◆読書日記.《ジョージ秋山『銭ゲバ』上下巻》
※本稿は某SNSに2019年9月6日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
ジョージ秋山『銭ゲバ』上下巻読みました!
<あらすじ>
厳しかった父は自分と母を捨て、ホステスと駆け落ちした。
母は貧乏ながらも一生懸命自分を育てたが、やがて病気がちになり、医者から薬を買う事もできずに病死した。
「かあちゃんは銭があったら死ななかったズラ!」
――蒲郡風太郎が「銭ゲバ」へと変貌したのはこの時だった。
怒りのあまり衝動的に風太郎はお金持ちの車から現金を盗み出してしまう。
それを見かけた風太郎の兄が「ひとのものはとってはいけない」と咎めるが、風太郎はその兄さえも衝動的に殺してしまった。
「銭がほしいズラ」
「銭のためににいちゃんを殺してしまったズラ」
「もう銭のためにいきるズラ」
「銭のためならなんでもするズラ」
――風太郎は上京し、金持ちに取り入り、騙し、陥れ、蹴落とし、邪魔者をありとあらゆる手段を駆使して排除する。
人殺しまで厭わずに成り上がり、「銭」を求める彼はまさしく「銭ゲバ」だった。……これは怒りのあまり「銭ゲバ」となった一人の男の生涯を描いたピカレスク・ロマン。
<感想>
上巻のはじめたの辺りは結構ベタベタなお涙頂戴的なドラマが展開する。
ギャンブル依存で子供と母親に暴力を振るう父が他の女と蒸発、シングルマザー、そのうえ学校では不良のパシリとしてこき使われてバカにされている。
これは、いかにもどこかのドラマにありそうな「不幸な少年時代」のパターンではなかろうか。
このドラマは後半になるに従って圧力が増してくる。
彼が大企業の社長になるまではさほど時間がかからなかった。
そこから、蒲郡風太郎を陥れようとする有象無象が現れて来る。
風太郎の過去の犯罪を追う警官、風太郎の会社の工場から出る産業排水によって病気にかかった市民らの批判の声、政治上の敵対者などなど。
成りあがって多くの銭を得てさえ風太郎の敵はなくならない。
社長として運転手付きのハイヤーで移動し、金で女を囲い、政治家に賄賂を与えて味方に付け、自らも政治家として成功をおさめ、成りあがっていけばいくほど、ますます彼の周りには憎悪が増し、彼の戦いは泥沼化し、彼はますます孤独になっていくのだ。
彼は単なる「クズ野郎」ではないし、単なる「銭ゲバ」でもない。
彼は「復讐者」なのだ。
金が無いという理由で母の病気を治せず殺してしまった世間に対する、蒲郡風太郎の復讐なのだ。
風太郎は自らを「銭ゲバ」と称して金に執着していはするものの、同時に金銭を憎悪していたのは間違いないだろう。
何しろ、母を殺した原因のひとつが他でもない「金」の問題だったからだ。
だからこそ彼は、自らが「金を扱う者」となり、「金を欲しがる者たち」に醜い復讐を行っていたのだろう。
ラストの直前、舞い上がる金の中「ほしいものはみんな手にはいったズラ」と言う風太郎の背景が真っ黒に塗りつぶされているのは何故なのか?
彼がその生涯を終えるとき、どのような事を思ったのか。
「てめえたちゃみんな銭ゲバと同じだ」という衝撃的な独白文が、けっきょく彼の人生が「間違った選択の連続であった」と言う事を強烈に示しているのではないかと思うのだ。
いやー、それにしてもこういうムチャクチャ根暗な話、すごく好きなんだよなぁ(´ω`)
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