◆読書日記.《町田洋『惑星9の休日』》
※本稿は某SNSに2020年1月27日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作家、という超ドマイナーなマンガ家・町田洋のSF連作短編集『惑星9の休日』読みましたよ~♪
<あらすじ>
辺境にある砂ばかりの田舎星「惑星9」。そこでは大してぼくたち地球人と変わらない生活水準の――だが幾分のんきな人たちが、それぞれ小さなドラマを抱えて暮らしていた。……というお話。同じ世界観を共有するSF連作短編集。
<感想>
SFではあるが、いわゆるSF的なガジェットはほとんど出てこない。
何しろ、第2話『UTOPIA』なんかは映画のフィルム倉庫を管理する男性のお話ってくらい。
立体映像でも大容量メモリでもなく、アナログな「フィルム」が現役で使われているあたり、全く「未来」感のない世界観である。
また、この星の小説は未だに「原稿用紙」で物語を綴っているし、ニュースは「ラジオ」で聞くし、モバイル端末らしきものさえ出てこない。
かと思えば5話『それはどこかへ行った』では「半重力装置」を開発する科学者が出て来る。
でも、人びとの生活水準は地球人のぼくらが見てもどこか「懐かしい」と思えるレベル。
つまり、さほど生活レベルはわれわれと変わらない(むしろ昭和くらいのレトロな感じ)、時々「地球ではない惑星」のお話だと分かる程度の、どこか遠い町のお話。
戦争があるわけでもなく、深刻な経済問題や治安問題、公害問題等、科学や政治にまつわる深刻な問題など一向に無縁なように見える田舎の辺境星のささやかな物語。
そういうノンビリとした雰囲気に、ホッとしたものを感じるのだろう。わりと癒し系だ。
このマンガ家さんは、わりと珍しい画風をしている。
カクカクとしていて、昨今のマンガと比べて、更に線がシンプル。
6話に出て来るキャラクターなんかは、シンプルすぎて既にピクトグラムのような感じにまでなってしまっている(笑)。
ポスターだったり、一枚絵だったら「デザイン」として通るだろうが、漫画としてならあまりに「動かない」絵になってしまっている。
上で「ピクトグラム」と言ったように、この人の画風はマンガと言うよりはデザインチックなのだ。
だが、この「動かない」画風がこのマンガの不思議な空気間を出しているから、これも一概に欠点とまでは言えず、あるいは「個性」と評しても良いだろう。
絵がなかなか動かないからこそ、絵本のような妙なテンポになっている。
それがこのマンガを取り巻くゆったりとした空気感を醸し出していて、物語の雰囲気と相まって「ホッとした感じ」になっているのだろう。意想外に感じの良い作品集だった。