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西宮ストークス観戦記#65 ためらいのキャプテン

2011年の春、谷直樹は迷っていた。大学を卒業し、就職先も決まっていたが、彼には夢があった。プロバスケットボール選手になりたいーー。しかし、同時に迷いもあった。インターハイに出場したこともない、強豪大学で揉まれたわけでもない自分が、本当にプロの選手としてやっていけるのだろうか? 

全国レベルの経験がないわけではない。同年代の道原紀晃や松崎賢人、中西良太らと共に成年国体の選抜メンバーに選ばれたこともある。高校時代から全国大会に出場していた彼らを見つめる視線に、悔しさがまったくなかったと言えば嘘になるかもしれない。

大学卒業と同じタイミングで、地元のクラブがプロリーグに参戦することを決めた。西宮ストークスの前身、兵庫ストークスだ。もしかしたら、これも何かの縁かもしれない…。ためらいながらも練習会に参加すると、その才能を見出され、チームに加わることになった。

こうして谷直樹青年はプロバスケットボール選手としてのキャリアの第一歩を踏み出した。入社式のわずか4日前のことだった。線の細い、華奢なルーキーが後に「ミスター・ストークス」とまで呼ばれる選手になることを、この時、誰が予想できただろうか。

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以上は関係者の方から聞いた話と、インタビューでご本人が語っていた内容を元にした想像です(麒麟の田村さんがYouTubeチャンネルでやってる動画)。テレビでよくある再現VTRみたいな感じだと思ってください。丸っきりこの通りではないけれど、そこまで外していないはず(間違いがあればご指摘ください)。

なぜこんな書き出しで始めたかというと、谷直樹という選手について考えるにあたって、プロを志した時に感じていた「ためらい」や「迷い」がキーワードになるのではと思ったからです。

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◉B2の6thマン・オブザイヤー(仮)

さて、ここからが本題。今シーズンの谷選手について振り返ります。何と言っても大きな変化はスターターではなくベンチスタートでの起用になった点。出場47試合のうち、スタートしたのは13試合。1Q5分過ぎに岸田選手とともに登場し、谷口選手を交代するパターンが多かった。「6thマン」と呼んでも差し支えないと思う。

谷直樹選手の2019-2020シーズンのスタッツ
平均出場時間|26.4分(31.7分)
得点|10.9点(13.2点)
3FG%|42.1%(38.3%)
2FG%|50.2%(47.5%)
FG%|3.9/8.4=46.3%(4.8/11.1=43.2%)
リバウンド|3.0(3.6)
アシスト|2.6(2.2)  ※カッコ内は2018-2019シーズン

いやはや、立派な数字です。出場時間を5分ほど減らしながらも、シューティング%は軒並み向上。しかもこれ、キャリアハイなんだよね(ついでにアシストも)。出場時間を30分換算した数字を見れば得点は昨シーズンと遜色なし。ということは出場時間が減った分、試合における存在感は増しているとも言える。eFG%は56.5と昨シーズンから4.3も上昇し、とても効率よく得点できています。

B2リーグの中で見ても、3FG%は外国籍選手を含む全体で7位、FG%は日本人ランキングで5位。もしB2にアワードがあれば、間違いなく6thマン・オブザイヤーの候補に挙がったことでしょう。

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谷選手はもちろんスタメンとして出場していい選手ですが、その選手をあえてベンチからスタートさせるのには、フィッシャーHCなりの考えがあるのでしょう。考えられるのは、40分間を通してチーム力の波を少なくしたり、タイムシェアによって体力の消耗を抑えるといったあたりでしょうか。先発や途中出場にこだわらず、1試合の40分間を通して選手起用を考えるのは、合理的な思考をする外国人HCならでは。NBAなどでは当たり前に見られるもので、Bリーグでもそれほど珍しくないのでは。

ともかく、この数字を見れば、フィッシャーHCの「発明」とも言えるこの起用法は成功したと言えるでしょう。ということは、来シーズンもこの起用法が続くことになるのかな。谷口選手の代わりを見つけられれば、という条件付きだけど。

また、谷選手といえばディフェンス面での貢献。今季のストークスはマークマンを頻繁にスイッチし、スリーラインやペリメーターでオープンをつくらせない守備を試みていました。そうしたプランを立てられたのも、相手のスペースを消すポジショニングやパスコースの読みが巧みな谷選手がいればこそでしょう。そのディフェンス力は信州や熊本など強豪との対戦でも際立っていました。具体的にはこのあたりでも考察を試みています。

