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感覚過敏とASDについて

前回は視覚に対する過敏性を持ったアーレンシンドロームについて書きました。今回はその続きと言っては変ですが、感覚過敏について書いてみたいと思います!
この分野は視覚に関する研究はある程度あるのものの一貫した結果が得られておらず、どちらかと言うと神経回路が明確且つ評価法も確立されている聴覚についてのお話が多くなりそうなのでご了承ください🙇‍♂️

<感覚過敏とは!?>

感覚過敏とは病名ではなく障害特性を表す言葉です。DSM-5に改定されたASDの診断基準に含まれるもので、その中核症状の1つです。その特徴は様々で、代表的なものには視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、固有覚などにみられます。

特にASDの聴覚に関する非定型な聴覚処理特性に関しては、頻繁に報告され、聴覚過敏の頻度は、ASDの15~100%と報告される。

『神経学雑誌第120巻5号2018』


『非定型的な感覚』=感覚過敏と置き換えても良さそうです。そしてとても幅の広い数値ですが、2020年代の論文を見てみても比較的幅があります。恐らく研究対象にあたる各年齢層がバラバラで、その合計だからでしょう。

<感覚過敏とHSP、HSC>

HSPとはHigh Sensitive Person、HSCとはHigh Sensitive Childの頭文字を取った略語で、こちらは医学的用語ではなく心理学者による心理学的な定義です。エレイン・N・アーロンというアメリカの心理学者の1996年の著書に使われてから一般的に使用される様になった様です。大人の場合はHSPが用いられますが、子どもの場合はHSC(Highly Sensitive Child)と呼ばれます。
HSPおよびHSCで最も大きな誤解が、病気もしくは障害であるという認識です。前述したように、HSP(HSC)は医学的用語ではなく心理学による繊細な感受性を持つ人々を表すための定義です。HSP(HSC)は病気でも障害でもなく、その人の生まれ持った感受性や生理的な反応の強さ、性格、気質による特性です。
よってHSP(HSC)は発達障害と似ている部分も多く混同されがちですが、病気でも障害でもないため発達障害とは異なると言えるでしょう。

<ASD児の感覚の問題>

ASD児の感覚の問題の中でも感覚刺激への過反応は特によく見られる問題で、Bromleyら(2004)は、自閉症児の71%に音に対する過反応、54%に接触に対する過反応が見られたと報告しています。また、Kientz & Dunn(1997)は、ASD児の68.8%に「騒々しい音で混乱すること」68.8%に「散髪、洗顔、爪切りを嫌がること」などの過反応が見られたと報告しています。時には感覚処理の問題が偏食の問題につながっていることもあるそうです(Cermak et al., 2010)
また、感覚刺激への過反応が高頻度に見られる一方で、ASD児者には刺激に対する低反応が見られることもあります。例えば、呼ばれても振り向かないなどの問題があります。ASD当事者の記述にも「コインや蓋が回転する動きに夢中になっている時は、他には何も見えず、何も聞こえませんでした。周りの人たちも目に入りません。どんな音がしても見つめ続け、耳が聞こえない人になったかのようでした。(Grandin & Scariano, 1994)」との様に、何かに集中すると他の刺激に対して低反応状態となってしまうことが書かれています。更に「(背中など)見えないもの(背中)はない(小道, 2009)」など、目に見えない身体部位の身体認識ができないことがあるという問題も当事者から報告されています。コタツに入ると足が無いと言う様な感覚に似ています。(伝われ!)

<ASDの感覚の特徴>


用語が研究領域によって異なっていますが、一般的には【感覚過剰反応(感覚過敏)】、【感覚低反応(感覚鈍麻)】、【感覚探求】に大きく分類される事が多いです。

・感覚過剰反応

特定の感覚刺激に対して苦痛を感じたり、過度に否定的な反応を示し、そのような感覚刺激をしばしば回避したり、過度に警戒したりします。例えば、特定の衣類あるいは衣類のパーツ(タグなど))に対して触覚の過剰反応がある場合、そのような衣類を身につけることを過度に嫌がったり、落ち着かなくなったりすします。

・感覚低反応

通常は反応を示すような感覚刺激に対して気づかなかったり、反応が遅かったりします。例えば温痛覚の低反応がある場合、熱いストーブのように通常は激しい痛みをもたらすようなものを触り続け、外傷がもたらされます。

・感覚探究

特定の感覚に関する経験を強く望んだり、没頭したりします。例えば、自分の指のにおいを繰り返し嗅いだり、食べ物でないものを繰り返し口に入れたりします。


⚠️久々の自分語りですが、ぼくも小学生くらいの頃、感覚探求に似た事を繰り返しており異食をしていました。文房具を食べるのが癖になっており、鉛筆、クレヨン、クーピー、消しゴム、色々な文房具を食べていましたが、中でもフエキ糊は味が好きで好んで食べていました…何となく悪い事をしている自覚はあったので親や先生など大人の目の届かない所でコッソリやってましたが…

<神経生理学的アセスメント>

近年,神経生理学的検査を用いて定量的客観的に感覚の特徴を評価する試みが国内外で注目されている.従来より精神医学にはbio-psycho-socialmodelがあるが、わが国では生理学的・生物学的視点は医学以外の領域からはもたらされにくく、多領域連携が必要な発達障害臨床においては医学が大きく貢献できる領域の1つである。

