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高校生よ、世の中は思春期に優劣をつけたがる。

韓国では、空前のヒップホップブーム(多分←)。SHOW ME THE MONEY(以下SMTM)や高等ラッパーシリーズが人気となり、番組から芽が出るラッパーも少なくない。見る感じ、2017〜2018年あたりは日本の韓国情報系のメディアやブログでも取り上げられることが多かったのではないだろうか。

韓国語の勉強がてら、何か面白いバラエティはないかと思い、オススメされてラッパー達のサバイバル番組をいくつか視聴した。見た順に挙げると、「高等ラッパー2」、「高等ラッパー」、「SMTM6」、「SMTM777(これはまだ途中)」である。(関係無いけど、「みんなのキッチン」も面白いので是非。IZ*ONEのサクラちゃんとカンホドンさんのコンビは絶妙。)

Mnet Smart(有料:月額1200円)で全て視聴していたのだが、あと数日で高等ラッパー1の視聴期限が切れそうなので(すでに1〜3話は見れないが、ぶっちゃけそこまで重要ではない←)、高等ラッパーシリーズのちょっとした紹介をしながら、私が視聴して抱いた感情を書ければいいなと思う。夏休みに入った学生も少なくないだろうし、是非この機会に一度視聴してみてほしい。高校生それぞれの人生を紐解く中で垣間見える、物語の美しさと、物語に縛られる世の中に、感動と歯痒さを覚えるに違いない。


高等ラッパーシリーズとは、高校生ラッパー達によるサバイバルバトル。SMTMを見たことある人は、それの高校生verと考えれば大体合っている。ヒップホップにあまり興味が無い人でも、シリーズ1にはNCTのマークが、シリーズ2にはSF9のフィヨンが出演したことで番組を知った人もいるのではないだろうか。

もちろんサバイバル番組であるので、サイファー対決やチームバトルなどを通して優勝者を決めていくのだが、その過程で高校生ラッパーが歌った曲は実際にリリースされ、優勝すれば優勝賞金に加えてCDデビューできる権利を獲得できる。ラッパーを生業としたい子達にとっては、テレビで名前と顔を売ることができるし、優勝できなくてもある程度まで上り詰めたら曲を出せるし…と、良いところ尽くしでは?リリースした音源がチャート1位を記録したこともある番組なので、下手すればメジャーデビューしているラッパーより世間からの認知を受けられるのだ。

予選を見事に通過し実力の認められた高校生ラッパー達は、チームを結成し(シリーズ1では地区ごとのチーム。2は地区制廃止。)メンターからの指導を受ける。元々実力のある子達が、舞台上での動きや歌い方の指導を受けてどんどん成長していく姿は見ものである。…のだが、まず何と言っても、そのメンター陣がいつも話題となる。有名な韓国ラッパーや音楽プロデューサーばかりが名を連ねるからだ。そして、勝負の中で明かされる、10代の代弁者としての高校生ラッパー達の想い。これまでの人生。勝負の中で生まれる候補者同士の友情やメンターとの絆。ラップだけではない、彼等のストーリーも、視聴者の心を掴んで離さないこの番組の大きな魅力である。


…と、ざっくりとした番組の紹介はここまでにして…。見てみたいな、と思う方々は、ここから先はネタバレも含むことになると思うので、回れ右していただければありがたい。




今回、記事を書くにあたって、タイトルに「優劣」という言葉を入れてみた。私が両シリーズを見て一番お気に入りの曲、イビョンジェ(vinxen)の「전혀(not at all)-pro. Groovy room/ feat.ウウォンジェ」の中にある歌詞「여긴 불행마저 등수를 매기거든(ここは不幸にも優劣をつける)」という部分から拝借した。個人的に、この一節には大きな衝撃を受けた。この言葉が、シリーズ2の全てを物語っていたと思っている。


私はヒップホップが好きではあるが、知識があるわけではないし、音楽従事者でもないので、素人目から見た「上手い」という感覚しか持ち合わせていない。だから、出演者の技能的な部分を深く語ろうとは思っていない。音痴な私にとっては、「みんな上手」である。

高等ラッパーと、SMTM。それぞれを見ていて私が思ったのは、高等ラッパーは素人向けで、SMTMは多少知識のある人や界隈に精通している人向けだな、ということ。高等ラッパー2を見ていて面白かったのは、ど素人の私の感覚が評価点とほとんど一致していたことだ。大体十の位までなら正答できてしまったので、私ってそういう才能あるのかな?と舞い上がったけれど、SMTMとなると良いなと思った候補者は落ちていくし…全然当たらない。こっちが勝つ、こっちが負ける。その予想が出来なかった。

