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舞台感想 宝塚歌劇 花組公演 Liefie-愛しい人-

日本青年館ホールで行われた花組公演を観てまいりました。
主演は聖乃あすかさん。若手中心の舞台ですので気になる下級生を見つけたりできるかもって期待していました。
作・演出も若手の生駒怜子先生ですから、若さにあふれる舞台だろうなと思いつつ、ロマンチックコメディということに、若干のひっかかりを感じてはいたのです。だって、コメディはとても難しい……

ネタバレありの舞台感想です。

主人公は新聞記者のダーン。
街の人のニュースを書くダーンは、足を使って丁寧に取材をする記者です。だから、新人記者のピーターはダーンの取材について回ってフラフラです。
ダーンの幼馴染ミラは、15年前事故にあって両親を亡くし、自分も大怪我をしました。ミラを育てる祖父は事故のことを忘れさせようとしていますが、ベテラン記者のジェームズは15年前の事故を再び記事にしようと考えています。ジェームズに相談されたダーンは、ミラに事故の取材をすることが彼女を傷つけることにならないかと悩むのですが……
孤独で自分の居場所を持たないレオは、周りの人たちに大切にされるミラに嫉妬して、ダーンと喧嘩をします。怪我をしたダーンを心配するミラ。ダーンとミラの距離は縮まります。
ダーンはミラに事故の取材を依頼することに決めます。それは悲しい事故を思い出す為ではなく、大切な両親のことを忘れない為。
「愛しい人」のことを記事にしたいというのです。
そして、ダーンの「愛しい人」とは……

まあ、思い出しながら物語を書いてみるとこんな感じなのですが……

ハートウォーミングなほっこり作品という評判で、まあ、そうなんですけれど……

私、たいていの舞台作品には、感動しちゃう人なのですよね。
前日に観た「ゴースト&レディ」なんて号泣だったし。
わりと感動しいの泣き虫な観客なのです。
が時々「こんなの出演者が気の毒だ!」って感じるほどズッコケだ!と思う作品があるのですよね。
あくまで、私が思うだけですから、この作品が好きな方もおられるし、好きだと思う方の感じ方を否定するつもりは全くありません。

でも、この作品は
私の中では、ズッコケ作品でした。
このレベルのズッコケは「PR×PRince」以来です。
そういえば、町田菜花先生はどうなさっているのでしょう?

作品の好き嫌いは、個人の好みもありますからあくまでも私の好みということですが、この作品には、私の嫌いな宝塚あるあるがちりばめられていてダメでした。
まず、一つ目は、無理のある笑い。
文化祭的身内ネタを笑いにする場合は、身内が大爆笑するレベルのものを持ってこないと意味ないと思うのですね。例えばオーシャンズ11でみっちゃんが演じた小池先生のモノマネとか、最近ならGOATの観客全員が座席から飛び上がっちゃう演出。
身内が大爆笑する場合は、身内ネタを理解できない人もつられて笑いますから、もう、文化祭のノリでもOKなのですよ。
だから、あれくらいの笑いをとれる身内ネタでなければすべる。
身内が失笑、あるいはおあいそ笑いをする場合は、はっきり言ってシラーっとした空気が流れていますから、どんなに演者が頑張った所でコメディにはならないと思うのです。

なぜ、難しいコメディに挑戦してしまったのだろう……

そして、二つ目は無意味に長い追いかけっこ。
初音夢ちゃん演じる少年ヤン。生き生きとしたやんちゃ坊主を好演しているのですが、大工道具を落としたヤンをダーンが客席まで使って延々追い回します。演者が上手いのでこの追いかけっこ自体が悪いというわけではないのですよ。ですが、捕まえた理由が「落とした大工道具に危ないものが入っている」ってことを教えるだけ!
これ、レオの暴力への伏線?って思わなくもないのですが、それならすごくわかりにくくて、それほどの効果もないので時間の無駄って思うのですよね。

