レンタル 18
私が東京に上京した日の事。
東京に向けて走る電車に揺られる私は、
期待と不安が入り混じった複雑な心境であった。
リュックには着替えと少量の食料。
そして椎名舞主演の「いとしのエンジェルパイ」というAVが入っていた。
これは、上京祝いとして友人から授かったものだった。
ジャケットを見る限りモザイクの濃そうな旧タイプAVなのだが、
せっかくの友人からの贈り物。
ありがたく拝受した。
新居のある最寄り駅に下車するとこれからお世話になる街を
ひとつひとつ確認するように、ゆっくりと歩いた。
ふと、あるビルの2階部分に目をむけるとレンタルビデオ店があった。
都会には似つかわしくないこじんまりとしたお店だった。
私は今日は予定がないので、街の散策後に家でまったりとDVDでも見ようと考え、レンタルビデオ店へと足を運んだ。
無機質なコンクリート作りの壁を横目に階段をのぼると、
お店の入口に貼られたハリウッドスターのポスターが現れた。
私にはそれが、今後の東京生活が晴れやかになることを
暗示しているような気がした。
そして入店し間も無く、レジ横を通り過ぎようとした時だった。
「ピーッ!ピーッ!」
何かが、鳴った。
私は音に驚き、その場に立ち竦んでしまった。
すると奥から30歳前後と思われる男性店員が駆け寄ってきた。
私は意味が分からずその場に立ち竦んだまま。
「すみません。お客様。鞄の中を確認させていただけないでしょうか?」
「へ、へぇっ?」
「いえ、万引き防止用のセンサーが反応しましたので」
周りからは何事かと、野次馬が集まりだしてきていた。
私は、突然の事に何も考えられず言われるがまま店員にリュックを差し出した。
「あっ!」
気づいた時には遅かった。
天に掲げられた「いとしのエンジェルパイ」を見上げた時、
事態を飲み込み自身の体から血の気が引いていくのが分かった。
「ふむ。お客様これは?」
「えっあっあのっ。…ぼ、僕の友人、いやぼ、僕のです」
(そんなに高々と持ち上げないで!)
「そうですか。念の為、確認させて頂いてもよろしいですか?」
「は、は、はああい」
気が動転している私は、定員に忍従するしかなかった。
定員はレジへ行くと、なにやら店舗商品群のposデータと
私の「いとしのエンジェルパイ」を照らし合わせていた。
シティボーイ&ガールから注がれれる冷たい視線。
さらし者にされている私にとって、この時間は永遠に感じられた。
「お客様。誠に申し訳ございません。
当店にはいとしのエンジェルパイという作品タイトルは扱っておりませんでした。しかし、このような誤解が生まれるといけませんので、
以後、ビデオ・DVD類はお持込されないようお願いいたします。」
彼はそう告げると元の作業場所へと戻っていった。
私は「いとしのエンジェルパイ」を握り締め、泪を流しながら走る他無かった。
私は東京の洗礼を受けた。
東京は怖い街だ。
東京はエロビデオも持ち込ませてくれない冷たい街だ。
その日は新居に着くや否や布団を被り枕を濡らした。
結局レンタルビデオ店へ再度足を踏み入れるのに、1ヶ月の時間を要した。
今度は誤解を受けぬよう手ぶらで行った。
そして、椎名舞の「女尻」というAVを借りた。
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