ぼくらはつながりを編集する出版社?
今回は、オシロ社は純粋なSaaS企業ではなく出版社だったのではないか、という気づきを紹介したい。
OSIROは純粋なSaaSではないんじゃないか
オシロ社はこれまでコミュニティを活性化するオウンドプラットフォームを自社で開発し、SaaS(※)事業者としてSaaS的な組織作りに取り組んできた。だが、7年続けてきた今、OSIROって純粋なSaaSではないんじゃないかと、気がついたという話をしようと思う。
SaaSではない、と言うと語弊がある。堅実にSaaSとしてシステムを提供させていただいている。ただそれだけではなく、一般的なSaaS企業が行わないようなコミュニティごとに異なるクリエイティブな企画も丁寧に行っている。
企画が異なると、コミュニティ運営のサポートも異なる。ゆえに属人的になりやすく、効率的にサービスを提供することが難しい。サポートするうえでは、OSIROを使ってくださっているクリエイターさんやブランドさんにどれだけ寄り添えるかが大切なのに。
だが、一般的なSaaS企業の体制にするとどうしても分業制になる。生産性や効率性を追求するようにもなるため、お客さんとの情報を都度引き継がないといけなくなり、関係が埋まらないどころかむしろ広がってしまうのだ。
これまで色々な組織体制のあり方にトライしてきた。教科書的なSaaS企業のあり方もやってみた。だが、うまくハマらなかったのだ。そうしたちょっと苦い経験もあり、オシロって純粋なSaaSではないんじゃないかとおもうようになったのだ。
SaaSでないなら、何なのか?
恐れずに言うと、オシロ社は出版社なのではないかと思いはじめている。もちろん従来の出版社ではなく、新しい出版のかたちや新しいビジネスモデルをイメージしている。これまでの出版社がコンテンツを編集することに対して、オシロはコンテンツとファン、ファン同士のつながりを編集しているとも言える。
たとえば、今までの出版社が10万部、100万部のヒット作を目指すとしたら、オシロは偏愛するテーマを対象としているため、そんな多い部数は狙わない。ニッチな領域になるため、コミュニティのメンバー数は部数でいうと1万部以下のイメージである。そういった市場規模は従来の出版社では参入しづらいだろう。だからこそ超ニッチな雑誌がなかったともいえる。これまでの雑誌では廃刊になってしまうかもしれない規模だから。
オシロの利点は、たとえ1万部以下の部数であっても、ニッチなテーマでないとできない出版、大規模ではない偏愛するテーマを事業にできることだ。(ここでいう部数はコミュニティのメンバー数に置き換えてもらいたい。)
出版という事業は、市場規模は大きいがある意味ギャンブルなビジネスであると言える。というのも、編集という仕事は属人的な要素が多く再現性が高いとはいえないからだ。ゆえにクリエイティブとも言える。さらに、名編集者がヒット作を生み出したからといって、その人の真似をして他の人が同じ結果を出せるとも限らない。ヒット作をつくるのは相当難しい。
ぼくたちは100万部のようなヒット作を狙わない。コミュニティのテーマは狭ければ狭いほうが刺さりやすいと思っているからだ。狭いテーマを偏愛する人々が同じ熱量でつながり、継続する居場所を作ることができればいい。
コミュニティの企画を行うコミュニティ・プロデューサーは、クリエイティブな職種であり、職務である。編集者と同じく属人的といえる。そのため、純粋なSaaSではなく、クリエイティブ・ブティックや出版社のような要素も取り入れる必要があると思うようになっていった。あえて名付けるなら「クリエイティブSaaS」というのかもしれない。
編集者の仕事と異なるところは、コンテンツの編集というよりは、つながりを編集するということだろう。
つながりを生み出すということ
OSIROが生み出すつながりは、2つのアプローチからなる。
1つ目は、クリエイティブな企画
2つ目は、エコロジカル・アプローチ
1つ目のクリエイティブな企画は、コミュニティ・プロデューサーの仕事の中核であり醍醐味でもある「コミュニティ設計」にある。
人と人が仲良くなるにはどうすればいいか?企画は、コミュニティの目的を定め、コミュニティのネーミング、どんな人に入ってきてもらいたいか、どんなコミュニティにしたいか、メンバーにどうなってほしいのかなどをオーナーさんと一緒に話し合って決めていく。コンセプトや活動内容、会費、デザインなど多岐にわたる。
完全にマニュアル化できるものでもなく、経験や知見がものを言う。オーナーの強みを活かしながら、どうやったらコミュニティが活性化できるかを企画することに特にクリエイティブさを求められる。
2つ目のエコロジカル・アプローチとは、言語による指示や説明で導くのではなく、環境による導きで理想の行為を導く手法である。
これは、OSIROの仕組みそのものがエコロジカル・アプローチになっているといえる。というのも、コミュニティのメンバーに「みなさん、仲良くしてくださいね」と言われて仲良くなるのはかなり無理がある。
自然と仲良くなる環境という仕掛けが必要だ。OSIROはクローズドな会員制のコミュニティであり、原則メンバーは毎月会費を支払って参加している。そして入ったら入ったで、もれなく既存メンバーから歓迎のメッセージが届いたり、既存メンバーとバディが組まれたり、メンバー同士の興味関心の共通点がわかる仕組みになっていたりする。メンバーの自発性や熱量に左右されず、交流が起こりやすいテクノロジーが張り巡らされているのだ。
なぜぼくたちオシロはつながりを編集しているのか
それは、現代では「つながり価値」を求める人々が増えているからだ。
機能や性能といった価値から、人とのつながりに価値を感じるように社会が成熟してきたともいえる。
というのも、今やファンは機能価値・情報価値には十分満足されている。むしろ飽和状態ともいえる。最近では情報のみならず体験価値も増えている。しかし、同じ熱量のファン同士が安心してつながれる場所は実はまだ存在しているとはいえない。そのため、自分が大好きなこと、偏愛性の高いテーマに共感している人たちが孤独ともいえる状況であり、つながりたいニーズを満たせていないのだ。
雑誌やテレビ、ラジオといったメディアは非常に優れたコンテンツを生み出し、発信することを得意とされているが、読者・視聴者同士がつながる場を設けることも同じくらい大事にされるべきだと思っている。そうした読者・視聴者、ファン同士のつながりを編集し、つながり価値を提供しているのがOSIROのサービスでもある。
こうしたぼくらのサービスの特徴に合わせて、組織も変革していく必要がある。オシロではいったいどんな人たちが働いているのか。次回は、ぼくが採用において大事にしていることついて紹介したいと思う。
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