そして三つめはもじもじ、うじうじする好き同士。
ダーンとミラはお互い好きなのに、もじもじ、うじうじ。
昭和の少女漫画のすれ違いストーリーみたいな、手が触れるときゃっ!みたいなあれ。周りがそれをひやかしたりするとコラっ!てなるあれ。
若い子はああいうの今でも好きなのだろうか? そして、そんな初心な恋愛を超絶美男美女が繰り広げるのにキュンとするのだろうか? 
もう、おばちゃんにはわかりません。
あ、でも、鴛鴦歌合戦みたいな感じは好きなのよ。でも、これは違うの。
まあ、とにかく、このもじもじ、なんか、イラつくのですよ。

ちょっとボロカスに書きすぎたので、良い所も書いておきます。

クイーンズデーのダンスとか、楽しいダンスナンバーが色々入るのですね。
こういう楽しいダンスシーンはミュージカルの楽しみでもあるので、取り入れ方はとても良いと思います。
そして、椅子をデザインした舞台セット。
記者という仕事柄、椅子に座って作業するというイメージからか椅子がモチーフになった舞台セットとなっています。
これは、なかなかおしゃれで素敵でした。
そして、たっぷりとられたフィナーレ。
フィナーレの準備にあおいさんを出したこと。これも面白い演出でした。
でも、緞帳の富士山に「ヤッホー」って声が会場からあまり出ていなかったので、あおいさんやりにくかっただろうなあ~ 

追記 スカステ見ていたら、椅子のセットの椅子は、「居場所」という意味らしいです。座れる椅子のある人とない人? まあ、そんな意味らしい……

それから感動シーン。
一樹千尋さん演じるヨハンが、事故を忘れることがミラの幸せだと思い込んできたが、大切な両親のことを忘れないでいることこそ大事だと気付いて歌うシーン。
やっぱ、一樹さんは上手いなあ~
祖父の孫への愛情があふれていて、こういうシーンをもっと膨らませればよかったのに……と思います。

と好きだったところを上げたところで、作品について再び。

完全ネタバレします。

この作品でとってもかっこよくて、印象に残ったのが侑輝大弥くん演じるレオです。
ダーンが日の当たる道を行く優しく思い遣りのある真っ白な青年だとすれば、レオは孤独で居場所がなく世を拗ねた心に闇を抱えた青年。
……という設定に最初は思えたのです。
レオの闇感は、なかなかの迫力で主人公に敵対する存在としては完璧にかっこいい! 悪役好きの私はキャっ♡てなっていました。

一幕、ミラが15年前に両親をなくし自分も大怪我をした自動車事故。これはトラックとの衝突で、トラックの運転手も亡くなっているのですね。
ミラは事故にあって、周りから同情されるものの、笑顔を失ってしまった。
レオはそんなミラを見て「親がいない人間は他にもいる」と一人呟くわけですよ。そして、ミラに嫉妬し、記者であるダーンに怒っている。

これを伏線だと思って見ていた相当数の観客が、二幕ではそれが回収され、秘密が明かされるのではないか? と想像したと思うのですよ。
その内容は、私の想像では
実は、レオはトラック運転手の息子で親を亡くした。だが、事故の原因はトラックにあり父親は加害者になってしまった。そして、新聞は父親を非難する記事を書き、レオは人殺しの息子だといじめられて育った。レオは皆に同情されるミラに嫉妬し、記事を書いた記者たちに怒っている。
だから、レオには居場所がなく、孤独なのだ。
あるいはもっと衝撃的に、記者は読者を煽り、発行部数を上げるために事故をねじまげて報道し、父親を加害者に仕立て上げた。ってな設定なら「言葉の暴力」の被害者としてレオが浮き上がってくる。
そんな真実をダーンが暴き、新聞社相手に怒り、ダーンはミラだけではなくレオも救うっていう感じで進むのかな?
色々な伏線が回収されるドラマティックな二幕に期待だな……
って思っていた観客は多いのではないかと、私は推測します。

でも、そんな想像をした観客は見事に裏切られます。

レオは事故とは関係のない単に両親を亡くした子だったのです。
単純に、大切にされるミラに嫉妬しているだけだった。
ええええええええ???ですよ。
そ、そんな関係?

