ミドルクライシスな心に突き刺さるEXPERT / KREVA
1年前のリリースなのだが、久しぶりに聴いて切実に胸に迫った曲、KREVAのEXPERT(2023.09.08配信リリース)について書く。
KREVAの楽曲は、彼がソロデビューした頃から愛聴していて、ライブにも足繁く通っていた。
自信に満ち溢れたラップとメロディアスなトラックメイキング、アンダーグラウンドとは一線を画した活動で、音楽業界を我流で突き進むスタイル。
韻を踏みに踏み倒しながら、いつも強く、前向きに励ましながら、孤高のスタイルゆえの繊細さをときに垣間見せるリリックも魅力的だった。
だけどそんな時はたちまち過ぎゆき、KREVAに触れる機会は減っていた。
昨年、この楽曲がリリースされた時に一度聞いたけれど、あまりピンと来なかった。
正直にいうと、あまりにまぶしすぎた。
近年のKREVAの活動をざっとみても、自己の作品だけでなく、ZORNやMACCHOとのコラボレーションやKing & Prince楽曲のプロデュース、その上まさかの文房具マニアとして「マツコの知らない世界」にも出演。
正しく、ザ・いけてる大人。
日々の良しなしごとに囚われ、クヨクヨしがちな私には、KREVAの放つ光は直視するのに強すぎる。
”EXPERT"というタイトルも、「プロフェッショナル」の意味合いを強めに感じて、心のどこかに反発する気持ちもあった。
私もう、そんなに強く振る舞えない。
ごめんKREVA。
なぜかわからんけど謝ってた。
KREVAが今年、ソロデビュー20周年イヤーということで、今回改めて聴いた。
語彙とか度外視でいうと、
家で聴いてても泣けるし、
車乗ってる時も涙出てくるし、
コンビニ入るのにも思い出して泣けてくるし、
途中からもうやめて!
(自分から聞きに行ってるんだけど)
ってなる破壊力だった。
この曲は、若者に向けての応援歌のように見せかけて、いわゆる”ミドルクライシス"世代の心をえぐりにえぐってくる。
歌詞の冒頭がまず、
初っ端から当然のごとく韻を踏みながら、現状への理解を思いきり示した上で、昨今の寄り添い系風潮ではまず否定されがちの「根性」というワードを出してくるセンス。
KREVAじゃなきゃできない上に、なんか忘れがちな精神性だった。
手っ取り早かったり、うまいこと潜り抜けれる方法をなんとなく見つけたフリして、粘り強さを置いてきぼりにしてないか。
もう最初から反省モードの私。
黙って聞いてたら泣くので、一緒に歌ったら泣かないのではと思い、歌ってみたけど難しくて歌えねえよ。なんだこのフロウ。
元々すごかったけど、一緒に歌うのすらできない領域にまで行ってたとは。
KREVA得意のメロディアスなラインに気持ちよくなっちゃったら、えらい目に遭うじゃない。
また、フロウの進化で見逃せなかったのは、以下の部分で
太字にしている言葉の部分で、タメを入れて、強く表現している。
これが演歌の歌い手のやり方にも似ていて、細かいけどとても効果的。
こういうやり口は、非常にKREVAらしい。
過去に石川さゆりとのコラボレーションもしてたので、そういう現場からも学びを得ていたのでは。
ラップで演歌のスタイルって、KREVAにしかないキャリアプロセスがあってのものだろう。
いつになってもKREVAは貪欲に吸収し、自分の畑で耕して唯一無二の実りにする。
ブリッジに至っては、
とたたみかけ、
と肯定する。
めちゃくちゃ励ますじゃん、KREVA。
そしてめちゃくちゃ真理じゃん。
このブリッジが胸に突き刺さりまくり、泣き死にそうになりました、私。
いつも自信に溢れてるKREVAが「俺はいつもExpertだぜ!」って言ってると思ってた私、何にも聞いてなかったんだな。
誰がどう思うかは関係ない。
自分がなにより、今までの自分をちゃんと見てるはずで、その上で「君は君のExpert」って、ミドル世代よ、これ刺さらないか・・・。
KREVA本人もインタビューで、「30代の人たちを想定して作ってたけれど、作るうちに、自分に対して言っているような気がしてきた」と語っている。
ここで歌われてることも、自分の内面と向き合って出てきた言葉で、決して上から目線で言っている内容じゃない。
KREVAのパブリックイメージって「自信」だと思うし、確かに人を鼓舞したり引っ張っていく力がみなぎっている人だ。
だけどその奥に通底してるのは、「やさしさ」だと思っている。
それがあるから、自信を持って自分の役割を果たすという信念がいつも揺るがない。
それはもうずっと変わっていない。
その変わらなさにも、泣けて仕方なかった。
1年経ってこんな大切なことに気づく、自分のぼんやり具合を反省しつつ、やっぱ幾つになっても探求していくのは大切なのだと胸に刻んだ。
まあ多分、この曲聴く時はしばらく泣くんだろうな。
皆さんのお耳に留まりましたら、幸いです。