メラ
ボールが来る。
瞬時に反応しステップ開始。
ワンバウンドしたボールに照準を定め打点に入る。
タイミングを合わせてスイング。
「パンッ」
中学1~2年の頃はその事で頭が一杯だった。
野球部、サッカー部は厳しそうという理由で安易に入部した軟式テニス部。
いざ入ると顧問の先生は般若のような顔をした30代の男性だった。
時々吠える般若の叫びは、一瞬にして周囲を凍りつかせる。
しかし、当時の私は般若に認められたい気持ちでいっぱいだった。
男子コートは一面しかなく、部活時間の大半はレギュラークラスが使用している。
1~2年生は玉拾いや素振りで時間を費やしていて、私もその中に埋もれていた。
そんな補欠組でも30分程度の時間のみ、ラケットを持ちコートでの練習時間を与えられていた。
練習内容は般若がネット越しでボールを打ち、それを補欠部員が打ち返す。
そしてボールを般若側のコート両端に白線で書かれた、1メートルほどの四半円スペースに 入れなければいけない。
それが結構難しいのだ。
慎重に狙いにいって、山なりのロブボールを打つと大概入らない。
コツとしては、最適な打点の場所まで出来るだけ早く移動する。
そして、身体を開きすぎないように気をつけ、左手を前に出して照準を定める。
後は、おもいきってラケットを振り抜く。
そうすると、打ち込みたい場所にボールが飛んでいく。
与えられた30分間は一球も無駄にすることなく、四半円に向かって打ち込みアピールを続けた。
ある日の事、とつぜん般若が私に向かって言った。
「最近頑張ってるな!レギュラーの練習に混ざってみろ」
急な抜擢に視界がぼやけ、足が震えだしたのを今でも覚えている。
結局レギュラーにはなれなかったけど、あの日のことは一生忘れないだろう。
中学二年にして初めて努力が認められた瞬間だった。
40を過ぎ、何となく無難に仕事をこなしている日々。
こんなんじゃ駄目だと、心の奥底の自分が叫んでいる。
あの頃のメラメラとした熱いものを取り戻したい。
息子が50音や数字を覚えている姿を見て、微笑ましさと同時に焦りの感情が沸き上がる。
今年は仕事に関わる資格を簡単なやつと、すごく難しいやつを1つずつ取得を目指している。
燃えたい。
打点にはもう入っている。
あとは、おもいっきり振り抜くだけなんだ。