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すったもんだあった放送関係の有識者会議にあって、傾聴すべき重要な発言


8月に二転三転した公共放送ワーキンググループ

総務省の有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」とその分科会を追ってきた。とくに「公共放送ワーキンググループ(WG)」の展開には注目してきた。ここでも数回に渡り記事にしている。

特に日本新聞協会が終盤でぐいぐい存在感を発揮し、NHKのネット必須業務化に猛烈に反対する上に、「NHKのテキストニュース廃止」とまで言い出したのは呆れた。いまWEBやアプリで読めるNHKのテキストニュースは、デジタル化で苦労する新聞業界、特に地方紙の妨げになるというのが理由だ。
いますでに読めるニュースをなくせというのは、国民の知る権利の侵害だ。言論機関が言うことかと驚く。

「新聞業界の恐るべき政治力」の記事で、8月10日までの動きは書いた。その後どうなったかを東洋経済オンラインに書き、その記事がちょうど今朝公開されたのでぜひ読んでほしい。

簡単に流れをまとめると・・・

  • 7月12日、自民党情報通信戦略調査会で新聞協会が主張し逆に政治家たちから批判される

  • 8月2日、再び自民党調査会に新聞協会・民放連・NHKが出席。「NHKテキストニュース廃止」を新聞協会が主張との報道

  • 8月10日、「公共放送WG」で新聞協会の主張を尊重したかに見える空気に。「ガス抜きのため」との情報も

  • 8月23日、自民党調査会の「提言」の中に「理解増進情報の廃止」が出現

  • 8月29日、「公共放送WG」で「報告書(案)」が提示。理解増進情報は廃止だが、テキストニュースは再整理して必須業務化に組み込むとあった。新聞協会は「時間的制約のために載り切らなかった情報」に特に修正を要望

  • 8月31日、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」に「公共放送WG」の報告書が出てくるが、29日のものから「時間的制約のために載り切らなかった情報」が削除されていた

こうしてみると、8月に入ってから新聞協会の”猛攻”があったことがわかる。猛攻もみっともないが、それに屈した形の「公共放送WG」はそれでよかったのか。一部削除はどう見ても、新聞協会の要望を呑んだのだ。

電通総研・奥律哉氏の発言全文書き起こし

31日の会議を忸怩たる思いで傍聴していたら、電通総研・奥律哉氏が「公共放送WG」の報告を受けて発言した。それを聞きながら筆者は「その通り!」などと、PCモニターを通して届かない野次をあげたりしていた。これは当日傍聴しなかったみなさんにも共有したい!
放送関連の有識者会議を私は毎回、CLOVAというアプリで録音している。AIがテキスト化もしてくれ、かなりの精度だがやはり細かい部分は録音を聞き直して修正が必要だ。そうやってテキスト化した奥氏の発言部分をご本人にお送りし、さらに加筆・修正していただいたものを、ここに公開する。もちろんご本人の了解も得ている。すごく大事なことがたくさん入っているのでぜひ読んでほしい。

今回の公共放送のワーキンググループ(WG)の取りまとめ、特にNHKのあり方は、非常に世間一般の関心も高く難しい課題だと思いますが、まとめていただきありがとうございます。私も公共放送WGの会合は時間の許す限り傍聴させていただきましたので、気になる点2つについてコメントさせていただきます。 1点目は、理解増進情報の制度廃止について、2つ目は競争評価の仕組みへの期待であります。