その上、あっさりレオとダーンは和解しちゃうし。
居場所のなかったレオのことを大工のハンスは息子のように思っているって言って、突然居場所ができるし。

さっきまで、黒いオーラを出していたレオが、照れながら握手かよ!

おまけに、ダーンが僕の「愛しい人」は君だってミラに告白して、いきなり跪いて指輪を出してプロポーズ!
え? え? 何? ここ、笑う所????
んな、アホなって呆れて笑う所???
これがコメディ??? なわけないか?

で最後、ヤンの父親が意外な人物だとわかって、驚かされる。
いや、そんなことに驚きたくはなかった。
こんな大団円……ある?

なんか、主要なキャラクターが薄っぺらくて深みがない。
皆、中途半端にいい人だったり悪い人だったりで、あまり感情が動かない。

私ね、4,5年前ならこういう作品を観ると、単純にがっかりしていたのです。でも、もっと違う見え方はないだろうかと考えて、小説教室に通って脚本を勉強することにしたんですね。
で、脚本を勉強して、別の考えを持てるようになりました。
この作品「どうしてこうなっちゃったんだろう?」って想像することを楽しんでみるっていう見方。

なので、これからは、あくまで私の勝手な想像です。

この作品を観てて、
「言葉」は人を笑顔にすることもできれば、深く傷つけることもできる。だからこそ、言葉を大切にしなくてはいけないのではないか?
「辛い経験」は忘れるだけでは救いにならない。愛する人たちへの思い出を大切にして、彼らの残した想いと共に生きていくのが良いのではないか?
幼い頃の心の傷はずっと残り続けるから、子供が傷つかないように大人は目配りをする必要があるのではないか?
というようなことを訴えかけたかったのではないかと感じました。
それで、記者を主人公とし、子供の頃の事故を設定するなら、
ミラとレオは事故の当事者の子供同士で、新聞による「言葉の暴力」によって深く傷つき、そんなミラを見ていたダーンは大人になったら記者になって「言葉」が人を傷つけない新聞を作りたいと考え、大人になって実際に記者になった。
って設定は、なんとなく普通に思いつくと思うんですね。
ってことは、プロがそういう発想を無視するだろうか?って思うのですね。
無視するならどんな理由で無視するのだろう?
で、想像しました。
最初は、この設定、あるいはもっと複雑な設定をしていたのに言いたいこと、見せたいことが多すぎて、脚本書いてみたら、長くなりすぎちゃった。
どう、短くする? 中途半端にするよりも、ややこしい設定はやめて、単純化しよう! ってこうなっちゃったとか?
ま、勝手な素人の想像なのですけれど……
脚本教室で15枚と言われても、50枚くらい書いちゃったってこと多々あったし、考えていると長くなるんですよねえ~
で、単純化すると、今度は短くなりすぎちゃった!
じゃあ、フィナーレをたっぷりとるとファンは喜ぶから、フィナーレをたっぷり見せよう!
ってなったのでは?
というように想像していくと、なんだか別の意味で、この作品が「愛しく」感じたりするわけです。
ま、想像力を使った遊びですけれど……あくまで、私の趣味。
勝手な妄想……

宝塚の演出家って、やることが多すぎて大変ですものねえ~
私みたいな、言いたい放題のファンもいるしねえ~
神経すり減らしますわね。
大変だってことは重々承知です。
それにストーリーうんぬんより、贔屓の美しい姿を見たいっていうファンの方もいっぱいおられるから、こういう軽い作品も必要なのかもね……
色々書いておいてなんだけれど、この作品が好きだという方を否定するつもりは全くありません。

