近代の地方遊廓がいかにできたか?『遊廓と地域社会 貸座敷・娼妓・遊客の視点から』を読む

最近の私は遊廓の歴史や売春の歴史を調べている。その過程で面白い本を読んだので紹介する。『遊郭と地域社会 貸座敷・娼妓・遊客の視点から』という本だ。

 遊廓というと吉原を思い浮かべる人は多いだろう。吉原に関しては、歴史もあり、フィクション、ノンフィクション問わず様々な媒体で語られ資料も豊富だ。成立過程やどんな街並みだったか、そこで働く人々の暮らしなどもある程度はわかっている。

 だが、一つの場所に娼妓を集めて客を取るといったことや、性売買の場を隔離し閉ざして営業をしていた遊廓という存在はむしろ少なかった。江戸時代であれば幕府からは認められていない岡場所があった。そうした場所は、隔離されたり閉ざされたりはせず、人々が暮らす場所とも隣り合い地続きの場であった。売春の場が遊廓として集約し各地で増えてくるのは、近代以降のことである。

本書は、この近世から近代にかけて遊廓・遊所がどのように展開されていったのかということや、近代以降の地方都市における遊廓に着目し、その成立過程や、経営者と客、景観や空間構造を様々な資料をもとに説明している。

掲載されている資料が詳細なもので非常に興味深い。遊女屋(貸座敷)の経営者の変遷や、遊客の名前や所在地、使ったお金が載っている資料や、遊廓で働く娼妓の収入と支出がわかるものもあったりする。

私たちの遊廓に対するイメージは、どうしても華やかさだったり、性の搾取の場といった画一的なものだったりするが、こうした詳細な資料を目にすると、そこにどんな人たちが関わり、人々の生活の中で遊廓がどんな存在だったのかを、より具体的にイメージすることができる。

こうした地道な資料集めによって、歴史の輪郭をよりはっきりさせてくれるという点で、本書の存在はとても意義があるものだし、著者の地道な資料集めと、調査に尊敬の念を抱いた。

私と同じように遊廓や売春の歴史や背景に興味がある人は、ぜひ一度読んでみることをおすすめしたい。


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