ひとつの勝利をかけた熱い戦い JFA第20回全日本女子フットサル選手権大会・決勝レポート
JFA第20回全日本女子フットサル選手権大会の決勝を観戦してきた。
初めて目にした女子フットサルの世界。ひと言で言えば、とてもエキサイティングで、感動した。
まだJリーグもプロ野球もシーズンインしていない。けれど、すでに2024年のベストマッチかもしれないくらい。
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大会は2月10日(土)から12日(月・祝)の3日間、栃木県総合運動公園内にある日環アリーナ栃木で開催された。
地元宇都宮。散歩コースのひとつでもある日環アリーナ栃木は、2022いちご一会とちぎ国体の会場にもなった、新しいスポーツ施設だ。
なんと全試合入場無料。
エントランスを入ると、大きなトーナメント表が掲示されていた。
出場チームは全部で16。男子フットサルリーグ(以下Fリーグ)で馴染みのあるチーム名もいくつかあった。
トーナメント表には高校チームもある。高校生もトップチームもカテゴリは関係ない。皆が日本一をめざす、なんて夢がある大会なのだろう。
臨場感のあるアリーナ席
会場に到着すると3位決定戦が行われていた。
選手たちとの距離が近い。観客席から見下ろすとすぐそばにゴールポストがあり、サポーターの声援とともに選手たちの声もよく聞こえてくる。
3位決定戦は数分間の観戦だったが、水色のユニフォームのアルコ神戸(女子フットサルリーグ3位)は隙がなく、よく統率されている印象だった。オレンジ色のユニフォームのS.Lダスペードも溌溂とプレーしていて、ゴールへ向かう強い気持ちが伝わってきた。
試合後には3位表彰式が行われ、会場はシーズンを締めくくる和やかな空気が漂っていた。
驚き! 目の覚めるようなシュート
一時間ほどの休憩をはさみ、いよいよバルドラール浦安ラス・ボニータスとSWHレディース西宮の決勝戦。
試合前のウォーミングアップで、心底おどろいてしまった。
ずぎゅーん!
どかーん!
横パスを受けてシュート練習をする選手のなかに、ひときわ強烈なシュートを決めまくる選手がいた。
前に座っていた若い方々も彼女がシュートを決めたとたん、下を向いていた。きっと彼らも「えぐい…笑」と思ったにちがいない。だって小さなゴールの上のいちばん隅に、ギュイーンて音がしそうなほど、ボールがネットに突き刺さるんだもの。
正直、男子F2リーグよりずっと迫力がある。「やばい、あの選手は誰?」
食い気味に調べると、彼女はSWHレディース西宮の江川 涼選手。なんでも2023シーズンのリーグ得点王で、女子フットサル日本代表選手だという。
納得した。華やかで、かわいくて、パワフル。試合前にすっかり江川選手のファンになってしまった。
決勝戦で対戦するのは、女子フットサルリーグの今シーズンの優勝チームと2位のチームで、直近の試合でも5対5で引き分けていた。まさに国内トップレベルのカードのよう。
聞き慣れた天皇杯のアンセムに、ワクワクも最高潮!
個性豊かな選手たち
フットサルは1チーム5人で行われる。試合時間は20分×2本。バスケットボールと同じく、プレーイングタイム(ボールがピッチの外に出たり、ファウルがあった場合は時計が止められる)で実施される。選手は試合中に自由に入れ替わることができ、攻守の展開が目まぐるしく変わる競技だ。
キックオフ。
両チームともプレースピードが速い。パス、判断、ダッシュ、選手たちはコート内を縦横無尽に走りまわる。
試合が進むうちに、チームや選手の特徴がなんとなく見えてくる。
赤色のユニフォーム、バルドラール浦安ラス・ボニータスは、どの選手も足元がうまくてプレーが組織だっている。強豪ならではの完成度の高いチームに感じた。
一方の白色のユニフォームSWHレディース西宮は、ひとりひとりの個が強い。よく走り、攻守の切り替えがはっきりしている。
手に汗握る展開
試合は終始、浦安がリードを奪って西宮が追いつくという、ヒリヒリとしたゲーム展開になった。
第2ピリオドはほぼ浦安ペースであったものの、西宮も懸命な守備でなんとか食らいつく。浦安は焦りからかファウルが増えていた。
そして第2ピリオド終了間際。一点を追う西宮が怒涛の攻撃をしかけると、残り59秒で浦安の選手が累積6つ目の痛恨のファウル。これにより西宮が第2PKを獲得した。
キッカーは40番の斉下選手。キーパーが前に出てきたところをゴール右に決めて(しかもカーブがかかっていた)同点に持ち込んで、試合は延長戦へ突入。
ひたむきなプレー
両チームとも決定的な場面があったが、なかなかゴールが決まらない。とくに西宮の選手たちの、倒れこんだあともなお足を伸ばしてゴールを守ろうとする姿に、勝利への執念を感じた。ああ普段応援しているJリーグチームの選手もこのくらいガッツがあったら、と思ったのはここだけの話。
延長戦でも決まらず、試合はPK戦となった。
「ここまできたら、自分たちらしく楽しもう!」そんなふうにキャプテンが声をかけ、明るい表情だった西宮の選手たち。一方の浦安は、すこし悲壮感が漂っていたようにおもう。
最初のキッカーは、ウォーミングアップでファンになった江川選手だった。
ホイッスルの合図のあと、左上隅に躊躇いなくズドーンと決めた。おそろしくメンタルが強い。緊迫した場面だったが、夫はシュートを見て「すご」と笑っていた。
互いに譲らずPKを成功させていたが、浦安の4人目のシュートは枠を弾いてしまう。そして西宮の選手がゴールを落ち着いてゴールを決めて3-5。優勝を決めた。
きゃーきゃー泣き笑いの選手たち。最後まであきらめず、攻守にわたって全員が体を張った、西宮の粘り勝ちだった。
すばやいパスワークとデザインされたセットプレーを披露してくれた浦安の選手たち。とにかく足元がみんな上手かった。
わたしはJリーグが好きでよくスタジアムへ行く。フットサルもFリーグから代表戦と、たぶん観ているほうだと思う。
でも正直言って、女子フットサルのレベルがこんなに高いとは知らなかった。勝利を目指し、ひたむきにプレーする選手たちの姿に、胸をうたれた。
いいね、女子フットサル。
来シーズンはリーグ戦を観に行ってみよう。またひとつ応援したいスポーツと選手が増えた。
そして無性にボールが蹴りたくなった。
倉庫の奥でぺちゃんこになっていたサッカーボールの空気を入れた。
ハイライト動画
一度みてほしい。ボールや選手の動きが目まぐるしいから。