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起業はツラいよ日記 #94

1月19日 日曜日

予定されていた撮影が突然キャンセルになった日曜日。もともと当日使う資料を出力するため午前中は会社に行こうと思っていたので恵比寿に向かう。帰りに『こじらせ男子とお茶をする』(月と文社)をジュンク堂池袋本店で購入。この本、読むのを楽しみにしていた。島田さんやPhaさんが注目されがちだと思うが、個人的には下平尾さんが取り上げられているのが最高だ。出版社である共和国が出す本はわたしの興味関心ともビッタリであり新刊情報を見るたびにワクワクしている。

筆者撮影

撮影は翌日の月曜日にリスケされた。そしてスタッフは朝七時にスタジオ入りだ。そのスタジオはどこにあるか。代官山だ。

おいおい、わたしは間に合うのか。自宅近くの始発バスの発車時刻を調べてみる。五時四七分。その時間に乗車して最寄駅まで向かったとしても七時にスタジオ入りは間に合わない。では最寄駅まではタクシーで向かうしかないな。乗車賃 三千円は覚悟しなければならないが、経費申請するからいいだろう。一時的に立て替えよう。しかし、そんな早朝からタクシーが街を流しているか不安だから事前に配車予約をしておこうと思う。タクシー会社に電話してみる。日曜日の夕方。

「もしもし、明日早朝タクシーを配車したいのですが」

「あいにくそのエリアのタクシーは全て配車済みで空きがありません」

「え、一台も?そうなんですか!?」

「そうなんです」

こういう時はゴネても仕方がない。電話口の男性が悪いのではない。社会の仕組みが悪いのだ。力なく電話をきる。

まだ策はある。自転車で最寄駅に行くしかない。ただ自転車で向かうとしても二〇分は見積らねばならない。電動自転車を使いたいな。だが家には妻が使う電動自転車しかない。近くのシェアバイクステーションを調べてみる。大丈夫だ、空きがある。だが、シェアバイクを使うときの落とし穴があることをわたしは知っている。返却するステーションに空き枠が無い場合、システムは返却を受け付けてくれないのである。目的地に着いたとて、借りた自転車を返却する枠が無ければ空き枠を探し回ることになるのだ。空き枠を求めて彷徨う空き枠ゾンビ。知らんけど。

大丈夫だ、今なら駅から少し遠くなるが空き枠があるステーションがあった。ただ、これは前日の状況でしかない。明日、わたしが出発する時間に空いてなければ意味がないのだ。空き枠ゾンビになりたくない。

こういう物事が確定していないなか眠るのは不安だ。それでも横になれば直ぐに寝つけるのがわたしの良いところ。

1月20日 月曜 早朝

午前三時半に目を覚ます。

この時間に起きること、それ自体は苦ではない。しかし、誰かに強制されてこの時間に起きるという事実がわたしを疲弊させる。

歯を磨き顔を洗う。外着に着替える。今日迎えるクライアントの服に袖を通す。気遣いでもなんでもないが、こういう細かいことの積み重ねがクライアントとの関係を良くしていく。これはビジネスのためでもあるけれど、自分自身が仕事に愛着を持っていくことにも繋がるので疎かにしてはいけない。

コーヒーを淹れる。いつものルーティン。淹れたコーヒーを啜りながら、前日空振りしたタクシーの配車に再度挑戦してみる。配車アプリのGOは便利だ。無事に配車できた。なんだよ、焦らせないでよ日本交通さん。

暗い寒空の下、タクシーを待つ。白いクラウンの個人タクシーだった。丁寧な対応で有難いのだが、運転が合わずに酔う。乗車して暫くすると雨がポツポツ降ってきた。

「お客さん、傘持ってきました?」

「どうだったかな。ガサゴソ」

カバンをゴソゴソするわたしの返答を待たずして運転手さんが「ビニール傘差し上げましょうか?」と聞いてきた。最近のタクシーはこんなにも親切なのだろうか。さっき見た天気予報で今日は晴れて暖かくなるって言ってたし荷物になっても困る。

「ありがとうございます、でも大丈夫です」

丁重に断る。話している間も車酔いが進行する。少し気持ち悪い。早朝で交通量が少ないこともあると思うが、どうしてタクシーの運転手さんはあんなに飛ばすのだろう。そんなスピードであれば予定通り、いや予定より早く最寄駅に到着。

この早朝の駅のなんとも言えない雰囲気。スーツ姿のサラリーマンではなく、カジュアルな服を着た五〇〜六〇代の人が目立つ感じ。誰もが少し俯き加減で眠そうだ。わたしもそのうちの一人である。

ホーム上は静かすぎて天井から降ってくるアナウンスが五月蝿い。わたしは音の重なりが非常に苦手なのだ。上り電車のアナウンスと下り電車のアナウンスが重なる。さらに、駅員のイレギュラーなアナウンス。その三重の音が一度に襲いかかる。頭は大混乱だ。この混乱が酷いときには眩暈に繋がるし、吐き気すら襲ってくる。これが体調を測るバロメーターだったりする。こういう症状に名前が付いてた気がするなぁ。でも今日は大丈夫。まだまだ仕事しても大丈夫。

スタジオがある代官山に到着。こんな朝っぱらから店も空いてないし、人も歩いていないよ。代官山って住宅が多いってきくけど、生活感ないよね。生活している人のイメージもないし。

早く着きすぎたので通り道にあったセブンイレブンに立ち寄る。こういう時、イートインスペースがあって助かる。レジに並んだけど店員さんが誰もいなくて、なんとなく突っ立っていると後ろから声がした。

「お待ちくださぁい」

アジア系の外国人の方だった。朝の品出しをしていたのかセブンイレブンのあの緑色のユニフォームではなく、ベージュのTシャツ姿だった。いそいそとユニフォームを羽織ってレジに入ってくる。ちょっと迷惑そう。「あ、着なくていいですよ」と言おうかと思ったけれど、言うかどうか迷っている間に商品をピッてされた。こんな朝っぱらからコーヒーを買えるのは、わざわざ日本くんだりまで働きにきてくれる外国人の方がいるからだ。ありがとうございます。

ホットコーヒーを購入して席に着く。普段ならブラックで飲むコーヒーも、こういうイレギュラーな日に限ってはミルクと砂糖を入れてしまう。しかも砂糖2本。甘さが心地よい。糖分を摂取するとエネルギーが貯まる気がする。気がするだけで余分なお肉に変わってしまうだろうけど。

少し外が明るくなってきた。そろそろ行くかと重い腰をあげてスタジオに向かう。六時五〇分にスタジオに入りした。わたし以外まだ誰も来ていない。昨日「これは絶対に間に合わないかもしれない」という不安に苛まれていたとは思えない。結局はどうにかなるものなのだが、やはりわたしは慎重な性格だし、根がネガティブな人間なのだろう。

無事に撮影終わるといいな。

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