リトルスター
姉が昏睡状態に陥ってからどのくらいが経っただろうか。
あんなに元気で明るかった姉が、ある時を境に部屋にこもるようになった。
私が中学へ入学した時期に姉は高校へと進学した。
それから半年が過ぎた頃のこと。
突然、なんの前触れもなく、
『学校へ行きたくない。』
と洩らしていた。
別に誰に言うわけでもなく、細々とした声で。
そんな姉を見るのは初めてだった。
「なにか、あったの。」
私は姉に問いかけた。
すると、無理に作った笑顔で
「大丈夫。あんたには心配かけないくらいには大丈夫。」
そう言った。
「大丈夫。」という姉の表情は酷く辛そうだった。
なにか出来ないものか。
思考を巡らせるも、根本的な原因を知っているわけでも無く、手を打つ術がなかった。
何も出来ないもどかしさを感じていたある日のこと。
母がなにやら神妙な面持ちで固定電話を取っていた。
通話が終わると母は膝から崩れ落ちた。
酷く脅えているようだった。
「母さん、電話誰からだった。」
そう聞くと、母の口からはこう滑り落ちた。
「姉がビルから飛び降りた。」
私は理解が出来なかった。
それでも、思い当たる節は幾つもあった。
あの時、姉の「大丈夫。」に強く問い詰めていればこんなことにはならなかった。
姉に寄り添ってあげれば。
自責の念が私を覆った。
のちのち話を聴くと、どうやら姉は高校で虐め紛いの行為を受けていたらしい。
くだらない。
非人道的な行為のおかげで私の姉は、昏睡状態へと陥った。
そんな姉を眺めるのはとても辛い事だ。
なにか、力になれることはないのだろうか。
そんなことを考えても後の祭りでしかないのはわかっている。
それでも━━。
病院の帰り道、空を見上げる。
キラキラと光る星々が闇夜に咲いていた。
それは嫌気がさす程に綺麗なものだった。
昔読んだ絵本にこんな話があったことを思い出す。
星には神様が宿っていて、星に願いをかけると神様が何かと引替えに叶えてくれる。
所詮絵本。
それでも、もし、本当に神様が宿っているのならば——
私は藁にでもすがる思いで星に願いをかけた。
代償は私でいい。だから姉の目を覚ましてほしいと。
そんな私の足元にはセミの死骸が落ちていた。
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