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対話型AI 驚きの進化 専門家に衝撃〜すべてがNになる〜

                       2023年7月2日【社会】


 米オープンAI社が昨年11月に公開した「チャットGPT」をはじめして、人間のように自然な文章を生みだす対話型の人工知能(AI)の利用が急速に広がっています。AIの能力の劇的な進化は、専門家の間にも衝撃を与えています。(中村秀生)
 「朝ごはんって食べた方がいいの?」。そんな質問に、チャットGPTの技術を搭載したマイクロソフト社「Bing」の対話型検索(今年2月公開)は、エネルギー源になる、代謝や集中力がアップする、生活リズムを整える―といった朝食の効果を分かりやすく説明。おすすめを聞けば、定番のメニューを教えてくれたり、人間に対して「どんなレシピに興味がありますか?」などと問いかけたり…。検索語に関係が深そうなウェブサイトを列挙するだけだった従来型の検索とは様変わりです。
 「文脈も理解し、どんな質問をしてもだいたい答えてくれる。こんなことがこんな短期間で可能になるとは驚きだった」
 Bingの対話型検索の開発に最近まで関わってきた鈴木久美(ひさみ)さんは、6月に東京都内で開かれた国立情報学研究所のイベントでの講演で、こう語りました。
 鈴木さんは、対話型検索の必要条件として、友だちに聞いているような自然な入力と出力、従来型検索が苦手だった文脈の理解、ピンポイントの回答、どんな質問にも答える汎用(はんよう)性をあげ、従来の「情報検索」から「知識とのコミュニケーション」へと飛躍的に変化してきたと指摘。「今われわれが見ているのは、検索のパラダイムシフト(従来の枠組みが新しく置き換わること)といってもいい」と強調しました。

●模倣

 チャットGPTなどの対話型文章生成AIとはそもそも何なのでしょうか。技術的背景について講演した鈴木潤(じゅん)東北大学教授(知能情報学)は「一言でいうと、対話形式の指示を受け付け、その指示に適した文章を生成する文章生成器。人間がつくった文章を模倣したもので、魔法の何かみたいに、何もないところから生まれたわけではない」と説明しました。
 その技術的基盤は「大規模言語モデル」と呼ばれ、与えられた文脈に対し、次に続く単語の予測確率をモデル化したものです。単語の意味を多次元のベクトルで表現。人類がこれまでにつくってきた膨大な文章を学習することで、確率的に人間が書きそうな単語列を並べていくしくみです。
 鈴木教授は、自然な文章で多様な問題に解答できる要因として、(1)膨大な文章の“丸覚え”による流暢(りゅうちょう)さや知識量、(2)やりとりの理解や不適切な文章の抑制をあげます。
 (1)は、脳の神経回路を模した「多層ニューラルネットワーク」を利用したことで、学習データに存在しない文脈でも類似の文脈から次の単語を予測できるようになったこと、学習データ量などの大規模化によって達成。(2)は、例題を示すなど指示文の工夫、人間がつくった回答の手本の学習、人間による点数つけなどによって向上したと考えています。

●弱点

 文章生成AIには弱点もあります。現時点では情報の真偽を判断することやAI自身が「知らない」状態を知覚することができません。“口から出まかせ”を言ったり、学習データの誤りやバイアス(偏り)を反映した回答をして、虚偽情報や差別・偏見を再生産することが懸念されます。
 一方、学習データの収集方法や出力した回答の扱いをめぐって、プライバシーや著作権の問題などが議論されています。

批判的思考力どう育むか

問われる人間の存在性

立命館大学名誉教授 兵藤友博

 人間社会は、AIの新しい時代にどう向き合うべきか。兵藤友博(ひょうどう・ともひろ)立命館大学名誉教授(科学技術史)に聞きました。

 AIの発展で、人間自体の存在性が問われる時代になると思います。
 人間の思考の道具としての言語は、身体を介して身の回りの事物、体験とつながっています。しかしAIによる数理的な言語分析は、そうではありません。人間の意識活動とは異なっています。
 AIの欠陥を理解したうえで、回答を補助的に使って考える労力を省くのはよいですが、依存してしまっては問題です。思考をAIシステムに託してしまえば、産業革命以降にモノづくりの主体が機械に代わったのと同じように、思考でも人間が「主」から「従」になることになります。
 大切なのは、知識だけではなく、人間的な態度です。諸問題に対峙(たいじ)して人間的な態度をもって咀嚼(そしゃく)し、的確な判断をくだせるのか。批判的思考力を社会でどう育み発揮するかが問われてきます。
 とくに、子どもや学生は、生育過程のなかで自分の思考が培われるものです。家庭、学校、地域…と、行動圏を広げるなかで、自己認識や世界認識が歴史的に形成されます。
 それは、確率的に言葉を並べたものではく、人間同士のつながり、日々の活動のなかで、自分で確認して結論に行きつく―そうした知的体験の積み重ねによって得られるものです。これは、AIには任せられません。


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