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低反発バットをどう思う?
今年も選抜高校野球が始まった。
野球好きの自分にとってはセンバツこそが春の風物詩。開幕日の今日もさっそくテレビを付けて、高校球児が躍動する姿を楽しんでいた。テレビから聞こえてくる声援、ブラスバンドの応援、選手の叫び声には胸が熱くなる。そして高校野球の代名詞でもある、あの、カキーン!という甲高い打球音…が、ない。あの金属バット特有の痛快な打球音が、今年は聞こえてこないのだ。そう、今春からの低反発バットの導入によって。
前置きはここまでにして、今回は低反発バットの是非について述べたいと思う。
結論から言うと、個人的には導入には反対だった。
それには色んな理由があるのだが、まずは低反発バットとは?というところから整理していきたい。
低反発バットとは
高校野球では2022年、2023年の移行期間を経て、2024年春から新基準の低反発バットが導入された。何が変わったのかというとこんな感じ。
新バットは最大直径が従来より3ミリ短い64ミリに縮小されました。900グラム以上の重量制限は維持しましたが、球の当たる部分を3ミリから4ミリ以上に厚くすることで反発性能を抑えました。打球の平均速度、初速がともに3%以上減少するといいます。
まあとにかく、「以前より打球が飛ばなくなった」ということだ。
その目的としては、
投手らの打球の受傷事故を防ぐことが主な目的です。高校野球では1974年に金属バットが導入されて以降、プロなどに比べて打者優位の「打高投低」が顕著となりました。01年には重さ900グラム以上、70ミリだった最大直径は67ミリに基準が変更されました。打球速度を抑えるためです。それでも科学的なトレーニングが進み、選手の筋力が発達して打球の力強さが増す傾向にありました。投手らを守るには、新たな対策を講じる必要がありました。
つまり投手を守るため、というのが1番大きいということだ。
ではここからは実際の試合をテレビで見た感想を書きたいと思う。
開幕日の3試合を見た感想
結論から言うと本当に打球が飛ばなかった。3試合を通して、外野の頭を越えるヒットは、記憶が正しければ1本しかなかった。長打になっているのは外野の間に落ちる打球だった。ヒット自体も、内野安打または一二塁間、三遊間を抜けていくゴロが多かった。
また、芯を外されて凡打になっているゴロは、球足が従来よりかなり遅いように感じた。詰まった打球なら尚更だった。これは!と思うようなフライも、伸びずに外野が楽々キャッチすることが多かった。
これは気のせいかもしれないが、バントもあまり転がっていなかったように思う。
さらには守備面でも、外野の定位置が浅いのが印象的だった。サヨナラのピンチを迎えた近江高校のレフトが、超前進守備で土と芝生の切れ目付近で守っていたのも、低反発バットだからこその大胆な策だろう。高校野球ではよくある、相手チームのスラッガーに対してフェンスギリギリまで下がるシフトはもう見られないのかもしれない。
野球が、少し変わり始めているのではないかという感想を覚えた。
その感想を踏まえたうえで、やはり低反発バット導入には反対だ。
低反発バット導入に反対の理由①
1つ目の理由は、導入による攻撃側のメリットのなさだ。シンプルに点が入らない。開幕日の3試合を通して、ランナー2塁の場面で外野がかなり前に来る場面が多く、ヒット1本での生還が難しくなっていた。得点はエラー絡みが多かった。
また、ある程度レベルが高いピッチャーにアウトコースに集められると、高校野球のストライクゾーンの広さも相まって、ヒットを打って点を取るのはどんなチームでもなかなか難しいだろう。
また考え方として、「飛ばないからこそ、体を大きくして打球を飛ばそう」となれば良いが、一発勝負のトーナメント制であり、確率を重視する日本の高校野球界は、「飛ばないからこそ、小技でつないで守って接戦を勝ち切ろう」という考え方になる可能性が高いと考える(実際に明徳義塾・馬淵監督は後者の考え方をしていた)。
そのようになると、見ていても面白くないし、なによりやっている選手側が打てなくて面白くないだろう。特に、甲子園には出てこないような弱小校の攻撃はどんなものになってしまうのだろうか。
低反発バット導入に反対の理由②
2つ目の理由は、韓国の前例だ。
韓国の高校野球では2005年から木製バットが導入されている。その結果として、強打者が育たなくなっている傾向があるのだ。
詳しくはこの記事を読んでもらいたいのだが、韓国では木製バット導入を機に、「強く振る」のではなく、「しっかり当てる」指導が増え、結果としてホームランを打てるようなバッターが育たなくなっているのではないか、という興味深い記事だ。
また、ピッチャーとしても、強く振ってこないバッターには細かいコントロールを意識せずとも抑えられてしまう。だから、ピッチャーの制球力も落ちてきているのではないか、と最近の韓国代表の野球を見ていると思う。
実際に、2009年にはWBCで何度も激闘を繰り広げ、2015年のプレミア12でも最終回までもつれる大接戦を演じた日本と韓国のライバル関係は薄れつつあり、2023年のWBCでは大差がつくまでになってしまっている。
これからの日本でプロになっていく高校球児は、はたして大丈夫なのだろうか。
低反発バット導入に反対の理由③
3つ目の理由は、点差がつかないことにより延長の試合が増え、ピッチャーの球数が増える可能性が高いからだ。
実際に開幕日の3試合のうち、2試合が延長に突入。近江高校のピッチャーは約170球を投じた。
この傾向が続くのであれば、ピッチャーの肩肘を守る風潮とは反することになるがはたしてどうだろうか。
終わりに
今回の内容はあくまでも開幕日を見ただけの感想であり、これからこの大会がどうなっていくかは分からない。そもそもセンバツは投手有利と言われ、毎年打低傾向にある。ホームランが出ないのはいつものことだ。だが、今後の高校野球界、ひいてはプロ野球界にまで、微かな不安を感じさせる開幕日でもあった。
それではまた。