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#140字小説 part2
Twitterに投稿した140字小説のまとめ投稿です。
『救援要請』
「しっかりしてるとか、大人びてるとか、そういうふうに言われるのが嫌だ。そうしないと生きられなくてなったのだから、なりたくてなったわけじゃない」
彼女は助けて欲しいときにひとりぼっちでいた子供時代を送ってきたのだろうか。
「僕は今、君に何をしてあげられる?」
彼女は泣き出した。
『再会』
久しぶりに会った君は、昔とは違う表情をしている。僕も、君と合わなかった間に過ごした時間のせいで、あの頃のようには笑えない。楽しさだけで笑っていた時間はもう無い。
寂しくて、切なくて。それでも共有した思い出が愛おしい。
苦く笑って顔を上げると、目の前にも寂しさを滲ませた笑顔があった。
『幻聴』
僕の頭はおかしい。
取り巻く全てに絶望して、誰にも会いたくなくて誰とも話したくないのに。そういう時ばかり話しかけてくる。
幻聴。おかしくなった僕の頭が作り出した、誰のものでもない声。
「ーーー。」
にせものの音のくせに、温かくて柔らかくて、僕は泣きたくなる。
おまえ、どこにいるの。
『好き』
流行の音楽の中。雑誌の中のマストアイテム。一番多く選ばれたもの。誰かに笑われないもの。
そんなものじゃない。僕の『好き』は僕の中に。
好きの理由はいくつでも言えるけれど、それがなくたって好きなのは変わらない。
そう言って、世間の意見なんか見向きもしないでひとつを愛せる君が眩しい。
『美徳』
優しいという言葉が嫌いだった。他人のために痩せ細るまで尽くす様子が語源の意味だ。
そんな美徳いらない。美しいなんて思わない。
「でもそんな風になるまで人を愛せるのなら、私は幸せだと思うんだろうな」
そんなことを言う君が、憎らしくて愛しかった。
僕は優しさなんていう愛は欲しくない。
『雨』
雨が降っている。
傘に路面に降る雫の音が、世界の音を少しだけ遠ざける。
雨を纏って光が散っている。風景の輪郭が曖昧になる。
君は強いから、嫌な音にも嫌な光景にも負けないかもしれないけれど。負けなくとも傷ついていく君を、たまには痛くて辛い世界から遠ざけたい。
雨のようにあいしたい。
『今年の桜へ』
「桜が咲く前に帰りたい」とその患者は言った。
今日は暖かくて強い風が吹いている。
蕾はもう綻びかけている。
「どうしても、桜はあの人と見たい」
思い出すのは会えない人。
誰もが待ち望む花に、こんなことを願うのはきっとこの国では稀有なこと。
桜よ、どうか今年ばかりはゆっくり咲いておくれ。
『優しさ』
「優しいんだね」
笑ってそう言われたのに、何故だか褒められている気がしなかった。
「君は、いつかその優しさで削れて無くなってしまうんじゃないかって」
泣き出した彼女はひとりぼっちを怖がる子供みたいだ。
僕は君のためなら削れていっても構わない。でも君が泣くなら、その涙で僕の傷を埋めて。
『いい天気の日』
「散歩に行こうよ」
「雨なのに?」
「雨だからさ」
雨音でいつもの音が遠い。雨粒でいつもの景色の輪郭が滲んでいる。
傘の内。雨の魔法に守られて、私たちは隠される。世界が私たちを見失う。
「今日は世界が遠いから、きっと誰も気がつかないよ」
傘の中で寄り添う君がキスをして悪戯に笑う。
『葉桜』
はらはらと泣いているみたいに花びらが落ちる。見上げるとまた緑が増えている気がする。もう、花の盛りが終わる。
「散っちゃったね」
「私はこのくらいが好きよ」
葉に会えて喜んではしゃいで踊っているみたいじゃない、と君が言う。
君の目には喜びの色にみえるのかと思うと、葉桜も存外悪くない。
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