めざましい成果をあげるデザイン人材の特徴
人材のパフォーマンスについては話しづらい点もありますが、今回はあえて「めざましい成果をあげるデザイン人材の特徴」を書いてみます。キャリア形成やデザイン組織の経営に少しでも役に立てられれば幸いです。
めざましい成果をあげるデザイン人材の特徴。結論から言うと、それはデザイン人材でありながらも「研究者」であるということです。もちろん、本物の研究者ということではなく、研究者的な姿勢やふるまいがあるということです。
「めざましい成果」の前提
まず前提から確認したいと思います。私はコンセントというデザイン会社に所属しています。コンセントは250名ほどのデザイン人材が活躍する組織です。本記事ではコンセントを定点観測した上での「めざましい成果」であると捉えていただければと思います。
私は、コンセントの事業部門を担当する役員なので、単なる印象値ではなく、人事評価にも関係する事実ベースの成果が前提となります。成果は、デザインプロジェクトやそのアウトプットの質だけでなく、案件を創出する力であったり、売上やチーム運営であったりといった業績面も含めた総合的なものです。一元的にパフォーマンスを語るのは難しいことですし、コンセントの社風であったり、事業内容の影響もあるため、読者にとっては参考程度の情報となるかもしれません。
リサーチクエスチョンをもっている
まず、めざましい成果をあげる「研究者」は、リサーチクエスチョンをもっています。リサーチクエスチョンとは、研究によって答えを求めようとする「問い」のこと。個人の研究テーマと言い換えてもよいでしょう。
たとえば、「社会性と経済性を両立するデザインの方法論は何か」であったり、「創造性を高め合うデザイン組織をいかに実現するか」といったようなもの。「良い社会に導く起点となる造形表現はどんなものか」といったものもあります。こういったテーマを具体的にイメージして活動している人もいれば、明確に自覚しておらず暗黙的な状態で動いている人もいます。
めざましい成果をあげる「研究者」は、長期的に研究し解き明かしたい問いがあり、その問いを軸に自分の仕事を組み立てています。仕事に対してリサーチクエスチョンが先行しているような形です。誤解を恐れず言うならば、仕事を研究のように捉える側面があるともいえます。常に好奇心や内発性をベースにプロジェクトに取り組んでいるのも特徴的です。
フィールドワークの習慣
デザイン人材の「研究者」はフィールドワークをします。リサーチクエスチョンを解き明かすために、外に出て交流し情報を集めます。イベントや会合に出席しネットワークを広げます。デザイン分野の一般論や理想論と、実務者が向き合っている現実とを突き合わせて、そのギャップを捉えながらリサーチクエスチョンの解像度を高めていきます。デザイン人材は内向的な人も多いのですが、その自身の特徴も乗り越えるべき課題と捉え、果敢に外に出ていきます。
コンセントは受託のデザイン会社なので、フィールドワークはそのまま個人のマーケティングにもセールスにもなります。自らのリサーチクエスチョンが社会の重要な課題解決につながるならば、その問いに対してニーズが形成され市場が作られていく。リサーチクエスチョンに関係するデザインプロジェクトが生み出され、そのまま自分が担当することになっていきます。当人に「営業」という感覚は薄いものですが、自然とプロジェクトが集まってくる現象が存在しています。
事業会社のデザイン人材も同じような構造があるのではないかと思います。リサーチクエスチョンをもとに社内外でネットワークを広げ、仲間を増やしていく。プロジェクトが生み出されていき、徐々に影響範囲を広げていく。そして、本質的なデザインの問いに向き合う空間が作られていきます。
学習の量と速度が磨かれる
フィールドワークでは良質な情報が集まります。非公開情報も集まります。情報量が多いと、自分が直面する課題に対して何を調べればよいか、誰に聞けばよいかの勘所も磨かれていきます。
リサーチクエスチョンを解き明かすためには、デザイン以外の情報にも触れ学ぶ必要が出てきます。社会学や心理学といった学問領域や、産業ごとの業界情報、マーケティングソリューションのトレンドなど、状況に応じてあらゆるものが雑食的に学習対象になっていきます。
異分野の知識が増えると、その多様な結節点の中から新しい気づきが生まれます。リサーチクエスチョンの解像度が上がったり、アップデートが行われます。内発性や好奇心が刺激され、学習のサイクルも速くなっていきます。
好奇心がリスクに勝る
内発性や好奇心はリスクに対するふるまいにも影響を与えます。リスクを自分から取りに行く体質になっていきます。
