝居も歌も素晴らしいです。
息子への深い愛を持つけれど、貴族の身勝手さも感じさせる英真さんの見事な演技。前作から8年経つのに、一層若々しさを感じる美穂様の美声。
このお二人の素晴らしさに触れると、花組の組子たちは学ぶものが多いだろうなあって感じます。

希波らいとさんのドン・カルロも好演でした。「二人だけの戦場」の時に、なんか骨太な男役さんになったなあって感じていたのですが、どっしりとした演技で、大人の男の魅力が出ていました。

天城れいんさんのラファエル。
これ、本当にむずかしい役ですね。とても頑張っておられたと思います。
ただ、童顔でかわいらしい容姿が損したかも……と感じます。

出演者たちは、本当に良い経験をしていると思います。
例えば、私が応援している詩希すみれちゃん。
息子を思う母であるタマラとはすっぱなセビリアの女、そして心象風景のようなダンスなど、切り替えが必要なお役を演じ分けているのが見事でした。
どの役でも生き生きと、そして色々考えて熱く演じている。
演者が熱い感情を持って、こうして集中して演じることができるのは、作品の完成度が高いからだなと思います。

少し演出が変わっているのですが、それが全部良い!

特に、好きなのがドン・ジュアンとマリアが愛を確かめ合うシーン。
前作では、ベッドの中でしたよね。それが、今作では、マリアの仕事場になっている。
これ、好きだなあ。
ベッドの中だと、どうしてもマリアも色事の相手に見えてしまう。
でも、ドン・ジュアンが知った「愛」は色事とは違う次元のものでなくては、あれだけの苦しみを伴わないと思うのですよね。
マリアは、ラファエルを仕事場に来させなかったですよね。だから、仕事場は誰にも侵されたくないマリアにとっての聖域なのです。
マリアはドン・ジュアンを自分の最も大切な場所に入れる。
それこそ、亡霊の導きでなければ、こういう奇跡の出会いはないのじゃない? 女を快楽の道具としか見ていなかったドン・ジュアンが、マリアのすべてを愛したってことが、明確になっているように思います。
「愛」の本質が感じられていいなあと思います。

マリアが「石の声」を聴くのも好き。そして、石が騎士団長の像になりたがっていないから「愛」を彫ると言う。それが薔薇の花っていうのもなかなかしゃれているじゃないですか。だって、前作の騎士団長の像って、なんか、美しくなかったからなあ。
そういえば、まあやちゃんが石のリングピローを作ってもらっていましたね。生田先生、その作家さんを取材したのかしら……

他にも色々変わっているけれど、全部効果的に変わっていると思いました。
作品が進化して、より物語が明確になっていて、洒落ている。
マリアの衣装も、素敵だったし、生田先生、さすが!

私の観た日は、Liefie組が観に来ておられたように思います。

私は、Liefieを酷評しちゃいましたが、
舞台感想 宝塚歌劇 花組公演 Liefie-愛しい人-|おとぼけ男爵 (note.com)

やはりドン・ジュアンとの作品の質の差は大きかったと思います。
良い作品に出会った演者は進化すると思うので、演者にとって良い作品との出会いが「運まかせ」にならないように、宝塚の演出家は良作を作る使命を持っていると思います。
もちろん海外ミュージカルの潤色と、一から作るオリジナルとは違うと思います。演出家不足と言われる宝塚において、じっくりと良い作品を作る余裕はないのかもしれないけれど、頑張って欲しいなと感じます。

本当に見ごたえのある作品でした。

公演前に、近くの喫茶店 珈琲処カラスでコーヒーと餡トーストを頂きました。

過去の舞台感想はこちら
宝塚歌劇 舞台感想まとめ|おとぼけ男爵 (note.com)

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