何故だろう?単純に疑問を抱いたが、高等ラッパー1、高等ラッパー2、そしてSMTMを見ていると、理由が分かった気がした。鍵を握っていたのは、「物語」だった。


高等ラッパーであっても、1より2の方が推したいし、私の予想も当たりやすかった。1はまだ番組制作サイドも手探りな部分が垣間見えていたと思う。1〜3話はあまり重要でないと私が思う理由は、無駄に長い予選のためである。2はある程度の人数まで制作側で絞られた上でバトルを行い、3話の段階で16人(4人×4チーム)に絞っていたため、残り7話を通して各チームの一人ひとりにより放送時間をさけていた。1は3話の段階で36人が残っていた。メンツが濃い上に人口密度も高いという…(笑)

…と、まぁ、少し話が逸れたが、1人あたりの放送時間が伸びたということは、私達がそれぞれの高校生ラッパーについて知り得る情報が増えたということだ。それは、バトルフィールドがステージ上でのパフォーマンスだけでなく、「彼ら自身全て」になったことを意味していると私は思う。

人間は、「判断」できる生き物だ。事実の裏側を想像し、判断を下してしまう。それは果たして良いことなのか?よく分からないけれど、それが色濃く出たのが高等ラッパー2という番組だったのではないかと思う。高等ラッパー2では、1に比べて番組の前半からそれぞれの信念や性格を表すような発言が多かったように思う。そしてシリーズが進むにつれて、語られる物語がよりプライベート性を帯びるようになった。

学歴社会と言われる韓国で、高校を中退したラッパーの子もいた。勉強に苦しむ友人のことを歌った子もいた。精神病に悩んでいることを告白する子もいた。遠い故郷に想いを馳せる子もいた。複雑な家庭環境を話す子もいた…。視聴者は、特に韓国の高校生達は、彼らの話を聞いて何を思ったのだろうか。10代の代弁者としてステージに上がる彼らの物語のカケラから、彼らの人生をどこまで想像したのだろうか。そして、それぞれの物語に、どれほど「共感」したのだろうか。

彼らの実力を見ているつもりで、本当に見ていたのは何だったのだろう。実力のあるラッパーばかりが集められたが、物語の「弱い」ラッパーだってもちろんいた。当たり前だ。だって彼らはまだ10数年しか生きていない。そんな大きな物語を持っている方が少ないと思う。

しかし、物語は歌詞を昇華させる。イビョンジェが正にそうだったと思う。彼の実力はかなりのものだと思うので、下手だと言いたいわけではない。ただ、彼は自分のマイナスな思考から紡がれた歌詞を包み隠さなかった。盟友キムハオンとの会話の中で、自分のスタイルを貫きたい姿勢と、ほんの少し、彼に感化された自分を見せた。歌詞に込めたエグいまでに暗い思考を物語上で曝け出すことで、視聴者に彼という人物に対する理解を求めているようだった。キムハオンも、高校在学中のことや家族に想いを馳せ、現在の彼の思考を構築することになった物語を含ませた。ペヨンソ(イロハン)は複雑な家庭環境と家族愛を見せた。

それを知った上で、視聴者は歌を聴く。意味がないかも知れない部分を想像し、こうだろうと判断し、共感する。物語は強い。番組は、「不幸にも優劣をつける」。強い物語と、弱い物語と。そして視聴者も「切り取られた物語」に優劣をつける。


…ただ、別に物語を強調した編集を責めたいわけではなくて。

私は素人だから、物語がある方が分かりやすく楽しめた。逆に物語が少なくステージシーンが大半を占めたSMTMは、少し物足りなかった。大衆性を帯びていたのは、確実に高等ラッパーの方だと思う。

そして、物語が公表されるということは、大衆の先入観を崩すこともにも繋がる。それが良いのか悪いのかは、やはり、分からないけれど。ただ、それぞれの物語に時間を割くことで、元々知名度の低かったラッパー達にも、光の当たる可能性が増えると思う。最初から最後まで、番組開始前からの人気者がステージを闊歩していても、サバイバルの面白みに欠けるというもの。サバイバル番組の醍醐味は、サバイバルを通してそれぞれが自分自身に打ち勝ち成長を遂げる姿だと思っている。だからこそ、それぞれにより焦点を当てられる方法を選んだ高等ラッパー2は、大衆を魅了したのではないだろうか。


高校生とは、何でも出来るのに、何にも出来ない。そんな年頃だと思っている。そんな彼らが、自分達の持てる実力と、持てる物語の全てを曝け出し、自分自身の手でどうにか未来を掴もうともがく姿は、美しくて、儚くて…そして、やっぱり、ちょっぴり、歯痒い。だからもっと、この番組が、K-hiphopに関心の無い人々や、まだそのジャンルに出会ったことのない人々に視聴されて欲しい。そして全てを賭けて、大衆の感情を動かした彼らに、より良い場所でキラキラと輝いて欲しい。そう、心の底から願っている。


最後に、これまで番組で闘志を燃やした高校生ラッパー達の飛躍と、新しく始まったSMTM8が成功裏に幕を閉じることを祈って。

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