私の考える企業戦略#16:積水ハウス

1. 企業
 積水ハウス(https://www.sekisuihouse.co.jp/company/info/outline.html)

2. 結論
 ⑴ 大手ゼネコンと協業し海外、アジア市場を本格的に攻略へ。
 ⑵ 民泊事業者の民泊施設の設計、施行需要を取込む。
 ⑶ シニア層に配慮した住まい設計でもってリフォーム・賃貸需要の取込みを加速。

3. 現状サマリー(*1)
 ⑴ 市場
  ① 住宅着工戸数は、06年度で128万戸台だったのが09年度に70万戸台にまで水準を下げた。
    その後は4年連続で増加し、その後は税率引き上げ前の駆け込み需要の反動により減少したが、
    近年は90万戸台で推移している。野村総合研究所の予測では30年度55万戸まで縮小する見通し。
   ・ 17年度比率:貸家43.4%、給与住宅(社宅等)0.5%、分譲住宅26.3%、持家29.8%
  ② 世帯総数は2023年5,419万世帯をピークに減少開始、2040年には5,076 万世帯になる見通し。
    平均世帯人員は2015年の2.33人から減少、2040 年には2.08人となる見通し。
   ・ 2015~40年の間に「単独」世帯は 34.5%→39.3%、
     「夫婦のみ」は 20.2%→21.1%、「ひとり親と子」は 8.9%→9.7%と割合が上昇する。
   ・ 一方で、かつて40%以上を占めた「夫婦と子」は 26.9%→23.3%に。
  ③ 世帯の高齢化が進む。
    2015~40 年の間に世帯主が65歳以上である世帯は1,918万世帯→2,242万世帯に、
    75歳以上である世帯は888万世帯→1,217万世帯に増加する見通し。
   ・ 全世帯主に占める65歳以上世帯主の割合は 36.0%→44.2%に増加する見通し。
   ・ 65歳以上世帯主に占める75歳以上世帯主の割合も46.3%→54.3%と増加する見通し。
  ④ 海外市場:積水ハウス含め、日本の住宅メーカーが海外事業を本格化させている。
   ・ 上記のとおり、少子高齢化に伴う人口減で国内の新築需要が縮小する中、
     米国や建設ラッシュが続く中国、アジアの巨大な潜在市場に攻勢をかけ活路を見いだそうと、
     一戸建て住宅からマンション、建築作業員向けのプレハブ集合住宅まで、各社取組んでいる。
   ・ 積水ハウスの他、パナソニック、トヨタホームズ、大和ハウス工業など
  ⑤ ホテル市場については、今後も伸びしろは認められるものの、
    宿泊主体型ホテルは、今後も新規オープンが多く見込まれるため、
    同タイプのホテルの宿泊需給が緩む可能性には留意が必要。
   ・ 加えて、働き手の不足という懸念もあるため、これらを押さえておかなければならない。
  ⑥ 民泊市場については、18年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されたことで一時縮小予測。
    ただし、需要面が堅調なため、市場は今後回復し、成長していく見込。
   ・ 2018年の市場は前年比33.5%減の702億円を見込む。
   ・ 新法における申請手続きの煩雑さや年間営業日数の上限による採算性の低下などにより、
     サービス提供から撤退する個人事業者が出てきている。
   ・ 一方で、需要面については堅調なため、2019年には回復、
     2020年の市場は2017年比22.9%増の1297億円になる見通し。
 ⑵ 自社
  ① 1960年設立、大阪に本社を構える建設事業者。売上高、営利、経常ともに成長中で国内2位。
    世界一の累積建築戸数(238万戸)を誇る強固な顧客基盤を構築している点、
    代理店を介さず顧客と直接契約し、施工品質を確保する「責任施工」体制を構築している点が、
    強みとなっている。
  ② 事業内容と実績としては以下の通り。(13年度〜17年度順、売上高、単位:億円)
   ・ 戸建住宅事業    5,176 4,270 3,937 3,831 3,711 → 減少推移
   ・ 賃貸住宅事業    3,562 3,984 4,006 4,403 4,428 → 増加推移
   ・ リフォーム事業   1,250 1,341 1,344 1,334 1,368 → 微増・横ばい推移
   ・ 不動産フィー事業 4,084 4,282 4,487 4,691 4,898 → 増加推移
   ・ 分譲住宅事業     1,334 1,187 1,374 1,420 1,554 → 増加推移
   ・ マンション事業  630   566   814  661 774  → 微増・横ばい推移
