ユージ・レルレ・カワグチという人
ある日の土曜日の14時2分。滅多に鳴らない着信が鳴った。
携帯の画面を見ると「ユージレルレカワグチ」の表示。カクシンハンという劇団の舞台に出演した時に出会った“ナチュラルボーンどこでもドラマー”だ。
ありのままで生きてる印象だからナチュラルボーン。世界のどんな場所でも演奏するからどこでもドラマー。
「ユージレルレカワグチ」
自分で登録したはずの表記に「カタカナってインパクト強いな〜」って笑いながら
「もしもし」と出た。
「おぅ!元気か!」
相変わらずの返答だった。こちらも相変わらず元気なことを伝えると、
「今、○○駅にいるんだが、えりちゃん来れないかなと思って!」
どこかで予想できてたかは覚えてないけど、久しぶりの連絡にしては近い誘い方だなと思って笑った。
確かにその駅は当時の最寄りの隣で近かった。しかもちょうど夕方くらいにその駅にDVDを借りに行こうと計画していた。その計画が少し早まったと思えばいいし、何よりその駅だからって私を思い出して電話してくれたのが嬉しいことだった。
2人で会うのは初めてだし、あまりに急な誘いだったけど迷いなしに「行くわ!」と答えた。
「さすがえりちゃん!そういうとこほんと最高だよな」
みたいなこと言ってたかな。
そう。フットワークが軽くなったのはいつからだろうなんて考えたら、意識して軽くした時期を思い出して、その話は長くなるからまた今度。
そんなわけでこの日も
「15時までには着くと思うけど、どっかに入っててね」と伝えて、作業していたパソコンを閉じ、10分で家を出た。
「ひとまずミスタードーナツに着地した。いい場所知ってればそっちに行こうぜ」
「おいおい最高か。今、私が、一番行きたい場所じゃないか」
と即返信して気づいた。ミスドと略さず、フルのネームで言うあたりもなんか良かった。
すると
「掃除して待ってるわ」の返信が来た。
「なんでやねん」
とベタなツッコミを送っちゃったけど
「せめてものおもてなしよ」と来た。
“ナチュラルボーンどこでもドラマー”、演奏は激しめなのに人物は優しかった。
「神席取れたわ」
という返信の直後に到着した。完全に独立した隅っこのまさに「神席」だった。
「お待たせしました」
と荷物を置いたら、ユージレルレはすでにドーナツを前にして「神席」に馴染んでいた。
「ドーナツ選んでくる」と言い、待望のドーナツを探す。
1番のお目当てはなかったけど、2番目にお目当てだったメープルリングがあった。当たり前のように2つ目は長年トングで挟み慣れているエンゼルクリーム。
トレイの上を眺めて「あー、良き」と脳内がまず満たされた。
席に戻ると、自分のお皿の上と全く同じものが乗っている友人、ユージレルレがいた。
「え?こんなことある?!でも中身は違うかもよ。私エンゼルクリーム」
結局中身のクリームまで一緒だった。好みが同じことより、今欲してるものが同じなのがレアで面白かった。
毎日、何が起きるかわからない。先の予定がどうなるかわからないという仕事上の理由をいいことに、何も決めていないとこういう面白い時間が生まれたりする。
分単位でギチギチに固めていた20代の私に言いたい。空白っていいよって。空白があるから「神席」みたいな空間に出会えたりするのかもしれないしね。
結局1人で行くはずだったTSUTAYAに、思いがけず人と一緒に行けて、ユージレルレじゃなかったら2度と手にしなかったかもしれないDVDを借りることができた。
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それが何の映画だったのか、今は覚えていない。数年経った今、ユージレルレは私の地元神戸でライブをする。しかも、そこで日本酒のソーダ割『ポンボール』を出してもらえることになった。
神戸の老舗ライブハウスでポンボール。
お店の方も広めたいと言ってくれて、快く協力してくださることになった。
地元の有難い繋がりを作ってくれた。ミスド以外にも様々な波長が合うユージレルレ。今回が長内とユージレルレの初コラボとなる。
ライブは12月16日(土)三宮にあるライブハウスで開催される。ユージレルレ改め#STDRUMSのドラム演奏はとても刺激的でパッション溢れるから、きっとポンボールのしゅわしゅわとの相性も抜群。
お時間合う方はぜひ、#STDRUMSの音に酔いしれてほしい。