日本酒と月のうさぎ
「はぁ……生き返る……。」
いつも行く飲み屋、
月のうさぎで日本酒を煽った。
とはいえ、
まだほんのひと口。
煽ったように見せても、
36にもなって「日本酒イッキ」なる怖いことはしない。
学生でさえ、その分別はあるはずだ。
ここの店長が揃えてる日本酒は、わたしの舌に合う。
とはいえ、
料理のおいしさなんて相対的なものだ。
わたしの舌に合えば美味しいし、
合わなければ美味しくない。
漁師の家で育ち、海鮮の鮮度にうるさい父をここに連れていったときも、
うまいうまい、と食べてたから、
やっぱり店長は美味いものを出してくれると思う。
日本酒は、日本の宝。
ワインがフランスから世界に。
シャンパンがシャンパーニュ地方から世界に行ったように。
SAKEは、japaneseなtreasureとしてWorldにflyしていいと思う。(音読するならルー大柴風だ)
特に純米酒!
無添加じゃん?
米だし、veganだってグルテンフリーの人だって飲めるのだ。
そんなことを考えながら、
ちびちびと、お酒を嗜む。
「本当、強いですよね」
と言われるけど、
強いのは、アルコールにっていうより
精神的なものだと思うの。
4合半飲んでも、
子どもと一緒なら酔わないし、
アルコール3%のほろよいでも、
友人と泊まり旅行のときはふわふわと酔って記憶が曖昧だ。
おや、話がそれた。
すかさず店長が声をかけてくる。
「なんかつくろうか?」
「んー、こんな気分のものがいい」
と
伝えると出てくるのだから、
なかなかにこの店に通ってるほうだと思う。
日本酒が好きだった祖父が亡くなって、
「弔い酒だ」と1人で飲んだが、
一向に楽しくなかった。
それでも、美味しいお酒は体を潤し、
心を少しだけ軽くしてくれた。
祖父に「お土産」と称して持参した日本酒を思い出したのだ。
和歌山の紀土は、
和歌山に初めて行ったとき、
あまりのおいしさに嬉しくなって買ったのだ。
実家に帰るのは1年くらい先なのに。
それでも、
祖父と飲む日本酒は、
祖父の本音が聞けて好きな時間だった。
北海道男山酒造の国稀は、
北海道にいるときに好んで飲んだ。
北の勝と国稀は2トップで好き。
最近は、
十勝や五稜ってのも好きだけど、
昔ながらの酒造はいいなぁと思う。
今日もうさぎのカウンターで飲みながら、
パタパタと動く若い子や、
1番元気な店長を横目で見る。
なんてことない、いつもの風景だけど、
この風景に安心するのだ。
「あぁ、わたし、ちゃんとここにいる」と思える。
悲しいことがあった日。
日本酒とともに、楽しい話に精を出す。
嬉しいことがあった日。
「店長きいてー!」と声をかける。
悩んだ日も、ノートを開いて考えながら
「これって、どう思います?」と若い子や店長に聞いてみる。
美味しい日本酒は、
わたしの心と体を満たすのだ。
そして、未来を楽しく想像できるように力を貸してくれる。
「現実的に無理でしょ」と
早々に諦めがちな思考を止めてくれるのだ。
「こうしたらできるんじゃない?」と心の内から湧き上がる。
店長や周りのお客さん、スタッフの若い子達にも聞いてみると、新しい視点が出てくる。
うん、わたし、大丈夫だ。
そう思えるのだ。
いいお酒といい時間。
それは、その場にいる人たち……みんなで作るからこそ、あたたかい時間になる。
お酒は飲むなら、楽しいお酒を。
飲みコミュニケーションなら、あたたかい時間を過ごしたい。
年末年始、飲む機会に恵まれるかもしれない。
そんなときは、
笑って、大笑いして、笑いすぎて涙が出て、
少しだけしっぽりして、また笑って。
「よし、明日もがんばろっ」
そう思いながら店を出る。
「気ぃつけて帰りや〜!」
と言われながら。
今日も、月に見守られて、家路を歩くのだった。