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ゴトゴトゴト

夕飯後、ヨーコは得意な編み物、こだまは大好きなお絵描き。
まだ小さなふたりの妹たちは眠りについて、母と長女、二人っきりのちょっといい時間。

そんな中、どこからともなく「ゴトゴトゴト」という低い音。遠くの方から聞こえてくるこの音は、例えば大きな段ボール箱が階段を転がり落ちるような鈍い音だった。

ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト。

「何の音かしらね」
編み物の手を止め、音のする玄関口へと目を向けるヨーコ。こんな夜分に引っ越しをしている人でもいるのかしら、と不審に思いつつ、編み物を続ける。

ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト。

「階段から荷物でも落としちゃったのかしら?」
引っ越しするなら静かにやれ、と言わんばかりに、少し迷惑そうに玄関口へ目をやりつつも、また編み物に没頭するヨーコ。

ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト。

「でも、こんな夜に引っ越し?」

ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト。
ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴト。

「あっ!うちだわ、お風呂っ!!」

編み棒を投げ出し、風呂場へ走るヨーコ。画用紙から目を上げ、母親を目で追うこだまが目撃したのは、開かれた風呂場のドアから『ザ・ベストテン』のスモークのごとく溢れ出す湯気、それをかき分けて風呂場へ突入していくヨーコの男前な後ろ姿だった。

音の正体は段ボール箱なんかではなく、空焚き寸前のバランス釜のうなり声だった。ゴトゴトゴトではなく、正確には、ボコボコボコ。食後にこだまを風呂に入れようと追い炊きしたまま、すっかり編み物に熱中にしてしまったヨーコのうっかり、そしてかなり危険なエピソード(火事にならなくてよかった…)。


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