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焼尻島を訪ねて。なぜ人は寂しいものに惹かれるのか

原付でゆく北海道の旅14日目、天売島のちいさな旅館で目を覚ます。

そういえば、北海道に来てから初めて布団で眠った。いつもはエアマットに寝袋。布団って、柔らかくて温かいんだなぁ。昨日あんなに自転車を漕いだはずなのに体が軽い。

▼前回までのあらすじ


寒色の天売島を駆け抜けて

朝ごはんを食べて、自転車に跨り、昨日と逆回りで島を走ってゆく。朝のさわやかな風が気持ちいい。昨日は夕方だったから暖色の天売島だったけど、今日は青空が広がる寒色の天売島だ。

誰もいない
昨日夕陽を見た場所から
自転車も楽しい
下り坂のカーブは楽しい
旅人が撮ってくれた



港に戻ってきて自転車を停め、少し歩く。水のとぷとぷとした音が心地いい。

もこもこのかもめが私の方に寄ってきた。こちらも近づいてみる。かもめは逃げない。「おはよ~」とか「何してるの~」とか声をかけてみる。返事はないけど、もこもこふるふるしながらそこに留まっていた。

たくさん朝日を浴びて頭もスッキリ。そろそろ宿に戻って出発の支度をしよう。


ほぼ原生林の島「焼尻島」へ

今日は天売島の手前にある「焼尻島」に寄ってから北海道本土に戻る。焼尻島は島の1/3が原生林で、約50種15万本の天然記念物が生い茂るワイルドな島だ。

フェリーは、直接北海道に戻っても焼尻島で途中下車しても料金が変わらないので、せっかくだったらと焼尻島に寄ることにした。

切符売り場で財布を開けると、なんと200円しか入っていない。クレジットカードは使えないという。島の郵便局まで走ろうと思ったが、ちょうどシルバーウィークでCLOSED。THE END。

あたふたしていると、昨日旅館で仲良くなった旅人が「よくありますよね~」なんて言いながらお金を貸してくれた。いやもう本当にありがとうございます。

フェリーが出航する時、昨日旅館で仲良くなったもうひとりの旅人が見送ってくれた。これはその時に撮ってもらった写真。

30分ほど揺られて、焼尻島に着いた。船着き場はがらんとしていて、寂しい雰囲気。自転車を借りようと思ったが、現金を持っていないことを思い出してやむなく徒歩で周ることにした。

まずはヌコちゃんがお出迎え。道路の真ん中で気持ちよさそうに寝ている。

まだちいさい子猫だ。あなた美人ね。浜辺美波?

原生林へと入ってゆく。木漏れ日の下を深呼吸しながら歩いていると、たくさんの見たことがない植物に出会った。

しっかしまぁ、これまた誰もいない。天売島以上に人がいない。進めど進めど、振り返っても、ひとりぼっち。「これ道に迷って電波なくなったら終わるやつだな~」と思ってスマホを取り出したらすでに圏外だった。

1時間くらい歩いただろうか。開けた場所に出てきて、真上を見ると青空が広がっていた。原生林からの脱出に成功したようだ。


めん羊牧場で、ひとり泣く。

そういえば、焼尻島には羊牧場があるらしい。なんでも焼尻島にはキツネなどの外敵がおらず、羊たちがのんびりストレスなく過ごせる環境なんだとか。それらしき看板を頼りに進んでゆく。

羊、いたー!!!遠くでもこもこたちが動いてるの、かわいい。

実はこの羊牧場、去年の夏は人手不足を理由に閉鎖していたそう。閉鎖というか、3人しかいなかった従業員がなんと0人になってしまったんだとか。その後、下川町の養鶏場が運営することになっていまに至る。この景色を見られているのは、そういった人たちのおかげだ。

羊だけじゃない。こんなにも素晴らしい旅ができるのは、すべての働いている人たちのおかげだ。宿泊も、観光も、飲食も、交通も、全部。本当に本当にありがたいことだ。


なぜ人は寂しさに惹かれるのか

そろそろ折り返そう。涙を拭いて、旅路につく。道中は海が綺麗だから浜に下りたり、猫が可愛いから立ち止まってじゃれたりと、気の向くままに歩いた。

かゆいにゃ
こっち見るにゃ

途中で灯台を見つけて、昨日話した旅人のことを思い出す。彼は灯台の"寂しさ"が好きだと言った。

私は廃墟が好きで、その寂しさが好きだ。どうして人は寂しいものに惹かれるのだろう。もう答えは出ている気がしたが、あえてそのことは考えないようにした。


フェリー乗り場まで戻ってきた。待合室に並んだ椅子に横たわり30分ほど寝て、目を覚ますと、待合室に入ろうとしていた猫と目が合った。

フェリーに乗り込み、例の灯台好きな旅人と再会した。旅の話をしながら揺られていると、あっという間に羽幌港に着いた。別れを告げて旅路につく。

久しぶりに愛車のリトルカブに跨りキャンプ場へと向かう。走りながら色々なことを考えた。さっき私は、寂しいものに惹かれる理由について、最後まで考えられなかった。答えがハッキリしそうなところで、思考をほかのことに逸らした。

見たくないものは見ない。私の人生はあまりにもそれが多いのではないか。そんなことに気づいてしまいそうになったので、また気を逸らしてアクセルを回した。


ーnextー



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おさつ
一緒に旅をしている気分で読んでいただけたら、この上なく幸せです。

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