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かつてそこにあったユートピア。雪国の寂れた歓楽街を歩く
道北で暮らして数日が経った頃、網走に行く用事ができたので、問寒別からの始発列車に乗って旭川に向かった。
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旭川駅では乗り換え時間が1時間半以上あったので、駅を降りてなんとなく街をぶらつくことに。そこで偶然出会ったのが、道内ですすきのに次ぐ規模を誇る歓楽街「3・6(サンロク)街」だった。
すすきのに次ぐ雪国の歓楽街「3・6(サンロク)街」
旭川駅から10分ほど歩いた3条通6丁目周辺に、約800軒もの飲食店がひしめき合っている。ここはサンロク街と呼ばれるエリアで、夜になると多くの酔客で賑わうそうだ。
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昼のサンロク街は静まり返っていて、どこが現役でどこが廃業しているのか分からない。レトロなフォントの古びた看板もあれば、今時のデザインがあしらわれた新しそうな看板もある。
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サンロク街の歴史を調べてみると、発足は約70年前に遡るようだ。当時、高級料亭など格式の高い飲食店が多かった4条通6丁目エリアに、「庶民が楽しめる飲食店を作ろう」というムーブメントが起きたのがきっかけだという。
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まず、おでん屋や焼き鳥屋など気軽に入れる飲み屋が集まった雑居ビルのようなものが誕生。それを機にキャバレーやクラブが次々と開店し、街は一気に活気づいた。その10年後から、現在のサンロク街である3条通6丁目エリアにも飲食店が増えだして、旭川市内のみならず北海道全域から多くの客を引き寄せる歓楽街へと発展した。
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なお、サンロク街の語源は「3条通6丁目を中心とした歓楽街だから」といった説が最も有効だが、旭川が「大雪山の山麓にあるから」といった説もあるようだ。真相は謎。
全盛期はヌードショーも!?バブル崩壊までの華やかな日々
全盛期には約1,300軒もの飲食店がひしめき合っていたサンロク街。さらに多くの店舗を収容するための高層ビルも次々と建設され、バブル期は平日でも約5,000人の客足があったという。当時はヌードショーなどの過激なパフォーマンスも行われていたそうで、まさにバブル時代を象徴する華やかな世界が広がっていた。
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しかし、バブル崩壊や失われた10年といった歴史的不況の影響を受け、徐々に客足が減少。現在の平日の利用者は約2,000人ほどと全盛期の半数以下にまで落ち込んだ。
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現在も旭川の歓楽街として中心的な役割を担い続けているサンロク街だが、雑居ビルの看板はどこも歯抜け状態。スカスカとまではいかないが、かつての輝かしい時代から大きく衰退したことが明らかに分かるのが切ない。
激シブな「すずらんビル」に潜入
サンロク街の中でもひときわ昭和の香りを放つ建物を見つけた。建物の名前は「すずらんビル」、1階の中央にある通りが「すずらん小路」らしい。スナックを中心に多くの飲食店が入居する雑居ビルだ。
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すずらん小路を歩くと、スナックからデュエットを楽しむ声が聞こえてきた。昼間から営業している店舗もあるようだ。静まり返った歓楽街に聞き覚えのあるメロディーが響く。
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裏口にあった「すずらんビルご案内」を見ると、2階〜地下1階は1フロア複数の店舗が入っていて、3階〜5階はそれぞれ1店舗のみが入っているようだ。
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看板が裏返しになっている店舗は、おそらくもう閉店してしまったのだろう。地下に4店舗が入居していた時代を思い浮かべながら看板を見つめていると、大粒の雪が降ってきた。
かつてそこにあったユートピア
すずらん小路の出口付近に、レトロなフォントで「グランドシアター トップインナイト」と書かれた看板を発見。「エレベーター」ではなく「エレベター」なのが味わい深い。「飲み放題1,500円」とあるが、価格は後から修正している形跡が見える。時代の流れで値上げしたのか、それとも客寄せのために値下げしたのか。
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トップインナイトの姿を求めて4階へと足を運んだものの、そこには閉じたシャッターと「閉店のお知らせ」が貼られているだけだった。
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かつてここには、映画鑑賞を楽しみながらお酒を嗜むユートピアが存在していたのだろうか。静寂に包まれた空間で、酔客で賑わった時代に思いを馳せる。
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このトップインナイト、あまりにも気になるのでネットで色々と調べてみたが情報がほとんど出てこない。Googleマップには4件の評価が登録されており、いずれも5〜6年前のもの。唯一文章が添えられた投稿には「いつも遊ばせて戴いてます 気持ちよく遊ばせて貰って ありがとうございます 感謝🎵 いつも楽しい昼カラ‼」と綴られていた。
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Googleマップが閉業となっていないのもまた切ない。閉業したにもかかわらず、店主も客も高齢だったから誰も閉業登録する人がいなかったのかな、なんて想像する。
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さっきから切ない切ない言っているが、私はかつて繁栄した過去に思いを馳せ、切なさに浸ってセンチメンタルな気分になるのが好きだ。つまるところ、中二病である。
いつかの夢で見たような北見の夜
旭川を出発して網走に向かう途中、北見駅でも1時間ほど待ち合わせ時間があったので降りてみた。夜の北見は至るところに電球色の温かな光が灯っていて、映画の中のような、夢で見たような、少し現実離れした雰囲気だった。
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とある雑居ビルの地下におりてみると、祝日の夜だというのに1軒も営業していないようで、地上の音が聞こえてくるくらいに静まり返っていた。電気は廊下の蛍光灯がチカチカと光っているのみ。恐る恐る奥に進むと「オカマ館」「Men's○○」といった看板が並んでいることに気が付く。もしかして北見は、北海道の新宿2丁目なのだろうか?しかし、調べてもそれらしき情報は出てこない。謎多き北海道……。
そうこうしているうちに、網走行きの最終列車の時間が近づいてきたので慌てて駅へ戻り、列車に飛び乗った。歓楽街の謎は、またいつか解き明かしに来よう。
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