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その1秒、その1歩

跳ねる、のではなく、前に倒れていく。
右足を地に着き、身体を前に倒し、倒れきらないように左足を地に着き、身体を前に倒し、また右足を地に着く。その繰り返し。
その動作を支えるために、腕を振る。倒れながらも、俯かないように。胸を張り、直上から脳天を糸で引かれているイメージを持つ。

走る、というほど美しくない気がする。
でも、この動作を形容するのであれば、それは「走る」だろう。

決して速くない。息は苦しくなる。脚は痛くなる。ウェアが絞れるほど汗をかき、身体に張り付いて気持ち悪い。
でも、心地良い。不思議だ。説明はつかない。

元々、運動が得意な方ではない。それでも、長距離走はそんなに嫌いではなかった。決して得意ではないのだけれど。
性分に合っているのだと思う。

昨日より1秒でも速く走れたら、昨日より1mでも長く走れたら、自分を肯定できる。その肯定感を自分で手に入れられるのが好きなのかもしれない。

でも、何より、身体が動く。それは単純で、でもとても大切な快感。自分で健康であることを自分に証明するために、走る。

不恰好だ。不恰好なその1秒、その1歩の、健やかさ。

焦らない。欲を出しすぎない。でも欲を出して目標を言うのであれば、自分を恰好良いと思えるように、「走る」ことを目指したい。
マラソン競技に飛び道具はない。1秒、1歩の積み重ねで、ゆっくりとその日を目指す。

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