と、脚本を勉強してから、単にがっかりするだけではなく、その先も想像して遊んでみるってことができるようになりました。
ま、これはこれで楽しい。

さて、やっと演者の感想ですよ。

聖乃あすかさん、本当に正統派の男役という感じで、美しいです。
冬霞の時に一皮むけた感があったのですが、それ以来ああいう雰囲気を見るチャンスがなくて、ちょっと残念。
今回も、優しく真面目な好青年。キャラクターの魅力が薄っぺらいので好演なのに、印象に残らない。
真面目な努力家であるほのかちゃんと、役のタイプが近すぎるのか、案外役作りが難しかったのではないかと感じます。

相手役の七彩はづきさん。こちらも役のキャラクターが魅力的に感じられないので、すっごく役作りが難しかっただろうなって感じます。応援したい気持ちにならないキャラなんですよねえ。演者の問題というよりも、キャラ設定の問題?って感じました。

陽キャラとして、鏡星珠さんのピーター、真澄ゆかりさんのアンナ、初音夢さんのヤンは明るく、楽しく、作品のアクセントになっていて好演だったと思います。

美風舞良さんが出て来るだけで、なんか安心しますよね。
でも、社長が清掃員に化けて社員の様子を探るという謎の設定がよくわからん。コミカルな演技は素晴らしいから、演者の問題ではないのですよ。
社長として登場して、あっさり許可するくだりも何か違う。まあ、きっと笑う所なのだろうけれど……
芝居上手を無駄使いしているなあってしみじみ思います。
金儲け主義の悪徳社長でダーンと対立するみたいな設定の方が面白かったのにな。ストーリー変えなきゃだけど……

一樹さんは、やっぱり上手いなあ。
世の中の酸いも甘いも知り尽くした大人が優しい視線で孫たちを見ている愛情深さがにじみ出て、一樹さんの言葉だけで、ちょっと涙ぐんじゃう。
ホント、コメディにせず、感動的な物語にすればよかったのに。

そして、私が一番印象的だったのが、侑輝大弥さんのレオ。
かっこいい~
ああ、もっと深い事情を抱えた闇キャラだったら面白かったのになあ~
喧嘩シーンの動きの美しいこと。
私、喧嘩シーンってあまり好きじゃないのだけれど、このほのかちゃんとだいやくんの喧嘩シーンは美しい。
蹴られるほのかちゃんも上手いから、だいやくんの暴力性が際立って、そして動きも綺麗。まるで、舞うように殴る、蹴る。
芝居も上手いしねえ~
この作品で一番印象に残りました。

花組はひとこちゃんがトップになったら花組二番手は、ほのかちゃん?
なんだか、それにしては残念な作品だったと私は思います。

でも、感じ方は人ぞれぞれ。
ほっこり、ハートウォーミングで心温まったという感想もいっぱいありますし、あくまでこれは私の感じたことです。

でも、誰が見ても良かった、面白かったという作品の方が良いに決まっているから、演出家の先生には素敵な作品を書いていただきたいと切に願います。

ところで、日本青年館ホールって初めて行ったのですよ。
外苑前っていう駅で降りるのも初めてかも。
秩父宮ラグビー場とか神宮球場とか国立競技場なんかがあって、お上りさんの私は、興奮してしまいました。
ホールの近くに、オリンピックの聖火台が展示されているのね。

早めに行ったので、国立競技場の周りを一周して、スターバックスで休憩してみました。
近所のマンションのセレブ妻が小さな子供連れでお茶していて、なんとも優雅な空間だなあって感心しちゃいました。

昼食は、日本青年館のSTADIUM CAFEでサラダを頂きました。

この一週間は、観劇週間で色々見ます。
忙しいけれど、楽しい、幸せな週です。


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宝塚歌劇 舞台感想まとめ|おとぼけ男爵 (note.com)

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