マイナ保険証受診 不具合 子ども医療費無料のはずが「今日はちょっと我慢」 命にかかわるのに…〜すべてがNになる〜
2023年7月17日【1面】
健康保険証として利用登録をしたマイナンバーカード(マイナ保険証)の不具合で患者が医療費の10割を請求される問題の是正策として、厚生労働省は、患者に「申立書」を書かせ、窓口負担を3割などにするとした通知を10日、出しました。8月から実施します。しかし子ども医療費無料の自治体でも、窓口で2~3割負担を払わねばならないなど、重大な問題は解決していません。(内藤真己子)
「医療費無料だから財布にお金がなくても小児科に駆け込める。でも1回1000円、2000円とかかれば『今日はちょっと我慢しようか』ってなってしまう。重症になる前に受診するのが大事。命にかかわることなのに…」。保育園に通う2歳の次男を抱っこしてこう語る江原朱美さん(42)=東京都北区=。瞳にうっすらと涙が浮かびました。マイナ保険証で受診して保険資格確認できない場合、子ども医療費が無料にならない可能性があると知ったからです。
払うお金ない
夫婦ともに都内の劇団で舞台俳優をしながら2歳と9歳の兄弟を育てています。生活は厳しく、長男は就学援助を受けています。
「保育園ではいろんな感染症が流行しています。鼻水とせきが出ると月3回は小児科へ通います。次の1カ月は大丈夫でも、翌月はまた同じように通います。有料になれば窓口で払うお金がない」
長男はミニバスケットに夢中で、けがが絶えません。「いまはレントゲンを撮ってもお金を気にせずに済みます。後で還付されるといってもお金がなければ、そもそも治療を受けられません」
政府の是正策では、「被保険者資格申立書」を提出させ、患者の生年月日等の情報をもとに3割などの負担を窓口で求めます。
今のままでは
この仕組みについて厚生労働省は日本共産党国会議員団への説明(4日)で、子ども医療費助成制度など自治体の公費助成制度は考慮せず、今の枠組みではいったんは医療保険の負担割合(未就学は2割、小・中・高校生は3割)通り徴収することになると説明しました。同省はその後も公費助成制度の扱いについては「検討中」としているだけです。
今のままでは、高校生まで医療費無料の東京都北区に暮らす江原さんも、マイナ保険証を使ってオンライン資格確認できなければ、長男は3割、次男は2割の窓口負担が必要になる可能性があります。
(1面のつづき)
高齢者窓口3割負担も 「少ない年金 払えない」
70歳以上の人も問題が残ります。生年月日で一部負担の割合が確定できず、所得に応じて1~3割と負担の割合が異なるからです。厚労省は「申立書」で患者に負担割合を申告させるとしています。
しかし全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長は、「患者の申告通り例えば1割徴収して後日、所得状況を確認すると2割だった場合、不足が発生します。患者が負担割合は『分からない』と記載すると、3割徴収にならざるを得ないでしょう」と指摘します。
こうなると本来は1割負担の人が3割負担になる可能性もあります。東京都北区の田那辺やえ子さん(84)は3年前に脳梗塞で倒れ後遺症が残りました。心不全も発症し、常に息苦しさがあります。
4カ所に通院
大学病院など四つの医療機関に通院。医療費は1割負担でも平均すると月1万円程度かかっています。通院のタクシー代に月約5000円必要です。デイサービスや訪問介護など介護保険の利用料が月約1万6000円。夫の遺族年金と合わせて年金は月十数万円しかありません。「3割負担なんかになったら後で払い戻しがあっても当座、払えない。マイナ保険証の不具合は政府の責任なのに患者が3倍とられるなんて、お門違いにも程がある」と訴えます。田那辺さんは続けます。
「年を取り病気すると、こんなにしんどくなるものかと驚きます。5年ごとにマイナ保険証を更新するなんて無理。保険証は申請しなくても郵送されたのになぜ廃止するの? 廃止は絶対やめてほしい。病気の高齢者をいじめて懐に手を突っ込むようなやり方は許せない」と憤ります。
他にも、患者負担が一定の上限額まで達した場合にそれ以上支払わなくても済む高額療養費制度や、難病患者に所得によって負担上限が定められている医療費助成も、厚労省が示す、いまの是正策では使えなくなる可能性があります。
「廃止撤回を」
保団連の試算では、保険証が廃止されればマイナ保険証で「無効・該当資格なし」と表示されるトラブルは少なくとも72万件に上るとしています。
保団連の本並事務局次長は「政府は、『10割負担を3割に下げるのだから我慢しろ』と言わんばかりで変わらぬ大きな負担を国民に強いています。一方で厚労省は、『マイナンバーカードと合わせて保険証を持参していただきたい』と言いだし、是正策で問題が解決できないことを自ら認めています。健康保険証は国民皆保険制度に欠かせないものだと明らかになりました。保険証の廃止は撤回するべきです」。
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