『神経学雑誌第120巻5号2018』


この中で興味深い記述がありました。
それは【聴覚性驚愕反応】というもので

聴覚性驚愕反応(acoustic startle response :ASR)とは、突然の強い聴覚刺激により瞬目や体幹・上肢を屈曲させるような動きが喚起される全身性の反射的運動反応に加え、恐怖や不安などの情動反応や立毛筋反射・頻脈・呼吸促迫などの自律神経症状を伴う反応であり、ヒトを含む多くの動物種で観察される生理的反応である。通常ヒトでは聴覚性瞬日反射(acoustic blink reflex)における眼輪筋の筋電図を用いて評価されることが多く、これまで精神医学領域においても膨大な基礎・臨床研究の蓄積がある

『神経学雑誌第120巻5号2018』


簡単に言うと、突然のデカイ音にビックリしてビクッとするやつです。そしてそう、EMGが活用されていた様です!全く知りませんでした…恥ずかしながら少なくともぼくは眼科で習うEMGは外眼筋の動きのみで、DuaneやMGのみに活用されると思っていました…本当に狭い世界に生きているんだなぁと痛感したのです😭

聴覚過敏


またまた話が逸れていきましたが、この論文によると微弱な刺激に対するASRの反応の増大やピークの潜時の延長など、ASRの基本的なプロフィールが ASD 診断や自閉症特性と関連することが報告されたそうです。
このASRを用いてASD児と定型発達児で各dBの反応を比較したところ、ASD児の63%が80dB以上の音圧に耐えられなかったそうです。
80dBと言うと電車の車内の音や布団叩き、雀牌をかき混ぜる音と出てくるので、聴覚に過敏性があるASD児は電車に乗る事さえも相当な苦痛とストレスが予想されます。

<その他の過敏>

・味覚過敏、嗅覚過敏

食べ物やにおいがあるものに対して過敏の状態を示します。栄養が偏るからと無理に食べさせると、食事自体に楽しみを感じることができず、より食事が限定される可能性があります。無理に食べさせるのではなく、食べられるものもしくは好きなものを食べてもらい、食事に楽しさを感じてもらうようにすると良い様です。
また、年齢を重ねていくうちに他の人がおいしそうに食べているのを見て自分も食べるなど、偏食が少なくなっていくこともある様です

嗅覚過敏

・触覚過敏

人から触られたり、特定の感触が苦手だったりします。また、食感や温度など食べ物に関する困りを生じる場合もあります。ぼくはボディタッチがかなり苦手で、我が子でさえ手を繋いで歩くのが割とストレスです…ごめんよ…娘…

触覚過敏

・前庭覚の過敏

激しく動くことや自分が動かされる状況を嫌がり乗り物酔いを起こしやすい様です。また滑り台やブランコ、高い高いなどの遊びが嫌いなど、五感以外にも見られる様です。

・視覚過敏

光や色、物の動きなどに対して過敏の状態を示します。感覚過敏の中でも特に視覚過敏は気づきにくいと思われます。理由として、聴覚過敏は不快刺激(大きな音が鳴るなど)の起こったすぐ後に先程のASR等反応があるのに対して、視覚過敏は蛍光灯のある部屋や直射日光が当たる場所など不快刺激が続いている状況の中で反応を示すことが多いと言われているからです。
そのため、視覚過敏は気を付けて見ないと気づきにくいので注意が必要です。
この辺りは前回のアーレンシンドロームにも関係してきそうです。


<眼科でできること>

まず、どの感覚に関しても共通して言えることは「不安を軽減する」ことです。子どもに不安があると、それに伴って感覚過敏の症状が出てくる場合があります。そのため感覚過敏の最も大事な対策として不安を軽減することが挙げられます。
具体的には[見通しを伝える]事と[モノを使う]事と[不快刺激から逃げる場を用意する]事です。

[見通しを伝える]

視覚的支援として絵や写真などで検査の予定を伝えたり、手順を視覚的に示すことが挙げられます。例えば、どのような手順で進んでいくのかを絵や文字に書いて示したり、何分後に終わるのか、何から何までなのかなどを示すことで見通しを持たせることができ、安心感につながります。これについてはまた改めて具体的な事を書きたいと思います!

[モノを使う]

光が眩しいと感じるときはサングラスや色遮光眼鏡、帽子、サンバイザーなどをつけることが効果的です。真っ白な紙がまぶしいときには、色付きの透明下敷きを重ねたり、アーレンシンドロームの時の様に複数のカラーのクリアファイルを重ねてみたり等でしょうか。

[不快刺激から逃げる場を用意する]

遮光カーテンや間接照明を使用したり、インテリアはシンプルな色に統一するなどで身の回りの刺激を減らすといいでしょう。なかなか院内の設備をガラッと変えるのは難しいかもしれませんが、ぼくの常勤先では意外とこの辺の配慮がなされております。偶然でしょうが…
近年では東京オリンピックを契機に空港や学校等の聴覚刺激や視覚刺激が多い場所に【カームダウンボックス】という避難スペースも設置されてきています。クリニックや病院にこれを作るのは至難の業ですが、普段使わない部屋等を応用して、これに似た作用を持たせる事はできるかもしれません。

カームダウンボックスのピクトグラム


<終わりに>

今回は眼科的なお話よりも聴覚についての事が多くなってしまいましたが、少しでもASDと感覚過敏の関係性について知ってもらえたら有難いです。その特性に関する知識を活かして初めてASD、ひいては発達障害全般の眼科検査に応用できると思っています。眼科での具体的な手法は今後まとめて書いてみようと思いますので、ご興味のある奇特な方は気長にお待ち下さい🙇‍♂️
ではまた👻

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