「みんなの居場所」は成立しない、だから希望がある
地域での居場所づくりが盛んです。だれでもどんな人でもみんなで集まれる居場所──そんな「万能な居場所」がコンセプトになった活動が増えていますが、万能な場というのは存在しません。でも悲観しないでください、だからこそ希望があるのです。
万能な場は存在しない
だれもがみんなで集まれる居場所。本当に素敵なコンセプトだと思います。でも同時に、「万能な場は存在しない」という前提を、僕自身は身をもって知っています。
誤解のないよう断っておくと「だれもがみんなで集まれる」というのは、主催者の都合で「お前は来ていい、お前は来るな!」みたいなことはやらないぞという、心意気を表している場合があります。僕が今回掘り下げたいのは、心意気ではなく場の有り様です。
僕が専門にしている「場づくり」という観点からとらえると、「ひとつの場」に、多様なニーズ、多様な考え、多様なその時々のコンディション、多様なバックグラウンドを持つ人が集まり、集まった全員が心地良くそこを自分の居場所だと感じる、というのは不可能です。
だって、「あの人がいたらどうしても落ち着かない」ということだって、ありますよね。子どもの居場所に来ている子だったとしても、同じクラスのいじめっ子が入ってきたら、心がさっと冷たくなるはずです。
万能な場をつくるには、万能な人間がその場を司っていなければいけません。また、最大公約数的に「全員が嫌じゃない」という方向でアプローチすれば、その場は駅とか公園のようなパブリックスペースみたいになっていき、「こここそが自分の居場所だ」という場とは趣が異なります。
単一の場ですべてのニーズを解決しようとしない
なぜ「万能な場」をつくろうとするのか、それはきっと、主催者の人たちが本当に真面目だからだと僕は思っています。日本全国あちこちでこうした場の主催者の人たちに会いますが、みんないい人すぎるくらいにいい人です。
大切なのは、あらゆるニーズを単一の(自分の)場だけで解決しようとしないこと。真面目な人ほど、これに挑んで、燃え尽きてしまったりします。
単一の場ですべてを解決しようとする生真面目な態度は、じつはその居場所が、地域の様々な場とつながれずに孤立無援でがんばっている、そのことの裏返しかもしれません。
はみ出してる!クセが強い!それでOK!
それではどうすればいいのでしょうか?
主催者のみなさん、解決策はありますよ!
それも底抜けに楽しい解決策が……!
それは、主催者自身の個性を、本当の思いを、クセもはみ出しも何もかも、本当のところをそのまま思い切りその場で表現することです。偏っていてOKです、カラーがあってOKです。好き嫌い(それって差別とは違いますよね?)だってOKです。
「そんなことをしたら、嫌がる人がいるよ!」
そうですね、そうだと思います。でも、「万能でない」ということは、そういうことなのです。もちろん、(僕が言わなくても)作り手のみなさんは、配慮を重ねて、悩んで、きっと出来る限りのことをするのでしょう。それでも、合わない人は合いません。
スターバックスとドトールが並んでいたら、あなたはどちらでコーヒーを飲みますか? 周囲の人にも尋ねてみてください。答えはバラバラでしょう? どちらにも入らないと言う人もいますよね。これって、スタバやドトールの落ち度ですか? 違いますよね。それぞれに良さがあり、その良さを求める人がいる。ただそれだけのことなのです。
むしろ、「ここは自分に合わない…」という人が出るくらいはっきりと場をつくることで、「こういうところを心から求めていた」というような、切実なニーズに応えることが出来るのではないでしょうか。
多様な場が散らばる地域社会に
僕は居場所づくり、プレイヤーとしても支援者としても専門中の専門なので、語りたいことはいろいろ出てきてしまうのですが、展望だけ示して終わりにします。
ニーズから場を設計する、という考え方があります。間違ってないですよ。でもプレイヤー目線の発想じゃないです。つくり手であるあなたが必要とする場をつくり、その場、その色、そこにあるクセも含めて、「いいね!」と思った人が集まってきて、そこが「そこに集まるみんなの居場所」になっていく。
そのプロセスのなかで、集まる人のニーズを尋ねるのはいいですし、それを尊重するのはもちろんOKです。配慮だって積み重ねてください。主催者としてやるべきことは山ほどありますし、場を開くならしっかり向き合って取り組んでほしいと思います。
でも、決して自分勝手とかではなく、一番最初に「こういう場をつくるよ!」という球を投げるのは、主催者の側なのです。
そうやって、作り手が自分に正直に場をつくれば、創出される場は嫌でも多様になります。はみ出していたりクセがあったり、逆にクセがないのが良さだったり…地域社会に多様な質、多様な規模の場が生まれ、その時々で必要な場に行ける──そんな地域社会を、僕は展望しています。
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