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円盤に乗る派『幸福な島の夜』:上質・不気味・フレンドリーな表現研究の極致
もう1か月以上経ってしまいましたが、この秋いちばん刺激的で大満足だったお芝居です。身体表現と舞台芸術の醍醐味が小劇場にギュギュッ!と濃縮された、上質で不気味でフレンドリーな作品。年間50公演以上みる中で、確実に記憶にのこる1本でした。
🎭11月3日(金・祝) 15:00
円盤に乗る派 『幸福な島の夜』
こまばアゴラ劇場
https://noruha.net/kofuku/
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この頃プロ野球は阪神とオリックスが日本一の座をかけて互いに一歩も引かない互角のたたかいを繰り広げていました。
また生きている状態で保護された双頭の蛇(ニホンマムシ)が群馬のスネークセンターに運び込まれ、しばらく一般公開されていました。
そんな行楽日和のザワザワした祝日。電動ママチャリで駒場東大前までのろのろと走り、公園でおむすび🍙を食べて、気持ちがよかったなあ。
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この公演は、なにもかも良かったんです。好みでした。まったりとした台詞運び、程よい上演時間(90分)、完全なる非日常の題材、荒削りで不気味な身体表現と舞台美術…。
登場人物たちはうねうねとした見慣れない動きをしながら、変な抑揚の合成音声のような話し方をするのです。これには感心しました。人間の身体の表現ひとつで、6畳間ほどの舞台が、未来なのか宇宙なのか、なんだか分からなくなっちゃうなんて。
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超有名劇団や商業演劇のような大掛かりな仕掛けもない。あちらこちらでうんざりさせられているプロジェクターの濫用もない。そんなものがなくったってこの人たちは空間を、観客を、知らないところへワープさせられるんだ…
でも着ているものはなんだかちょっと懐かしい感じがして、「腰巻お仙」みたいなかぐわしい小ネタも挟んでくるのですよね。それらが観客が生きている現実世界との接点のような気もするんだけど、なんだかちょっと違うような気もする、変な感じ。
舞台芸術は、大衆娯楽と表現研究が互いに対極にありつつ、どちらも等しく芸術であると思います。ただしおそらく商業的成功につながっているのは大衆性のほう。
「え〜っ、わたしも舞台が好きなんですよ!奇遇ですね!」と言ってくる人の話を聞いてみると、体感的に97%くらいは大衆娯楽側です。
なのでそれらと対極の側にあるこのお芝居のような表現研究を、またそれらをしてくださる若い人たちをですね、わたしは大切に大切に守って応援していかないと…と再認識したのでございます。
わたしがこの公演を拝見したあと、阪神タイガースは38年ぶりに日本一の栄光に輝き、群馬の双頭の蛇は採食と吸収に問題があって死んでしまいました。なんだか時の流れにちょっとした境界線がひかれたような気がする秋の日々でした。