見出し画像

雪国の厳しさを思い知り、その美しさに息を呑む

雪国で暮らすって、どういうことなんだろう。

1年前の冬、のぼせそうなくらい暖かい宗谷本線の車内で、そんなことを思った。美しい銀世界が車窓を流れてゆく。安心・安全・快適な場所から外を眺めているだけでは、町を少し歩いたくらいでは、雪国で生きることの本質はきっと分からない。

というわけで、今年の冬は北海道の幌延町というちいさな町で除雪バイトをして過ごすことにした。


私が暮らす雪国について

問寒別の町並み

滞在先は、北海道天塩郡幌延町にある「問寒別(といかんべつ)」という人口220人程度のちいさな集落。あるものは、こぢんまりとした商店と、ガソリンスタンドと、郵便局と、"パンチパーマ"とだけ書かれた床屋など。飲食店はゼロ、宿泊所は「日本一しょぼいゲストハウス ウタラといかん」の1軒のみ。私は滞在中このウタラといかんでお世話になる。

問寒別駅舎

最寄り駅は宗谷本線の「問寒別駅」という無人駅で、1日あたりの乗車数は3人以下(2024年時点)という限界過疎駅。もちろん特急列車は停まらないので、運行ダイヤは上り3本・下り3本の計6本のみだ。

銀世界で列車を待つ

問寒別は年間を通して気温の低い地域で、冬の朝は−10℃以下なんてこともザラにある。積雪量はそこそこ多く、真っ白な町にふわふわと軽い雪が舞い落ちる風景はロマンチックだ。

滞在期間は12月下旬から2月中旬まで。せっかくなので、最も冬の厳しさを感じられるであろう時期を選んだ。

私が暮らす家について

日本一しょぼいゲストハウス ウタラといかん

私が暮らすウタラといかんは、築100年(増築部分は築60年)の家をオーナーがほぼ手作りで改修したゲストハウスだ。道民はよく「北海道の家は断熱性がしっかりしているから暖かい」「室内では半袖で過ごしている」と誇らしげに話しているが、ここに至っては建物が古すぎるせいであちらこちらから隙間風が吹くため、断熱性は皆無と言っても過言ではない。たまに家の中でも息が白いし、風呂場は凍ってる。

ウタラの薪ストーブ

では渋々ここを選んだのかといえば、全くそうではない。ちょうど1年前の冬、青春18切符で北海道を旅していた時にこのウタラに泊まり、この友達の実家のような雰囲気に惹かれて、翌月も泊まりに来てしまったのだ。この手作り感といい、オーナーやスタッフの人柄といい、このゲストハウスは寒いのに温かい。

雪国の大変なところ5選

真冬の道北で暮らしてもうすぐ1ヶ月が経つ。まずは、大変だと感じたことを挙げていこう。

1.寒い

といかんべつ川に架かる橋

北海道は寒い。旅行で北海道を訪れた際は厚着しているし高揚感もあってそれほど寒さを感じず、友人に「北海道って意外と寒くないんだよ〜」なんて玄人ヅラで得意気に話していたが、住んでみるとやっぱりちゃんと寒い。−25℃くらいまで下がった日は、鼻で息を吸うと鼻毛がピキピキと凍っていくのがわかる。

作業スペース(極寒)

そしてウタラの場合は家の中も寒い。寝室のストーブは朝になると大体スイッチがオフになっていて、スイッチを付けるために布団の中から腕を出すだけでも「ヒィィ」と声が出る。

2.雪かきしんどい

雪に埋もれた床屋

12月末からほぼ毎日雪が降っていて、1月上旬にはニュースになるほどの暴風雪に見舞われた。朝起きて玄関を開けると雪が膝くらいまで積もっていて、急いで雪をかき分け外に出るための道を作ったが、その数時間後に玄関を見るとまた膝くらいまで積もっていて愕然とした。

大雪が降った翌日、はしゃぐ子どもたち

雪かきは時間も体力も奪う。雪が少ない時は15分ほどで終わるが、少し放置して雪が積もってしまった場所を除雪するとなると、あっという間に1時間が過ぎてゆく。やっと終わった……と思って家の中に入ると、疲労感でウトウトして気付いたら夕方なんてことも。

3.灯油代ハンパない

ウタラの飼い猫。左からしじみ、ポン太

これはウタラだからこそかもしれないが、灯油の消費量がハンパない。断熱性がないからストーブも必然的にフル稼働となり、灯油がじょぼじょぼと消費されてゆく。ウタラの1ヶ月間の灯油代はなんと10万円にも上るんだとか。幌延町の積雪時期は11〜4月。1シーズンで50万円くらいかかると思うと恐ろしい。