   ・ 都市再開発事業   424   1,783   930 1,304 1,037
   ・ 国際事業     853   798   895 1,821 3,067 → 増加推移
   ・ その他      734   911   797 800 751 
   → 合計     18,051  19,127 18,588 20,269 21,593 → 増加推移
  ③ 受注高は以下の通り。(13年度〜17年度順、単位:億円)
   ・ 戸建住宅事業    5,250 3,886 3,875 3,820 3,626 → 減少推移
   ・ 賃貸住宅事業    4,266 4,085 4,345 4,617 4,632 → 増加推移
   ・ リフォーム事業    1,351 1,256 1,341 1,345 1,378 → 横ばい推移
   ・ 不動産フィー事業 4,084 4,282 4,487 4,691 4,898 → 増加推移
   ・ 分譲住宅事業    1,325 1,222 1,326 1,518 1,536 → 増加推移
   ・ マンション事業   766  657 777  864 1,125 → 直近は大きく増加
   ・ 都市再開発事業   446  1,761 930  1,304 1,325
   ・ 国際事業     825  945 1,470 1,588 3,164 → 増加推移
   ・ その他      969  828 790  768 753
   → 合計       19,285  18,926 19,345 20,520 22,441 → 増加推移
  ④ 国際事業については、日本国内で育んだ工業化住宅の高い品質と環境技術を生かし、
    世界の新たな市場で住宅供給を進めているが、実情は投資を伴うマンションなど、
    都市開発が事業の中心。住宅メーカーというより不動産投資家に近い現状。
   ・ アメリカ向けが全体の50%以上を占めており、次いでオーストラリア、中国と続く。
   ・ 国によって社会問題となっている大気汚染や水質汚染への対応など、
     環境についても厳しい要求に応えることが求められる。
   ・ 世界的な建築賞である「Best Tall Building Worldwide」を受賞。
    - オーストラリア・シドニーの複合開発「セントラルパーク」プロジェクトにて。
     (シンガポール系フレイザーズ・センターポイント・リミテッドと11年から協業)
  ⑤ 民泊事業については、楽天グループの民泊事業会社である楽天LIFULL STAYの「Rakuten STAY」における
    コンドミニアム型特区民泊施設「Rakuten STAY×ShaMaison 大阪出来島駅前」の設計・施行を担当した。
 ⑶ 競合
  ① 大和ハウス工業
   ・ 国内1位。
   ・ 大規模物流施設や大型複合開発、ホテル事業など、
     海外事業を含めて事業領域の多角化を進めている。
   ・ 18年にはインドネシアで5000戸の大規模マンション建設にも着手している。
  ② パナソニック
   ・ 17年にパナホームを完全子会社化し、中国潜在需要に照準を合わせて海外攻略を進めている。
   ・ 18年には台湾初の分譲住宅共同事業「(仮称)三重中興橋プロジェクト」に
     三井不動産グループと共同で参画することを決定している。
  ③ 中堅・準大手のゼネコン(総合建設会社)が、住宅メーカーに買収されるケースが相次いでいる。
   ・ 大和ハウス/フジタ(13年)
   ・ 積水ハウス/鴻池組(16年)
   ・ 旭化成ホームズ/森組(同上)
   ・ パナソニック/松村組(17年)
   ・ 住友林業/熊谷組(同上) 
 ⑷ 強み
  ① 世界一の累積建築戸数(238万戸)を誇る強固な顧客基盤を構築している
  ② 代理店を介さず顧客と直接契約し、施工品質を確保する「責任施工」体制を構築している
  ③ 戸建、賃貸、リフォーム、不動産フィーなど、幅広く事業展開
 ⑸ 弱み
  ① 海外事業におけるアジアでの実績
 ⑹ 機会
  ① 海外市場
  ② 賃貸市場
  ③ 不動産フィー市場
  ④ 民泊、ホテル市場
  ⑤ 世帯の高齢化
  ⑥ 建築・土木分野で高い施工技術・能力を持つゼネコンとのシナジー効果
 ⑺ 脅威
  ① 国内住宅着工戸数の縮小
  ② 世帯総数と世帯人員の縮小

4. 問題点
 ⑴ 強みとしていた戸建住宅事業の国内市場が頭打ち・縮小トレンドにある。
 ⑵ 海外事業展開中だが、その50%以上はアメリカ向けであり、アジア市場でのプレゼンスが低い。

