イワシの美しさ
イワシが泳いでいるのを、見たことがあるだろうか。
ほとんどの人は「ない」と答えると思う。そりゃそうだ、イワシといえば大抵は調理後の姿で食卓に並ぶか、良くてパックづめにされた姿でスーパーに並んでいる。
水族館で「こちらがイワシです!」なんて展示されることもないし、「ペットはイワシだよ」なんてことも、もちろんない。
そんなイワシが泳ぐ姿を、今日見た。
スキューバダイビングをしたポイントで、「イワシ玉」と遭遇したのだ。
イワシ玉とは何百匹のイワシの群れが、塊となって海の中を泳いでいる光景だ。
十数センチほどであろうイワシが群れを成し、数十メートルの大群となって轟々とうごめく光景は圧巻である。
まさに小学校の時に読んだ「スイミー」現象で、ひとつの大きな生き物のように見えた。
数百匹のイワシたちは、不思議なことに皆同じ方向を向いて泳ぐ。
方向を変えるときは、タイミングを揃えて全匹がブワッと振り返る。
私達から見えるウロコの向きが変わり、黒く見えていた面がドミノのように銀色へと姿を変える。
一直線に並んで泳いでいるかと思えば、トルネードのような姿となったり、また数個のグループに分かれて五月雨式に泳いだりと、目まぐるしく様相を変えていくのだ。
特にトルネードとなったときは、知らぬ間にその渦の中心に自分がいて、まるで敵陣に囲まれたような気分だった。
右を見ても、左を見ても、前も後ろもイワシ、イワシ、イワシ。
自然の、海のスケールの大きさを感じる光景だった。
そのイワシ玉からふわふわと泳ぎながら脱出し、少し浅瀬へと移動した。
そこではイワシ達は整列はせず、一匹一匹が自由に泳ぎまわっていた。
海の浅瀬(5メートルくらい)では、水中にも太陽光が届く。
その浅瀬でも太陽光が差し込み、イワシたちの銀色の鱗にその光が反射して、至る所で小さな物体がきらめいていた。
陳腐な表現だけど、本当に宝石みたいな光り方だった。
まさか実家の食卓に並んでいた冴えないイワシが、こんなに綺麗に泳ぐなんて。
私も他のダイバーも、誰が指揮を取るでもなく進行を止めて、その光景をぽーっと眺めていた。みんな考えていたことは共通していたんじゃないかと思う。
船に上がってからイワシ玉についてあれやこれやと話した。
インストラクターさん曰く、今日は規模が小さい方だったという。大きいイワシ玉がある日は、水面がイワシで覆われて、水中が真っ暗になるんだとか。(すごい)
そんなイワシも拝まねばならない。
次のダイビング日を早く決めようと思う。