キッチンの真ん中で、ぶりっ子になる
先日、人生で初めてイカをさばいた。
仲良くしている弁当屋のお母さんが、市場でたくさん仕入れたからとお裾分けしてくれたのだ。
いただいたのはマグロの切り身2切れと、生イカ2杯。マグロはソテーに、イカはお刺身にしてもいいそうだ。
新鮮な市場の魚。マグロは焼くとして、イカはどうする?
お刺身もいいけど、夫はお腹がよわく寄生虫も気になる。結局、東北旅行で購入した「なみえ焼きそば」と一緒に、イカ焼きそばにして食べることにした。
◇
「腹へった。メシ作るぞー」
食事の準備をしていると、風呂上がりの夫がキッチンへやってくる。そして「ここからは俺が料理するから、おりちゃはイカさばいて。」
へっ? わたし、イカをさばいたことないんだけど。
「大丈夫、YouTube見ればわかる。」ニヤッと笑い、夫は冷蔵庫を開けた。
わたしはタブレットで「イカのさばき方」と検索し、表示された動画を開く。ふむふむ、思ったよりも簡単そうだ。
◇
手順を頭に入れ、さっそく下ごしらえを始める。
まずイカを洗い、キッチンペーパーで水気を取ってから、胴とゲソの部分に分ける。
左手で頭をそっと押さえ、右手で胴に指をかける。イカはむにむにと柔らかく、ひっぱる加減が難しい。ゆっくり力を入れると胴の奥から肝がにゅる〜っと出てきた。おお、動画とおんなじでテンションが上がる。
次にゲソと肝を切り離す。ここまではいたってスムーズだ。
ただ、目を取るのに難儀した。切れ目を入れて、指で取り出す。…のだが、滑って思うように包丁が入らない。
一方、お腹を空かせた夫はサラダやグラスをテキパキとテーブルへ運んでいる。焼きそば用のキャベツにも火を通し、あとはイカ待ち。
「はよ、はよ。」急かす声が低い。
わかってるって。
慌てると、余計うまくいかない。指で押し出そうとするたびに動く黒目。ああ、出そうで出ない。というか、出てきて欲しくない…(謎)
しばらく我慢していたが、たまらなくなって、その場で足踏みしながらわたしは叫んだ。
「ひゃあ~っ! 目が取れなあい!」
けして、ぶりっ子したわけではない。なのに夫はイラっとした顔で
「いい歳したおばさんが、大騒ぎするんじゃない。」とぴしゃり。
うん? 聞き捨てならないワードが出てきたような…。けれど、いかんせん余裕がない。
「だったら、やってくれない?」とお願いすると「俺は焼きそば係だから。」と涼しい顔。
ふん。「俺が代わるよ。」て言ってくれたら、ちっとは見直すのにさ。こうなったら、やるしかない。「うへっ」「ひやっ」おかしな声を出しながら、なんとか目玉を取ることができた。
ここからは早い。
ゲソの中央にあるくちばしを内側から押しだす。そして、ゲソをしごいて吸盤の硬い部分を取る。
次に胴の部分。細長い軟骨を引っ張り出す。そしてエンペラ(三角の部分)と胴の間に指を入れて、エンペラと皮を剥がす。皮は濡れたキッチンペーパーを使うと、きれいにとれた。最後にしっかり洗って完了。それを繰り返す。
そしてようやく2杯完了。やった~! と喜んだのもつかの間、夫がササっと登場した。
「お、上手くできたじゃん。」おもむろにイカをまな板に置き、嬉しそうに包丁を入れた。
…いいところだけ持っていったな。
夫にカットされたイカはフライパンに投げ込まれ、こんがりと焼き色がついてゆく。そして、うどんのような太麺と絡まって、こうばしいソースの匂いがする。
「おりちゃ、よそって。」と箸を渡される。
作るのは好き、でも片付けとか面倒なことはキライ。夫はどこまでも俺様だ。はいはい。
◇
「いただきまーす!」
夫が作ったマグロのソテーは和風の味付け。脂がのって、とろーりほろほろ、ほんのりお酒の香りがして美味しかった。
そして、なみえ焼きそば。
もちもちした太麺と一緒にイカを食べてみる。
わ、やわらかい! ふっくらとしていて、簡単に噛み切れる。ゲソもぱくりと口に入れる。コリコリとして、噛むごとに磯の香りが鼻から抜けてゆく。うーん、豪華な焼きそば。
「おいしーね。」「うん、うまい。」
年甲斐もなく大騒ぎしたことも、夫の言葉にちょっとイラッとしたことも吹き飛ぶほど、美味しくできた。
初めてのことに挑戦して、出来るようになるとうれしい。またひとつ自信がついた。
よし、次はクールにさばくぞ。
🦑 🦑 🦑
最後までお読みいただきありがとうございました。
みなさんはどうやってイカをさばきますか。コツ(とくに目)がありましたら、教えてくださいね(*´▽`*)