読んだよ「悪魔二世」志波由紀

「悪魔二世」は、ハルタで連載されている漫画だ
作者は志波由紀先生
本作は先生のデビュー作だ
初の単行本でもある

読んだ
面白かった

それをこれから書いていこうと思う

河城君がクールすぎる

とある喫茶店
お客がいそいそと店の外へと逃げていく
店内からは謎の衝突音が響いている
店長が延々と頭をテーブルに叩きつけているのだ

うつろな表情で
人形のように

どう見ても異常な光景
だけど、ふと考えてしまう
仕事のストレスが臨界点を超えたとき、こうした光景は案外不自然じゃないかもしれない

「悪魔二世」より

しかし、ありそうだけども危ない状況に変わりはない

バイトの河城君が店長に呼びかける
店長は無反応
河城君、鍋に水を溜めて店長に浴びせかける
我にかえった店長に「どんどんひどくなってますよ」と河城君
どうやら店長の錯乱は日常茶飯事らしい

「悪魔二世」より

この河城君、状況に対して驚くほど冷静だ
的確な対応力がそれを物語っている
まったくといっていいほど状況に戸惑ったりしない
「多様な社会」に育ったがゆえの落ち着きぶりだろうか……?

「悪魔二世」は、この「明らかに異常な状況なのにまったく泰然としている淡々さ」がまず面白い
読み手の困惑をよそに、矢継ぎ早に状況が進むテンポのよさがいい
ついつい先へ先へと読み進めていってしまう

そして驚くことに、このめちゃくちゃクールな河城君は主人公ではない

主人公がアルカイック可愛い

主人公になるのは、当然タイトルの通り「悪魔二世」にあたる存在
その悪魔二世、じつは女の子だ
「源間菊光」こと菊ちゃんが悪魔二世である
大きな眼、アルカイックな表情
で、あるのにどこか愛嬌のある子です

何を考えてるかがわからない
いや、何も考えてないのかもしれない
そういう神秘性と幼さが同居した愛らしさがある

物語は、彼女が喫茶店のバイト募集を見てやってきたところからはじまる

「悪魔二世」より

店内では状況がより混沌としていた
「僕は悪魔に取り憑かれてるんだよ!」と店長
聖水(25000円)によって店長の口から悪魔が出てくる
暴れ出した悪魔のふりかざした包丁が、たまたまやってきた菊ちゃんの眉間に突き刺さる
菊ちゃんは表情ひとつかえず刺さった包丁からぬるりと抜け出して……

「悪魔二世」裏表紙より

ストーリーは、包丁が刺さっても死なない少女菊光と、状況に対して冷静な河城君のふたりがメインになって「日常のなかに悪魔が存在する社会」を描いていく

まてよ
日常に悪魔が定着しているのなら河城君の冷静さも頷けるのではないか
一般人全員がクールなんじゃないか

しかしそんなことは全然なく、悪魔を目の当たりにした一般人はだいたい驚いたり戸惑ったりしている

やはりふたりの落ち着きぶりが異常なのだ

「悪魔二世」は、状況に対して順応力の高い展開で読者を戸惑わせつつ、そうであるからこそ「この先どう対応していくんだろう」という謎の期待感がページをめくらせる面白さに満ちている

淡々と激情のコントラスト

「悪魔二世」は淡々と状況を進めていく漫画だけど、ときおり「人間らしい心の動き」を激情とともに描いている
そして、その激情が鮮烈なコントラストを生み出している

それは同時に「悪魔とヒトを分けるものはなんだろう」という命題へつながっていくようにも思える

「悪魔二世」の菊ちゃんは驚くほど行動に迷いがない
人間の河城君はめちゃくちゃ冷静だけど、やはり「菊ちゃんとは決定的に違う人間的な何か」を感じさせる

ふたりの「似て非なるもの」を通じて「人間ってなんだろう」と思わせてくる

だから「悪魔二世」は面白い

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