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『OSOCU』が知多木綿を使う理由

「生産者の顔が見える服を作りたいんです」と話すのは、「OSOCU」を立ち上げた谷佳津臣(かづお)氏。

自分が手に取る服がどのような経路を辿って、手元にやってくるのか。その答えを知っている人はほとんどいないのかもしれません。

アパレルブランド『OSOCU』が作る服の約80%に、愛知県で作られている知多木綿(ちたもめん)が使用されています。そして、『OSOCU』の商品ページには、どのような生産背景でその服が作られたのかが記載されています。

2024年4月より始まった『OSOCU』のこれまでの振り返りや実現したい未来、アイテムが出来上がるまでのストーリーなどをライターがインタビューしながら伝える企画「読んで知る『OSOCU』」。

第2話目は、『OSOCU』が扱う知多木綿について、代表の谷氏が語りました。インタビュアーはつむぎ(株)のサトウリョウタです。

知多木綿とは

織り上がり、検品されたばかりの知多木綿

サトウ:今回はよろしくお願いいたします。それではさっそくですが、知多木綿の歴史について簡単に教えてください

谷:知多木綿は「(植物の)綿花ですか」と聞かれることがありますが、愛知県の知多半島で生産されている織物(生地)を指します。はじまりは江戸時代。最初は農家が農作業の合間に行う副業の一環と聞いています。産業の歴史としてはおおよそ400年続いていることになりますね。

サトウ:どんな用途に使われているのでしょうか?

谷:現在は、小幅だけでなく広幅の織物もあり、県指定の伝統工芸としての手織り生地も存在しています。50cm以下の小幅は浴衣や手拭いなどの和装分野やガーゼなどの衣料分野、広幅は衣料品資材から産業資材と、用途も多様です。

シャトル織機の作業風景

サトウ:ありがとうございます。ちなみに「OSOCU」が使う知多木綿はどういったものなのでしょうか?

谷:『OSOCU』が主に使うのは、小幅と言われる50cm以下の知多木綿です。シャトル織機という旧式の仕組み(明治時代と同じ機構)で動く機械で今も作られています。織る速度がゆっくりなため、布に負担がかからず空気を含んだ生地になります。生地を織る新美(株)さんの18貫と彩紬という生地をよく使っていますね。

サトウ:なるほど、その2つの生地にはどんな特徴がありますか?

谷:どちらも生地の厚みの割りに通気性が良く、心地よい着用感です。18貫はシャツ、彩紬はパンツで主に使っています。ちなみに私自身が知多木綿で作られた服を250日ほど着用しています。着用実験も兼ねていますが、超ヘビーユーザーですね(笑)。個人差はありますが、10〜30度くらいの間であれば、看板商品の「バルーンパンツ」は快適に過ごせると思います。

「OSOCU」が知多木綿を主に使う理由

生地になる前の知多木綿

サトウ:歴史の長い知多木綿ですが、『OSOCU』としては知多木綿をどう捉えているのでしょうか?

谷:『OSOCU』としては、小幅に限らず愛知県の知多半島で生産されている織物(生地)の総称が知多木綿であると捉えています。ルーツを辿ると江戸時代からの産業ですが、現状は厳密な定義がないそうです。私たち自身も誰かの決めた定義や基準に意義はさほど感じないので伝統工芸という目では知多木綿を見ていません。

サトウ:江戸時代から存在している知多木綿ですが、厳密な定義はないんですね。ちなみにどういったきっかけで知多木綿を仕入れるようになったのでしょうか?

谷:名古屋の染色職人さんに教えてもらったのがきっかけです。地元で織られた生地ですし、手触りも良かったので、服にしてみたいとシンプルに思いました。

サトウ:染色職人さんから教えていただいたのですね。その後、知多木綿を使い続けている理由は何でしょうか?

谷:生地は日本各地からオンラインでやりとりをすれば買うことも可能になりつつあります。だからこそ、「なぜその生地を使うのか」の理由も大事になってきていると思うんです。そういう理由を『OSOCU』はローカルな経済循環という部分に見いだしました。新美さんの生地を使うようになって徐々に意識し始めたことですが、今は大事な理由になっています。

サトウ:「自分たちの近くにある生地をまず使う」ということですね。ちなみにどのくらいの範囲を”近い”と考えていますか?

谷:車で1時間程度の範囲内で完結できるのが理想ですね。あまり都道府県は意識していません。近いと現地に足を運んで、実際に生産者の顔を見ながらコミュニケーションをすることができるのもメリットだと思います。こうした活動を一つひとつ積み上げていくことで、真に顔の見える生産にだんだん繋がっていくのではないでしょうか。

知多木綿を取り扱っている新美(株)さん

サトウ:ありがとうございます。新美(株)さんとのやりとりで印象に残っている出来事はありますか?