 まず1点目の理解増進情報の制度廃止に関してです。
そもそも我が国の放送のデジタル化あるいはDX化、あるいは配信が諸外国に比べて遅れているのは周知の事実です。そんな中で、二元体制を担うNHKと民放が切磋琢磨してここまで試行錯誤を繰り返してきました。
 しかし民放の場合は、広告主のマーケティング課題の解決がありますので、当然ビジネスモデル上ではNHKの方がトライアルしやすい環境にあると思います。そういう意味では、イノベーションを切り拓くドライバーをNHKに託すのが最善であると感じます。彼らが潤沢なリソースを使って試行錯誤をするのが大事です。
 しかしながら、今回の議論を聴いてますと、理解増進情報について音声とテキストと映像を分けて考え、テキストベースについてはかなり制限をする方向性が示されています。
 以前の会合でNHKは、情報の参照点になると言い、それならばオープンな環境においてネット空間に情報がなければいけないのではないかと申し上げました。これを全うできるのはNHKしかいないと思うのですが、ここは実現しなくていいのかということが課題です。
 インフォメーションヘルス、あるいは健全な情報空間という話がずっとこの会議の中でキーワードになっている時に、 NHKが発信する情報は欠かせないと思います。あるいは、最近話題の生成AIについても教師データとして、NHKのテキストデータが貢献することもあると思います。ジャーナリズムの一翼を担うNHKが放送波に載らないコンテンツもネットを活用して発信することが重要だと思います。
 特に報道、これにはストレートニュース、解説報道、速報、ドキュメンタリーもあります。それからあまり話題になりませんが、教育・教養、ドラマ、バラエティ、スポーツ、福祉と、様々なジャンルのコンテンツをNHKは提供しています。あらゆるジャンルにおいて、取材とネタと裏の情報、逆サイドからの意見・視座、通説への反論、あるいは解説報道といったものをNHKの今持っているリソース、人財とノウハウをあまねく利用することが、国民生活に資すると思います。
 ここをNHKがリーダーシップを取って、ベストプラクティスとして民放や新聞社に開示するという手順が正しいのではないかと思います。 

 しかしながら、ここで民業圧迫という議論がかなり大きく浮かんできたと感じます。2番目の観点は競争評価の仕組みへの期待です。
私の個人的な見解ですが、それぞれの地方エリアにおいてNHKのローカル放送局、そして地方紙がカニバっているとは思えないのであります。取材力、発信力、地域コミュニティへの寄り添いの仕方など、圧倒的に地方紙に軍配が上がるのではないかと思います。
 民業圧迫論ですが、NHKのネット配信が活発になることが原因で、新聞社の様々なネット系のDX化が遅れているという因果がはっきりあるのでしょうか?私は、それはないと感じております。WGの構成員からも、エビデンスに基づく議論をすればという話が聞かれました。本日のペーパーにもエビデンスに基づくという言葉が組み込まれております。ぜひ今後はロジカルな議論を競争評価の中でしていたいただきたいと思います。このWGの参考になっているのは、イギリスとドイツだと聞いております。
では競争評価の競争領域としての分母、シェアを100に見立てた時の100%は一体何を指し示すのでしょうか。この資料では、新聞とNHKと民放の3者だけになってます。しかし、それぞれのユーザーがどこからニュースを得てるのかを考えれば、ニュースを見ている先のネット事業者も含めて考えるべきだと思うのです。そこも含めてシェアを見ていく定点観測が必要だと思います。
 この会議体は“デジタル時代”のという冠がついてます。昔のようにジャーナリズムを担い発信できるのがマスコミだけではない時代です。オーディエンスはすでに気に入ったもの、推しの効いたものをSNSで自分から拡大発信する時代になっています。ネット空間でのアイボールの先を考えた時に、どう競争領域を定義するかを、改めて確認した上で分析する必要があると思います。
 因果推論を行うにはNHKにデータを求めることが今日の資料にも出てますが、それと対になるものを競合と考えられる業態の方からいただく必要があります。それをセットにテーブルに並べて初めて議論ができると思うのです。
そのデータは、インターネットのビジネスはスピードがめちゃめちゃ早いので、2年も3年も前のデータを並べて分析しても意味がありません。少なくとも四半期ベースの最新データを並べ、因果推論のスキルに基づいて、何が原因で何が結果か議論できる、そういう会議体であってほしいと願います。
インターネットのビジネスは、基本的には拡大トレンドで、NHKがテキスト情報の開示を手控えた場合に、その結果が全体の拡大トレンドを上回れば、場合によってはNHKと新聞に因果があるのかもしれません。競争評価ではそういったことも差の差分析などデータアナリティクスを使ってやるべきだと思います。
 そう考えますと、上昇トレンドとの差を見るためには、遡れる最大限の過去から現在の最新データまでの時系列のデータを並べて、科学的にニュートラルに、オーディエンス視点で考えていただきたいなと思います。私からは以上です。

電通総研フェロー 奥 律哉

8月31日「「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」録音より加筆修正

主張のポイント:先行するオーディエンス

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