シリーズ 自民党の人権思想 改憲草案に見る(5)9条改憲と人権制限〜すべてがNになる〜
2023年9月19日【2面】
自公政権のもと、行政の長が「秘密指定」する情報への接近を処罰する秘密保護法(2013年)、人の内心まで処罰する共謀罪法(17年)、基地に近接する土地の利用を規制する土地利用規制法(21年)など、国民の「知る権利」、報道の自由に対する規制や国民監視の体制が強まっています。
その背景には15年の安保法制や昨年の安保3文書の策定による、米国とともに海外で「戦争する国」づくりが進められていることがあります。日本国憲法9条と前文の精神を全面的に解体する自民党改憲草案に示される危険な思想と一体の動きです。
日本国憲法前文は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」し、この憲法を確定するとしました。9条制定の基礎には「戦争の惨禍」への厳しい認識と反省があります。
未曽有の犠牲
侵略戦争はアジアで2000万人以上、日本でも300万人を超える人々の命を奪いました。広島で14万人、長崎で9万人ともいわれる原爆犠牲者を出し、文字通り、未曽有の「戦争の惨禍」となりました。
同時に日本軍国主義は戦争遂行のため、治安維持法、国防保安法と軍機保護法(秘密保護法)などで徹底的に国民の思想言論と運動を弾圧。国家神道が強制され信教の自由を迫害し、教化教育で「お国のために血を流す」ことが無上の美徳とされました。1937年に文部省が発行した『国体の本義』では「天皇の御ために身命を捧げることは、所謂自己犠牲ではなくして、小我を捨てて大いなる御稜威に生き、国民としての真生命を発揚する所以」とされました。「天皇のために死ぬ」ことが最も尊い命の発露とされたのです。
38年の国家総動員法は「国防目的達成ノ為国ノ全力ヲ最モ有効二発揮セシムル様人的及物的資源ヲ統制運用スル」ものとし、強制徴用はじめ人もモノもすべて戦争最優先に国家が取り上げました。
こうした痛苦の歴史のうえに、9条は「戦前」を全面否定して成立しました。
人権保障にとって重要なことは、9条が一切の戦争を否定しなければ「個人の尊厳」と自由は保障されない、「戦争は自由の最大の敵」という立場に立っていることです。
日本国憲法において、9条は自由の基礎でもあるのです。
9条は人権条項を定めた憲法第3章の直前で、第2章「戦争の放棄」として規定されています。
これに対し、自民党改憲草案では、憲法の第2章の表題は「戦争の放棄」から「安全保障」に変更。9条は全面的に書き換えられ「戦争の根拠」規定となっています。9条2項を全面削除し、「国防軍の保持」を明記しました。
「国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める」とし、軍事に関する情報は「憲法」を根拠に国民の「知る権利」から遠ざけられます。
軍事を優先に
さらに前文には「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」と国民の「国防の義務」を書き込み、改憲草案9条の3は、国と国民が協力して領土、領海、領空を保全すると規定しています。前文からは侵略戦争への反省、不戦の決意、平和的生存権の規定も削除しました。
また同13条では「公の秩序」による人権制限を認めていますが軍事が「公の秩序」となるもと、軍事優先で人権制限がまかり通ることになりかねません。
21条では「公の秩序に反する目的」による結社を禁じるという治安維持法のような規定も盛り込んでいます。
9条の否定のもと、戦前に通ずる国家と軍事による人権制限が全面復活する内容です。
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