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『あらわれない世界』№12

「これはレプリカだよ」

笑いながら小野さんが仮面の向こうに現れた。猫さん達がいぶかしげに警戒するも、小野さんは照れくさそうに笑っている。

「結局、出稼ぎ旅になっちゃったよ」

唐突に庭に降りてきた小野さんが、お偉いさんに挨拶をする。猫さんがお茶を差し出すと、小野さんは美味しそうに飲み干して、ふぅとひと息ため息をつく。お偉いさんは、平然とお茶を出す猫さんの様子を見て、動物病院に連れてゆく様な症状ではないのだろうかと、荷造りの手を止めた。

「調べ物をしてるうちに企画展が始まって、人手不足だったからついでに手伝っちゃったよ」

しばらく談笑して、猫さんが気にしていたトンボのおやじの行方をたずねてみると、おやじは無事に持斎の任を解かれて、自由の身になったそうだった。そして何より驚いたのは、身なりこそみすぼらしいおやじだったが、彼は古代の高貴な身分の若皇子だった。

若皇子は当時政治的な企てにより、いわれのない罪に問われ流罪となった。散々流された海の先で、偶然とある船に引き上げられた。そこでおやじは、船代の代わりとして持斎の任を受けるのだが、その船は難破船で、必ず同じ時間、同じ場所、同じ原因の遭難を何度も繰り返していた。その都度、おやじは同じ場所から何千年も持斎の役割として、うつろ船で繰り返し地上に流されていた。

「いわゆるバグみたいなものかね」

興味津々で聞いていたお偉いさんの質問に、お茶をおかわりした小野さんは頷いた。

「君はどうやってそのループを解いたんだい?」

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