大安のソファ
2021年7月某日。雨。26℃。
カッコよくいたい。非凡でいたい。人と違うと思われたい。常日頃そう思って、格好をつける。
そしてその思いは、悲しいかな、空回りしていく。
インテリアショップでのこと。
家族連れでごった返す休日の店内。寂しさと居たたまれなさを抱えながら、ただぼーっと家具と家族を交互に眺める。そりゃ家具だって、アパートよりは一軒家がいいだろうし、一人暮らしよりは温かい家庭を彩るピースになりたいよな。
店内で一人、浮かない顔した浮いてる僕を見かねたのだろう、「何かお探しですか」スタッフさんが声を掛けてくれた。「あの、ソファが欲しくて、」。一人では持て余す室内の広さがそのまま寂しさの総量に映る、だから寂しさを埋めるべくちょっとでも大きいソファを買いたかった。「予算は20,000円くらいですかね、カラーはダークブラウンで、フカフカよりかは少し硬めで、そういうのありませんよね、」。スタッフさんは僕の思い描いていたモノと限りなく近いソファに巡り合わせてくれた。そのままカウンターに案内され、オプションの有無や金額、配送についてを決めることになったのだが、運命の出会いに大満足していた僕は、特に要望を出すこともなく、細かいことはほぼスタッフさんに丸投げした。
ところが、配送日を決めるときになって、カッコつけたい自分が顔を出し、気が付けばスピリチュアルを気取っていた。
「最短でも1週間かかるので、1週間後の18日でいいですか?」と問われ、予定のない暇な奴だと思われたくなかった僕は、もちろん予定なんてこれっぽっちもないのだが、「ちょっと待ってくださいね」そう言って手帳を取り出し、もちろん予定の入っていない真っ白な18日をじっと見つめ、もちろん予定の入っていないことを入念に確認し、とっさに絞り出した。「その日仏滅なんで、大安の19日にしてもらってもいいですか」。スタッフさんは快く返事をくれ、ソファは8日後に届くことになった。
その日は軽い足取りで、軽く千鳥足で、帰路に就いた。だが高揚感と満足感からくる酔いは日を追うごとに醒めていき、替わりにイライラとクエスチョンマークばかりが募っていく。「なんで18日にしなかったかな」。「早くソファ寄越せよ」。「配送業者が間違えて1日早く持ってきたりしないよな」。「なんだよ六曜ってよ」。「スタッフが思いとどめてくれればなぁ」。「かっこつけてんじゃねえよ」。「タコ」。
こういうことがよくある。ちゃんと後悔もするし反省もする。ここまでがセット。