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雪で遊ぶナマズオたち
ヤンサの町に、珍しく雪が降り積もった朝のことだった。
「うぺぺ!こりゃあ珍しいっぺな!」
赤い前掛けをした大きなナマズが、長い髭を揺らしながら空を見上げていた。首元の黄色い鈴が、寒風に揺られてちりんちりんと鳴る。
「ボクも久しぶりに見る光景っぺ!これは商機かもしれないっぺ!」
そう言って現れたのは、成金屋のギョリン。彼は早速、雪を集めて何かの計算を始めた。
「この状況下における雪関連商品の需要と供給の関係性を考えるに…」
セイゲツが眼鏡を光らせながら現れる。普段は「っぺ」を付けないように気を付けているが、興奮で声が上ずっている。
「まあ、確率論的に考えても、この気候は特異点と言わざるを得ないっぺね!…あ」
思わず方言が出てしまい、セイゲツは慌てて咳払いをした。
「オイラ、こんな雪、見たことないっぺ!」
ギョシンが大声で叫びながら通りに飛び出してきた。頭の×字の傷が雪の白さで際立っている。
「なあ、みんな!この雪でなんか面白いことやろうっぺ!神託では『白い祝祭』が運命を変えるって言われてたっぺ!」
「うぺぺ、祭りってのは金になるかもしれないっぺな」
物陰から姿を現したギョドウが、いつものように損得勘定を働かせている。
「まあ待つっぺ。そう急いで商売に走るのは考えものだっぺ」
ギョリンは雪玉を丸め始めた。その手つきが妙に器用だ。
「雪合戦でもするっぺか?」
「いや、それより…」
セイゲツが何か言いかけた時、ギョシンが突然、電気を放出した。雪が一瞬きらきらと輝き、それから不思議な形に固まった。
「うぺぺ!なんだっぺ、それ!」
「へへ、オイラの新技っぺ!電気で雪を固めて、好きな形にできるっぺよ!」
ギョシンの作った雪の彫刻は、まるでクリスタルのように透き通っていた。
「なるほど…これは芸術的価値がある」
セイゲツが感心して眺めている。
「おい、これ売れるんじゃねえか?」
ギョドウの目が金色に輝く。
「待った!これは祭りの出し物にするっぺ!」
ギョシンが大声で宣言する。
「『雪結晶祭り』っぺ!みんなで色んな形の雪の彫刻を作って、町中に飾るっぺ!」
その提案に、周りのナマズオたちも徐々に興味を示し始めた。
「ボクが資金面をサポートするっぺ!」
ギョリンが即座に反応する。
「私が全体的なデザインと配置を考えましょう。まあ、美的センスは人並み以上ですからね」
セイゲツが得意げに眼鏡を直す。
「ギョギョ、儲け話かと思ったのに…まあいいっぺ。俺も手伝うっぺ」
ギョドウも渋々参加を表明した。
それからのヤンサの町は、かつてない活気に包まれた。ナマズオたちは思い思いの場所で、電気の力を使って雪の彫刻を作り始めた。ギョシンの×字の傷さえ、祭りの熱気で幸せそうに輝いているように見えた。
町中に設置された雪の彫刻は、日が当たるたびに七色に輝き、幻想的な光景を作り出した。噂を聞きつけた近隣の町からも、大勢の見物人が訪れた。
「うぺぺ!これは大成功っぺな!」
「ボクの投資は間違ってなかったっぺ!」
「芸術的価値と経済効果の相乗作用、見事です」
「まあ、面白かったっぺ」
「オイラの運命、ちょっとは変わったかなっぺ?」
夕暮れ時、五人のナマズオたちは町を見下ろす丘の上で、満足げに笑みを浮かべていた。黄色い鈴の音が、雪景色の中に優しく響いていった。
それは、ヤンサの町に伝説として語り継がれることになる「雪結晶祭り」の始まりだった。以来、雪の降る日を待ち望む習慣が、町の新たな文化として根付いていったのである。