5. 課題設定
 ⑴ 海外市場の攻略
 ⑵ 伸びる市場セグメントへの注力

6. 方向性(*2)
 ⑴ 大手ゼネコンと協業し海外、アジア市場を本格的に攻略へ。
  ・ 国内市場は全体的に縮小傾向にあり、今後の長期的計画を立てていくうえでは海外攻略が必須。
  ・ 既に傘下に入っている鴨池組については海外事業がそこまで強くない。
  ・ また、積水ハウス自身についても、アジア地域は中国で実績をあげているとはいえ、
    まだまだ事業全体の主な割合を占めているのはアメリカ向け。
  ・ そこで、海外、アジア市場で住宅で実績のあるゼネコンと協業し、
    ゼネコンの高い施行技術・能力と積水ハウスの持つ環境技術などでシナジーを図り、
    社会問題となっている大気汚染や水質汚染への対応など高い環境レベルが求められる市場での
    実績構築、拡大を目指す。
  ・ 大林組については、2000年代以降、アジアで複数事例を出しており、
    清水建設についても東アジアを主に事業展開している。
    これら大手ゼネコンを候補に、協業体制を構築してアジア市場を攻略する。
 ⑵ 民泊事業者の民泊施設の設計、施行需要を取込む。
  ・ 既に楽天LIFULL STAYで実績をあげているが、
    今後も民泊市場が成長していくことを考慮し、その他事業者との提携、実績拡大を目指す。
 ⑶ シニア層に配慮した住まい設計でもってリフォーム・賃貸需要の取込みを加速。
  ・ 今後世帯が全体的に高齢化トレンドにあるため、バリアフリーなど、シニア層のライフスタイルに
    合わせた住まい設計が求められる。
  ・ この需要は今後伸びてくる見込であることから、ここを取込むことができるよう、
    住まい空間設計はもちろん、見守りサービスを関連事業者と提携するなどしてサービス展開し、
    シニア層にとっての住まい価値向上を図っていく。

ーーー参考資料ーーー
*1:
・一般社団法人日本建設業連合会『建設業ハンドブック 2018』
 https://www.nikkenren.com/publication/pdf/handbook/2018/2018_03.pdf
・国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018年推計』18/1/12
 http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_PR.pdf
・SankeiBiz『住宅メーカー各社、海外市場に活路 国内縮小で生き残り策模索』18/10/17
 https://www.sankeibiz.jp/business/news/181017/bsc1810170500005-n1.htm
・みずほレポート『ホテル市場の変調の兆しをどうみるか』18/8/29
 https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report18-0829.pdf
・新建ハウジング DIGITAL『2020年の民泊市場は1297億円、富士経済調べ』18/9/18
 https://www.s-housing.jp/archives/144531
・積水ハウス『会社概要』
 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/info/outline.html
・同上『よくわかる積水ハウス』
 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/individual/strength.html
・同上『決算ハイライト』
 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/highlight/index.html
・同上『会社を知る 国際事業』
 http://www.saiyo-sekisuihouse.jp/company/business/08.html
・同上『積水ハウスグループ 2018年度 経営計画説明会資料』 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/library/info/data/__icsFiles/afieldfile/2018/03/22/p20180309_1.pdf
・日本経済新聞『積水ハウス、揺らぐ柱 頼みの海外 キーマン退場』18/3/9
 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27931940Z00C18A3TJ2000/
・MINPAKU.Biz『楽天LIFULL STAY、積水ハウスとコンドミニアム型特区民泊施設を大阪市に開業へ』18/9/11
 https://min-paku.biz/news/rakuten-stay-shamaison-osaka.html
・パナソニック『三井不動産グループとパナソニックグループによる台湾初の分譲住宅共同事業「(仮称)三重中興橋プロジェクト」参画決定』18/8/7
 https://news.panasonic.com/jp/press/data/2018/08/jn180807-1/jn180807-1.html
・PRESIDENT Online『住宅会社にのみ込まれる”ゼネコン”の末路』17/12/21
 https://president.jp/articles/-/23971

*2:
・大林組『アジアでの実績』
 https://www.obayashi.co.jp/mt/mt-estraier.cgi?offset=1&limit=20&blog_id=9&no_query=1&lang=jp&searchtype=works&query=&works_category=24&works_year=ALL&works_region=%E6%B5%B7%E5%A4%96&works_area=%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2&submit=%E6%A4%9C%E7%B4%A2%E3%81%99%E3%82%8B
・清水建設『不動産開発』
 https://www.shimz.co.jp/topics/stock/item03/

以上