谷:生地を織る部分の技術以上に、旧式織機をメンテナンスし使い続けることの方が難しく、その役割を経営者が担っている点が新たな発見かつ印象的でした。

新美(株)さんが知多木綿を織る際のシャトル織機は、50年以上前に作られたものを今も使用しています。小幅のシャトル織機は製造されておらず、たとえ故障したとしても、どこにも部品が販売されていないケースが多いです。そのため、古い織機から部品を取ってきたり、自分たちで金属を溶接して部品を作ったりと工夫して直しているそうです。

サトウ:ものづくりは、本当にいろいろなバランスの上に成り立っているのですね。

地域の固有のものとしての知多木綿の魅力

縫製前の知多木綿

サトウ:知多木綿の生地を使用して服づくりを行う上で、ハードルはありましたか?

谷:小幅の生地は浴衣などの和装に使いやすいサイズで作られていることもあり、現在の衣料生産の仕組みとは相性が良くありません。生地を切る裁断工程では1m以上の広幅生地を前提とした裁断機が基本ですし、パターン(型紙)も小幅生地用に作り直す必要があります。今も変わりませんが、このあたりはハードルでしたね。

サトウ:多くのアパレル企業では生産効率を重視していると思います。なぜ『OSOCU』では小幅の生地での服づくりに取り組んでいるのでしょうか?

谷:小幅の生地に特化しているわけではありませんが、効率を理由に生地を使わないという選択をしたくないためです。コスパ・タイパの時代なので効率性追求も理解できなくはないですが、効率的な服づくりをするなら『OSOCU』じゃなくても良い。他がやらないことをやり続ける、これは初期から私自身が持ち続けている方針の一つです。生地だけでなく、縫製も分業主流の中、うちは丸縫いという1人が最初から最後まで担当する生産方式を採っています。

サトウ:技術を残すことと、モノづくりの関係性の中で「OSOCU」では具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

谷:とにかく発注を継続することが大事だと考えています。技術を残すべきだって主張している人が職人に発注しなかったら、おかしいですよね。 まだまだ十分な発注ができているわけではありませんが、少しずつでも積み上げていきたいです。

サトウ:確かに何年も継続することはできそうでできないアクションですね。

谷:どうせ作るなら意味のある服作りをしたい。他の人ができることは基本的にはあまりやりたくはないし、うちが本当にやるべきなのかということはすごく考えながら服づくりをしています。

サトウ:谷さんが技術に対して真摯に向き合う確かな熱量を感じました。最後に、谷さんが考える知多木綿の未来について教えてください。

谷:知多木綿の種類も用途も多種多様なので、一概にどうなるかは分かりませんし、答えられる立場でもありません。ただ、地域固有もしくは会社固有のモノの魅力は今後高くなっていくと思います。知多木綿もそうしたモノだと思います。

サトウ:なるほど、他に同じものがないというのは魅力的だと感じます。

谷:均一化された高品質な生地というだけなら、世界中で作ることが物理的には可能です。規模の経済や資本の理屈から考えると、大手独占になってもおかしくありませんが、現実にはそうなっていません。生活に根付く服の分野は二極化しつつもニッチな分野が多数残り、その一つが地元や自国の素材を用いていてかつ作り手のわかる服という分野だと思います。

サトウ:日本だけでなく世界中で同じことが言えそうですね。

谷:はい。アジアの一部で児童労働が問題になったり、アフリカに中古衣料が流れ込み自国の繊維産業が育ちにくかったりと過度なグローバル化の問題も今は顕在化しています。大手は大手で対策するのでしょうが、別のアプローチとして自国の服は自国である程度賄うという選択肢もあって良いのではないでしょうか。その国らしさのある日常服を旅先で見つけたら私はとても魅力的だと思います。

サトウ:日本製の服がより一層減っているという記事も目にしました。将来的になくなってしまうのは寂しい気がします。

谷:何事についてもそうですが、私は”選択肢”を残したいという気持ちが強いです。別に全員がそうすべきとは全く思っていなくて。自分の住む国や地域の生産者から服が買えなくなるのは嫌だなと単純に思います。

サトウ:ありがとうございました。

「読んで知る『OSOCU』」の第2話目は「『OSOCU』が知多木綿を使う理由」をお届けしました。

『OSOCU』では「生産者の顔が見える服を作りたい」という思いから、知多木綿を取り入れています。公式オンラインストアにある「『OSOCU』について」には、どのようなビジョンを『OSOCU』が持っているのかも記載されているので、気になった方はぜひご一読ください。

今後も「読んで知る『OSOCU』」を月1ペースで随時公開予定ですので、お楽しみに。

取材・文:サトウリョウタ(つむぎ株式会社

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