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文化的娯楽感想 映画 「Aftersun アフターサン」

※ネタバレを含む内容です


2024年10月ぐらいに見た映画で、しばらく引きずった。
僕も父親を早くに亡くしたので、昔を思い出すと幼いソフィに、今の視点で見ると比較的年齢の近くなったカラムと成長したソフィに感情移入してしまう。
ビデオカメラに残されたはっきりとした記録、父と対面した状態の自分の記憶、経験で補完した想像の3つの視点が入り乱れて進んでいく。
「大人になった今ならわかる」という感覚と、2周目視聴するという行為が一体になってるのがすごいと思う。
1度目でははっきり説明されることのない父親の暗い影が、2度目の視聴であちこちに散りばめられているとハッキリわかる面白さ。
After sunって日焼けって意味らしい。見たあと残るこのヒリヒリを考えるとタイトルまで秀逸だなって思う。

キラキラとした子どもの思い出

何も知らない子どもの頃は全部キレイで楽しかった、幼いソフィの視点。
夏休み最後の時間を、大好きな父親とだらっと過ごす思い出はずっとキラキラしている。
自分のことでいっぱいいっぱいで、完璧な親に沢山寄り掛かって、実際はどんな気持ちだったのかなんて気にもしてない。

似たような記憶が僕にもある。
夏休みに流れるプールのあるレジャー施設に連れて行ってもらった。
完璧には思い出せない、朧げで輪郭のはっきりしない細切れの記憶。
着替えた後、腕に巻き付けたロッカーの鍵バンド。
歓声と、日差しと、連れ立って歩く父親の背中。
当時膝を怪我していて、絆創膏はしてるけどこのまま水に入っていいのかという不安な気持ち。
「大丈夫」と促され一緒に流れるプールに浮かんで、水面と水中交互に行き来しながら、水滴を通して見る太陽がいつも以上に眩しく見える。
一休みして買ってきてもらったものを一緒に食べる。何を食べたかは覚えてないけど、おいしかったなという記憶だけが残ってる。

たぶんビデオカメラとかでも撮ってただろうけど、どっかいってしまって探し出せなくなってしまった。

大人の重圧

大人であるカラムはただ楽しいってワケにはいかない。
鬱、自身の性的嗜好、事業の失敗、抱えている様々な問題と向きあいながらも、子供の前では大人をやらなきゃいけない。
でも最後の夏休みだからいい思い出にしてあげたいという思いはある。
何かを残してあげたいって明るく振る舞ったり、無理して高い絨毯を買ってみたりする。

「11歳のときどんな大人になっていると思っていた?」という無邪気な質問にグサっとくる。
「ちゃんとやれてんのか?」という自責と「こんなはずじゃなかったのに」という後悔で押しつぶされそうになる。

僕も精神的に落ち込んだ経験が何度もある。
苦しみから逃れようともがき、精神医学関連の本を積み上がるくらい読み、日光を求めて散歩したり、トレーニング等で体を動かす。
自分なりに抗ってみるけど、押し戻したしんどさは、寄せて返す波みたいにすぐ戻って来て負けそうになる時もある。

作中でもカラムは何度となく危うげな姿を見せる。
すぐ迫るバスを気にせず横切ったり、細い手すりの上に立って空を拝んだり、一人きりで買った絨毯に横になってみたり、暗い海に一人服を着たまま向かっていったり。
「なんで?」と言いたくなるその行動の理由が、僕は自分の事の様にわかる。すぐそこまで追いすがってくる希死念慮といつも戦っていたんだろうなって。
大人になったソフィもわかってるから、想像でそれを補完する。
きっとこうだろうな、今ならわかるけどって。

最後のダンス

これまでを振り返り辿り着く最後のダンスシーン。
入り乱れる記憶と想像。ごった返す人々の記憶の中からようやく掴んだ父親を抱きしめて、突き放す。
あなたの気持ちがやっとわかった。でもあなたのようにはならないと。

僕も父親に直接会って、色んなことが聞けたらならどんなに良いかと思うときがある。
親父はあの時どんな気持ちだった?何を抱えて生きてた?
いなくなってずっと大変だったから文句だって言いたい。
お前のせいで大変だったんだこっちはと。頼りたかったし、相談したかったし、居てほしかったんだと。

ラストシーン、名残惜しげにバイバイを言って空港で別れてビデオが終わり、大人になったソフィがビデオカメラを持ったカラムを想像する。
カラムはビデオカメラを閉じて後ろにある扉へ歩いていく。
扉を開けたその先の、入り乱れるたくさんの人々の記憶の中へ帰っていき、映画が終わる。
ビデオに残るバイバイは、「また会える」と思いながらしたさよならで、二度と会えないなんて思ってなかったから、ずっと胸の奥に閉じ込めていたであろう想い。
カメラと記憶と想像で手繰り寄せた父親と、あの時したかった別れを今ようやく終えることができたんだろうなと思った。

父親の写真を見る度にこの映画のことを思い出す気がする。


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