◉「ためらい」と「迷い」の中で

素晴らしい成績の一方で、いやだからこそと言うべきか、物足りなく感じてしまう部分もある。それは時折ふと顔を覗かせる消極性。ほら、あれだ。せっかくゴールの前まで迫っているのに、ブラッドさんに任せようとしてしまうやつ(で、通らないことが多い)。ほとんど難癖レベルだけど、実は出場時間は減ったけどターンオーバーはちょっとだけ増えていて、それはこのせいじゃないのか。今季は減ったようにも思うけれど、シュートを打てる・打ってほしい場面で他の選手に譲ったり、スリーを打ち切れずにドライブをして中途半端なプレーに終わるシーンもある。

いや、わかるんだ。自分で打ちたくないわけではなくて、より確実に得点しようとしているんだろう。けれどやっぱり迷いがあるように見えてしまうのは求め過ぎなのか。だってあなたはミスター・ストークス。チームを支えるキャプテンなんだから…。

という風にずっと思っていたわけですが、冒頭に書いたエピソードを知って少し考えが変わったところがありました。つまり、谷直樹という選手は常に「ためらい」や「迷い」と共にあり、それゆえに成長を遂げてこられたのではないのかということです。

先ほど紹介したのと同じ麒麟の田村さんのYouTubeチャンネルには、谷選手がバスケットのスキルを伝授する動画があります。

谷選手はこの動画の中で、しきりに自分のことを「能力もない」「スピードもない」と口にします。いやあなた、プロで何年やってるのよ? しかし、このいじらしいほどの謙虚さが谷選手を努力家にし、いみじくもこの動画で語られているようなスキルを身に付け、プロの世界で生き残ることができたのではないでしょうか。だとすれば、谷選手に対して感じる物足りなさは、単なる消極性として捉えるのではなく、むしろためらいながらもなお成長するための「伸びしろ」だと解釈する方がいいのかもしれません。

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そう考えて、冒頭のエピソードやインタビューを振り返ると、また違った味わいが生まれてきます。自信満々、鳴り物入りでプロ入りしたわけではない谷選手にとっては、1試合1試合の経験が、まさに自分がプロのバスケットボール選手であることを確かめるための時間だったのかもしれません。

ここ数年にわたって担い続けているキャプテンの役割も、本来は向いていないのかもしれません。少なくとも、自分でグイグイ引っ張っていくタイプではないよね。それでもなおチーム内を見渡し、自分の立ち位置を客観的に理解して「俺がやるしかないか」と役割を引き受ける姿は、ブースターの胸を打つものがあります。

でも、若いメンバーも増えてきて、だんだんと様になってきたよね。シーズン前には3X3に参戦したり、ファンイベントを開催するなど、進んで新しいことに挑戦する姿は、徐々にプロであることに自信を深めているという風にも考えられるのではないでしょうか。

ただの印象論と言えばそれまでだし、30代のベテラン選手ならば驚くことではない。でも、谷選手のキャリアやパーソナリティを思うと、客観的な成績や選手としての価値と、本人の自己評価がようやく合致してきたというような感慨を抱くのでした。なんだか回りくどい話になってしまった。

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動画で語っているのが偽らざる本心なのだとしたら、谷選手は今もまだためらいと共にあるのでしょう。そして、それを一つずつ乗り越えていくことで、プロとしての自信を深めているのでしょう。言い換えればミスター・ストークスはいまだ成長の途上にあるということ。だからこそ、6thマンという新しい役割もすんなりと受け入れられたんじゃないかな。だって「俺がエースだ」と思ってる選手は、いきなりベンチスタートって言われても受け入れられないし、結果も出せないよ。

改めて考えると、キャプテンがベンチスタートってすごいよね。キャプテンにはいろいろなタイプがあるけれど、自分を過信せず、周りを見渡し、努力を重ねる姿を見せることが、谷選手流のキャプテンシーなのでしょうか。だからやっぱりゴール下でもまたパスを出すのかもしれないけれど、その謙虚さこそが谷選手がプロであり続けられる理由なのかもしれません。


※このnoteは単なるファンの個人的な感想であり、
西宮ストークスとは一切関係のない非公式なものです。









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