デザインプロジェクトは全てが一回性のある唯一のもの。ひとつとして同じものはありません。デザイン人材は常に初めての経験をすることになります。
社会や市場の課題は時代に合わせてどんどん変化していきます。変化は産業ごとの課題と組み合わされ、複雑な課題が複雑に進行していきます。当然、デザインのプロセスやスキルも変化していかないと対応が難しくなっていきます。
安全で予定調和なデザインプロジェクトは存在しません。自分にとって初めての分野や、初体験のプロセス、越境が不可欠な課題。このようなものに対して、「研究者」はリサーチクエスチョンにドライブされ、果敢に挑戦していきます。
初めての経験に対してひるむこともありますが、好奇心がそれに勝り、どんどん自分からリスクを取りに行くようになっていきます。
成果にとことんこだわる
デザイン人材の「研究者」はプロジェクト成果にこだわります。研究者的であったとしてもデザインの実践者であることには変わりありません。実践者であることに誇りも持っています。実務の成果によってリサーチクエスチョンを解明しようとしています。成果を出さないとリサーチクエスチョンへの解答は出てこないことも知っています。
サービスデザイナーは事業成果によって解答を出す。コミュニケーションデザイナーは視覚言語で解答を出す。解答の出し方には違いはありますが、そのために仕事のディテールに手を抜かない点は同じです。
仕事に対してリサーチクエスチョンが先行していると書きましたが、研究への意識から、プロジェクトの要件を独りよがりにゆがめることはありません。真実は社会や市場や現場にあります。そこで起こっている事象に対して敬意を払い、デザインで対応していくことが基本姿勢となります。
デザイン行動の自己相似性
ここまで見てくると、「めざましい成果をあげるデザイン人材の特徴」からは、基本的なデザインの行動を、長期的に渡って愚直に実行している様子が見て取れます。
問いや仮説を立て、顕在的・潜在的な情報を集める。情報をつなぎ合わせて分析し、仮説の精度を磨き上げる。実践を通して検証し、それを繰り返して成果を上げる。
デザイン人材の行動の全体像と個々のプロジェクトの行為が、同じデザインの枠組みの中で相似形をなしています。
デサインは時代の要請によって定義を変え続けるものであるため、デザイン人材は常に考え続けます。キャリアを通して考え続けています。その研究の行為がデザイン的であり、人や情報やプロジェクトの求心力を持つことになるのです。
デザイン組織はこの事実をどう活かすか
デザイン組織は、こういった事実をどう活かしていくか。
まず、組織としては「研究者」的なデザイン人材が最大のパフォーマンスを出せるようにすることが重要です。「研究者」にとって居心地のよい空間にしていくことが考えられます。
一例をあげると、コンセントでは、書籍の購入やイベントの参加は全て会社経費でまかなわれます。ジャンルは問いません。好奇心を促すもの、人との出会いや気付きを生み出すものには費用を惜しまないようにしています。
上位2割の者が8割の成果を出すと言われるパレートの法則ほど極端な状況ではありませんが、「研究者」はめざましい成果をあげるものです。「研究者」を生み、支援するような上記の施策は、投資対効果としても理にかなったものだと考えています。
デザイン人材のキャリアの視点から
個人の視点からはどうでしょうか。
長期的にデザインのキャリアを築きたいと思うならば、自分なりのリサーチクエスチョンを立ててみるのはどうでしょうか。ユニークなものでなくても構いません。率直にデザインで叶えてみたい世界をイメージしてみると良いでしょう。
もしそれでも考えられないなら、利他的な視点で考えてみることです。デザインの行為とはそもそも利他的な作用を持つもの。誰かのために考え、つくり、誰かの生活を良くするためのものです。自分の長期的な行動を、デザインの行為そのものとして捉えてみることです。
リサーチクエスチョンが立ったならば、顕在的・潜在的な情報の収集、情報の分析と統合、実践を通した検証と改善といったプロセスを意識して踏んでみるのです。いずれは、人や情報やプロジェクトが集まってくる感覚を感じ取れるようになるでしょう。自分の成長実感を得られるプロジェクトが圧倒的に増えていくはずです。
Photo by Tingey Injury Law Firm on Unsplash
※今回は、めざましい成果を上げるデザイン人材の特徴について紹介しました。下記の記事では、長期的なデザインの学びを有効に進めるための「学びを整理し設計する手段」について取り上げています。ぜひご覧ください。