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うぺぺの昼下がり
ヤンサの町は、江戸時代を思わせる穏やかな雰囲気に包まれていた。石畳の街路には、赤い前掛けをした奇妙な生き物たちが行き交っている。彼らは、ナマズオ族と呼ばれる不思議な存在だ。魚のナマズのような外見をしているが、二本足で歩き、人間の言葉を話す。首には黄色い鈴をつけ、手には三叉を持っている。
その中でも、特に長い髭を持つナマズオがいた。彼の名前はギョシンという。
「うぺぺ、今日も暑いっぺな」
ギョシンは額の汗を拭いながら、友人のギョリンに話しかけた。ギョリンは成金屋を営む野心家で、いつも大金持ちになる夢を語っている。
「ボクはね、こんな暑い日こそビジネスチャンスだと思うんだっぺ。みんな涼しくなりたがってるっぺな?」
ギョリンは目を輝かせながら言った。その横でセイゲツが優雅に扇子を使いながら、ため息をついた。
「暑さで頭がおかしくなったのではないかね。そんな単純な発想で大金持ちになれるわけがない」
セイゲツはインテリナルシストで、普段は「っぺ」をつけずに話すが、今日は暑さのせいか少し興奮気味だった。
「うぺぺ、おまえらいつも喧嘩っぺな。オイラはもう昼寝したいっぺ」
ギョシンは大きな欠伸をした。彼の頭には大きな×字の傷があり、不幸体質だと言われているが、今日はただ単に眠いだけのようだった。
「おい、昼寝なんかしてる場合じゃねえっぺよ」
突然、ギョドウが現れた。彼は小悪党として知られており、いつも借金返済のために小さな詐欺を繰り返している。
「俺たちで何か面白いことをしようぺな。この暑さを吹き飛ばすような」
ギョドウの提案に、みんなは興味津々の表情を浮かべた。しかし、ギョシンはまだ眠そうな目をしていた。
「うぺぺ、オイラは本当に昼寝がしたいっぺ。でも、みんなで何かするのも悪くないっぺな」
ギョシンの言葉に、セイゲツが思わず笑みを浮かべた。
「ふむ、昼寝を楽しみながら何か面白いことができないものかね」
セイゲツの言葉に、ギョリンが急に目を輝かせた。
「ボクにいいアイデアがあるっぺ!みんなで川辺に行って、涼しい場所で昼寝コンテストをするのはどうだっぺ?」
「うぺぺ、それいいっぺ!」
ギョシンは急に元気になった。ギョドウも興味を示し、セイゲツもしぶしぶ同意した。
こうして、4匹のナマズオたちは川辺に向かった。川のせせらぎと涼しい風が、暑さを和らげてくれる。彼らは適当な場所を見つけると、それぞれ寝る準備を始めた。
「よーし、ルールを決めるっぺ。一番長く寝てられた奴が勝ちだっぺ。でも、誰かが起こしに来ても起きちゃダメっぺ」
ギョドウが提案した。みんなが頷くと、彼らは思い思いの場所で横になった。
ギョリンは、柔らかな草の上で丸くなった。「ボクは大金持ちになる夢を見るっぺ…」
セイゲツは、木陰に優雅に横たわった。「私の美しい寝顔を見せてあげよう…」
ギョドウは、岩の上でぐっすりと眠り始めた。
そしてギョシンは、川辺の砂地で伸びをして横になった。
しばらくすると、ナマズオたちの寝息が聞こえ始めた。しかし、ギョシンだけは目を覚ましていた。彼は静かに立ち上がり、みんなの様子を見回した。
「うぺぺ、みんな気持ちよさそうに寝てるっぺな」
ギョシンは微笑んだ。そして、彼は静かに水中に入り、電気を放出し始めた。水面がほんのり光り、周囲に心地よい振動が広がる。
「これで、みんなもっと気持ちよく眠れるっぺ」
ギョシンの電気は、眠っているナマズオたちの体を優しく刺激し、血行を促進させた。彼らの表情がさらにリラックスしていくのが見えた。
そして、ギョシンも水中で目を閉じた。彼の電気は、自分自身も含めて全員を心地よい眠りへと誘っていった。
時間が経ち、夕暮れが近づいてきた。最初に目を覚ましたのはセイゲツだった。
「ふむ、なんとも心地よい眠りだったね」
彼は伸びをしながら言った。次にギョリンが目を覚ました。
「わぁ、ボク、大金持ちになる夢を見たっぺ!なんだか実現しそうな気がするっぺ!」
ギョドウも目を覚まし、驚いた表情を浮かべた。
「おい、俺、なんか借金が減った夢を見たっぺな。こんな気分のいい昼寝は初めてだっぺ」
最後にギョシンが水中から顔を出した。
「うぺぺ、みんな気持ちよく寝れたっぺか?」
みんなが頷くと、ギョシンは満足そうに微笑んだ。
「実は、オイラが電気を使って、みんなの眠りを深くしたっぺ。これも祭りの一種かもしれないっぺな」
セイゲツは感心したように言った。「なるほど、君の不幸体質が逆に幸運をもたらしたというわけか」
ギョリンは興奮して叫んだ。「これは商売になるかもしれない!みんなで昼寝ビジネスを始めよう!」
ギョドウも珍しく素直な表情で言った。「お前たちと一緒にいると、悪いことする気も失せるっぺな」
ギョシンは照れくさそうに髭をよじった。「うぺぺ、みんなが喜んでくれて嬉しいっぺ。これからも、オイラなりの方法で祭りを続けていくっぺ」
夕日が川面を赤く染める中、4匹のナマズオたちは笑いながら家路についた。彼らの首の鈴が、幸せそうな音を奏でていた。
この日以来、ヤンサの町では「ナマズオの昼寝祭り」が人気の行事になったという。ギョシンの不思議な力と、仲間たちの個性が織りなす奇祭は、多くの人々に喜びと癒しをもたらすのだった。