◆読書日記.《今日マチ子『ニンフ』》
※本稿は某SNSに2020年1月17日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
今日マチ子さんの長編コミック『ニンフ』読みましたよ~♪
<あらすじ>
関東大震災によって戦災孤児となってしまった「ユキ」はある時、実業家の男に拾われて「マリア」という名を付けられて、その男の娘として豪奢なお屋敷に住む事となる。
綺麗な服、洋風のお料理、使用人のいる生活、両親の愛。
だが――この家族はどこか歪んでいた。
長男の進太郎は政治集会で過激な発言をし、次男の清次郎は病弱な男だった。
気の強い長女の百合子は、マリアの事を「ペットだ」と表現した。
そして、母親の事は「人形」だと……。
この家族と暮らすうち、マリアの腹が膨れだした。
「マリア、あなた――」「妊娠してるんじゃなくって?」……というお話。
<感想>
今日マチ子の画風の特徴は、非常にふわふわとした線にある。
定規を一切使わないので、コマの枠線も、建物も、家具や道具なども全てフリーハンドで描かれている。
定規を使った正確な直線は「人工的」な線だ。
それに対して全てフリーハンドで描くと、線はランダムにブレて「人の手の動き」を表す。人肌の線だ。
つまり、人の温かみが感じられる線なのである。
また、劇画的に細かいタッチを付けないので、埃や汚れやシミなど質感が”飛び"、汚れや汚さを感じさせない絵本のような無菌室な絵柄となる。
これは、とても柔らかくてリリカルな絵柄だ。とてもやさしい。
だが、この物語は陰鬱で、かなり不気味な雰囲気が始終漂っている。この絵柄の世界観の中に、この不穏な空気感が流れ出てくるので、余計そのギャップにどきりとさせられる。
どろどろとした人間の生々しい「歪み」が出ているのだが、この絵柄の柔らかさで、それが幾分マシに見えるし、また逆に痛々しくも映る。
また、今日マチ子さんの演出は、わかりやすい少年漫画のように直接的に説明はしない。
間接的にほのめかせ、「何かがおかしい」事を遠まわしに囁いてくる。
一見、愛に溢れた仲の良い一家のようにも見えた富豪の家族が、だんだんと不穏な空気を纏い始める。
主人公「マリア=ユキ」には、中身がない。
性格と言えそうな性格がなく、強い意志もなく周囲の流れに身を任せている空っぽな存在だ。
その彼女の中核であった父も、母も、そして「赤ちゃん」さえも震災で失われた。
彼女が「ニンフ=妊婦」となったのは、そういう「空っぽの存在」だからこその「中心」を求めていたからなのかもしれない。
面白いですね、この今日マチ子さん。色々と象徴的な表現を使ってこぎれいにまとめた佳品と思いました♪
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