4.上下水道が凍結すると面倒

下水が凍ったウタラの洗面台

特に寒い日は、洗面所の上下水道があっという間に凍結する。蛇口は凍って捻れないし、やっと上水が溶けて水が出るようになっても、下水が凍っていると排水できない。こうなると、洗面台が使えないだけでなく洗濯もできないのでかなり不便だ。

5.列車を信じてはならぬ

宗谷本線 抜海駅にて

道北で暮らしていて感じるのは、列車をあてにしてはいけないということ。本州だと列車は基本的に定時運行している乗り物で、むしろバスのほうが不確かな乗り物として認識されている。

宗谷本線のポスター

しかし雪国の列車に限っては、吹雪いて視界不良になるわ、鹿と衝突するわで大幅な遅れが生じたり運休になったりすることが少なくない。この間の暴風雪の日は、朝から晩まで列車が1本も動かなかった。なので、大切な用事がある時は列車をあてにしてはならず、まだバスのほうが確実性が高いというわけだ。

鹿遭遇は日常茶飯事

ちなみに列車と鹿がぶつかる"鹿アタック"は、色々な条件が重なると列車が4時間遅れになるケースも。「ぶつかった鹿をどかすだけで4時間もかかるか?」と思った方、私もそう思っていましたが、どうやら鹿をどかしてハイ出発とはいかないみたいで……これは色々な見解があって面白かったのでまた今度記事にします。

雪国の最高なところ3選

さて、ここからは雪国で暮らすことの素晴らしさについて書いていこう。
雪国の厳しさについてつらつらと綴ったが、そんなこともどうでもよくなるほど、ここでの生活は素晴らしい。

1.どこを切り取っても映画のような景色

北海道が一番美しい季節は冬だと思う。飛行機などの運行状況が安定しないこともあり閑散期となっているが、冬は北海道が最も輝く季節だ。

2025年元旦
樹霜
車窓からの景色
ウタラの2階から見える景色
宗谷本線にて

雪国は、どこを切り取っても映画のように美しい。晴れていても、曇っていても、雪が降っていても。陽の光が雪面を染める朝も、眩しい昼も、夕暮れ時も、街灯に照らされた夜も。

もちろん旅行でも雪国ならではの景色を楽しめるが、ここで生活することによって、同じ場所を異なる条件で見ることができる。時間や天候が少し違うだけで、街や自然のいろんな表情が見えてくる。

極限まで冷えた日にはダイヤモンドダストが煌めいて、幻想的な世界が広がる。こういった美しい景色に巡り合う度に、雪国で暮らすって素晴らしいなぁ、来てよかったなぁと心から思う。

2.北海道産の新鮮な肉&魚を楽しめる

スーパーで売っていたカジカ

先日、ウタラの同居人が利尻産のカジカをスーパーで買ってきて、北海道の郷土料理「カジカ鍋」を振る舞ってくれた。すぐ近くの海で採れた新鮮な魚をリーズナブルに楽しめるのは北海道ならでは。カジカ以外にもさまざまな海の幸がスーパーに並んでいる。

かじか鍋

カジカ鍋は出汁がよく出ていてそれはそれは美味。ちなみに、魚だけでなく肉も道内産のものが並んでいることが多く、北海道産と外国産の豚肉がほぼ同じ値段で売られているのも見かけた。

3.温泉のクオリティが高い

天塩川温泉

北海道はとにかく温泉が最高だ。まずは、泉質の種類が豊富。とろんとろんの黒湯だったり、石油が混ざった世界でも珍しい温泉だったり、炭酸泉のにごり湯だったり、オレンジ色の鉄泉だったり……多種多様な泉質が楽しめるので、しばらく滞在していても飽きない。

五味温泉

そして、雪見露天が楽しめるのも嬉しいポイント。キンと冷えた外気の中で熱々の温泉に浸かるのは至福のひと時だ。

誰もいなかったので撮らせてもろた

サウナが設置された施設も多く、たくさん汗をかいて、雪解け水のように冷たい水風呂に入って、外の椅子に腰掛けて、目を瞑って鼓動を感じて、目を開けたら銀世界が広がっている……という極上の整い方をキメることができる。

雪国での日々は続く

外は寒そうだね

長々と語ってきたが、滞在期間はまだ中盤だ。これからさらに雪国の厳しさを思い知ることもあれば、その素晴らしさに感動する瞬間もあるだろう。

今日は灯油が切れてしまい、ストーブの前で凍えながら過ごすことになった。
厳しいぜ、雪国。



いいなと思ったら応援しよう!

おさつ
一緒に旅をしている気分で読んでいただけたら、この上なく幸せです。