はんぶんこっ!
「みんなで遊ぶおもちゃだから、全部使うよりも、はんぶんこにしたほうが一緒に楽しく遊べるかもしれないよ?ね?はんぶんこっ!」
「はんぶんこっ!」
「そう!上手に言えたね。じゃあ、貸してくれたからありがとうって言ってみよう!」
「あぁーと!」
「すごいよ!『貸して』『ありがとう』が言えたね。えらい!じゃあ、はんぶんこしたおもちゃで一緒にあそぼ!」
そう言うと子どもたちは、さっきまで泣きながら怒っていたにも関わらず、楽しそうに遊び始めました。そして、遊びの中で何度も「はんぶんこっ!」と言いながら、オモチャを分けて、 仲良く遊ぶようになったのです。
今私が勤務しているところは、0、1、2歳児が通う乳児園です。乳児だけの異年齢保育は、幼児とはまた違った難しさがあると、この園に来てから強く感じるようになりました。
年齢はもちろん、言葉や理解、成長のスピードに加え体の大きさもたった一年でも大きな違いが見えてくるのが乳児さんです。
たった数年しか生きていないけれど、しっかりと自我が芽生え、イヤイヤ期もやってきて、自分の思いがあるのに上手に言葉にできないから手が出てしまうこともある。そんな難しい乳児さんの園でワタシは働いています。
乳児さんは特に、言葉で言えないことが多いからこそ、保育士が間に入り、何度も何度も言葉で知らせていかなければなりません。
トラブルを自分たちで解決することも、もちろんできないからこそ、子どもたちそれぞれの思いをなんとか汲み取って、気持ちに寄り添う必要があります。
だから、どれだけ些細なことでも、たとえ全てを理解できなくても、態度と言葉で伝え続けていかなければならないのです。
この時期になると園生活にも慣れて、自分の思いが強くなり、トラブルだって多くなってくる。だからこそ、保育士は幼児さんとはまた違った細やかさと寄り添いをしながら、関わりを深めていく必要があるのです。
幼児さんでは当たり前に「貸して」「ちょっと待っててね」だったり、「いいよ」と貸し借りを自然とすることができるのですが、乳児さんにはそれがまだ難しいことがあります。
だからワタシは、毎日の生活の中で何度も「はんぶんこ」という言葉を使い、目の前にあるオモチャを実際に分けながら「はんぶんこっ!はんぶんっこ!」と歌いながら伝えるようにしてきました。
初めの頃は、「いやァァァァァァ」と泣いてしまう子もいれば、半分にしたオモチャを取り返しにいく子もいます。また「今は使っているから、また後でね」と話しても、同じように泣くか、怒るか、その場を放棄して現実逃避する子もいるんです。笑
ものすごく難しことだけれど、お友だちという存在を知り、そして同じオモチャを全部使ってしまうのではなく、一緒に使うことの大切さを知らせることもまた、私たちの腕の見せ所のような気がするのです。
泣かれれ
ばワタシも内心(あぁ・・・ごめんね)という気持ちになることもありますが、その小さな積み重ねがあったからこそ、少しずつ集団生活の中で、そして人との関わりの中での大切なことを知っていけるような気がするのです。
そして10月に差し掛かろうとしている今、子どもたちは「はんぶんこだよ」と伝えると、「はんぶんこっ🎵はんぶんこっ🎵」と歌いながらお友だちにも貸してあげるという優しい気持ちが育ち始めているのです。
一対一の関わりの中では好きなものも好きなことも、ある程度のわがままも聞いてあげることができる。けれども、保育園という集団生活の中では、好きなことをしている子がいれば、その反対に我慢をしている子も出てきてしまうのです。
大切なことを伝えずに「いいよいいよ」とわがままを通してしまえば、子どもたちの中にある自我は芽生えても、優しさの心は育つ機会が奪われてしまうのです。
たかが「はんぶんこ」されど「はんぶんこ」。
簡単に見えて乳児さんにとっては実に難しいオモチャの貸し借りは、優しさの種を思いやりの花に変える大チャンスでもあります。
だからこそ、私たちは全ての子どもたちに寄り添いながら、時には厳しく、時には寄り添い、保護者の方と同じ目線に立ちながら愛情を注ぎ続けているのです。
「オモチャを全部使いたかったの?そっか・・・。でもね、お友だちも使いたかったんだって。いっぱいあるから、少しだけはんぶんこできるかな?」
「うん。いいよ」
「ありがとう。じゃあ、一緒にはんぶんこしよっか!」
「はんぶんこっ🎵はんぶんこっ🎵」
「すごい!おもちゃを貸してくれてありがとう。じゃあ、貸してくれたから今度はありがとうって言えるかな?そうだ!一緒に行ってみようっか」
「あぁーと!」
「すごーい!これでもっと楽しくおもちゃで遊べるね。今度は一緒に何を作ろうかなぁ?」
「チェーキ!」
「よし!大きな大きなケーキを作ろう!!」
こうしてワタシは今日も仲介役として、そして褒めのプロとして、あらゆるトラブルに潜む優しさの種に水をあげる仕事をし続けていくのです。